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あまりにノーテンキな安倍官邸の「中国防空識別圏」対応(イッシン山口)

中国が11月23日に尖閣諸島周辺を含む東シナ海の公海上を「防空識別圏」に定めたと発表し、直後に米国が中国をあなどるかのようにB52戦略爆撃機2機を事前通告なしに侵入させた。中国側はなすすべもなく見守るだけだった。米軍は今後も中国の要請を無視して軍用機を飛ばす意向だ。

これに対して安倍官邸は、「やっぱり米国は日本の味方だった。尖閣有事の際に米軍が駆けつけてくれることが証明された」と狂喜乱舞したという。あまりに単純過ぎる、オメデタイ反応と追わざるを得ない。

米国はこれまで尖閣諸島の“領土問題”については、日中間の問題だとして中立の立場を貫く一方で、(日本の実効支配が続く限り)日米安保条約の対象地域であると繰り返してきた。今回はさらに一歩踏み込み、ヘーゲル国防長官が、日中が戦争になったら日本に軍事的に味方すると表明し、中国の識別権設定を非難していた。

そこへ、言葉だけでなく実際に、しかも核爆弾を装備できるB52を飛ばしてくれたのだから、安倍晋三首相らが狂喜する気持ちはわかる。だが、米国が本気で「日本のために」中国と対峙する気があるかといえば甚だ疑問だ。

よく言われることではあるが、米国にとっての最大の弱みは、中国が世界最大の米国債の保有者であるという事実だ。言葉を換えれば中国は、米国の経済覇権の帰趨を握っているということである。軍事的には米国が中国を圧倒しているとしても、経済の首根っこをつかんでいるのは中国側だということなのだ。

その中国に対して米国が本気でコトを構える気がないことは、ちょっと頭を使えば誰にでもわかる。

米国は中国に対しては二枚腰、三枚腰、敵なのか味方なのか、あえてハッキリさせない戦略をとり続けてきた。あえていえば、日本に対しては軍事費の肩代わりをしてもらっている関係上、平時には最大限のサービスはするが、それ以上でもそれ以下でもないということなのだ。それは中国側も十分に理解している。

事実、防空識別圏問題で米国がB52を飛ばして中国を侮辱しても、中国も米国も、今週予定されているバイデン米副大統領の訪中を取りやめることはしていない。

米国はまた、自国の民間航空会社に対して中国の防空識別圏を飛ぶ場合は、中国当局へ飛行計画を出すよう指導している。

日本の航空会社がノータム(各国の航空当局が出す注意喚起)の情報に基づき飛行計画を出したところ、官邸が「官民が一体となって対応すべきときに何をやっているんだ」と激怒したことと対照的だ。

米軍はすでに中国人民解放軍と合同で人道支援・災害救助の訓練を実施したり、軍艦の相互訪問を行ったりしている。それどころか、中国海軍は来年夏にハワイ周辺で米海軍が主催する合同演習「リムパック」への参加表明さえしているのだ。

安倍政権はこうした世界情勢の変化に対応できていない。いつまでも旧冷戦時代の世界観でいると必ず足元をすくわれることになるだろう。

【DNBオリジナル】