従軍慰安婦問題、朴槿恵大統領は対日批判を慎むべきだ(辺 真一)
朴槿恵大統領の訪米(5月)、訪中(6月)に続く訪欧(11月)での相次ぐ対日批判発言。そして中国が同意したハルピン駅前の安重根石碑設置の動きはすべて、従軍慰安婦問題をめぐる日本の対応への不満から端を発しているようだ。
朴槿恵政権は、慰安婦に贖罪しようとしない日本政府の「不誠実な対応」を批判しているが、第一義的には韓国政府が48年前の日韓国交正常化時に日本から供与された賠償金(経済協力基金)で慰安婦へのケアーを怠ったことが今日のような事態を招いた主たる原因である。
そのことは、日韓条約(1965年6月25日)の調印者であった李東元外相(故人)の証言からも明らかだ。李東元氏は今から18年前、国交樹立30年目の年にあたる1995年、慰安婦問題が交渉時にどのように処理されたかについて次のように回顧していた。
「記憶がはっきりしないが、当時の協定条項には従軍慰安婦の問題と被爆者、徴用者に対する賠償はどこにも含まれなかった。誰の口からも持ち出されなかった。理由は、従軍慰安婦の問題は被害者である韓国にとっても、加害者である日本にとっても恥ずべき歴史の痛みであるからだ。この問題を持ち出せば、国民感情を損なうだけで、外交的に得るものがないからだ。それで、この問題は将来の両国の関係に委ねることにした。現在の立場からすれば、韓国も政治次元から被害者にその程度の賠償をいつでもできる余裕がある。米国がロシアに10億ドルの借款を与えたが、我々は(ソ連と国交正常化時)それよりもはるかに多い30億ドルを与えるほどなのに何故に政府は(慰安婦への補償に)消極的なのか。このことは今まで我が政府が無関心であったことを物語っている。事実、従軍慰安婦の問題は韓国で起きたのではなく、日本の社会団体から提起された。そして、日本の言論が騒ぎ出して初めて韓国のマスコミが取り上げた。だから、韓国政府がまず賠償措置を取るべきだ。そして、日本政府がどのような対応を取るのか見守るべきだ」
皮肉なことに、従軍慰安婦問題は朴槿恵大統領の父親である朴正煕大統領が国交正常化時に日本から得た賠償金(経済協力資金)を慰安婦ら被害者らにあてがわず、放置してきたことによる「負の遺産」でもあり、また歴代政権の無関心、無策がもたらした「禍根」でもある。ならば、朴槿恵大統領はまずは、慰安婦を切り捨ててしまった父親の落ち度、過ちを正すべきだが、今もってそのことへの反省も、言及もないのは問題だ。
同時に「李東元発言」で明らかなことは、慰安婦の問題が国交交渉で全く取り扱われず、なおざりにされたばかりか、協定条項にも賠償が含まれなかったことの道義的責任上、「個人の請求権は日韓条約で完全、かつ最終的に解決している」と日本政府がいくら繰り返しても、耐え難き苦痛を強いられた被害者らをなだめることは容易ではないことだ。
日本政府は条約を楯に韓国側との再交渉を拒んでいるが、誠意があるなら、条約を弾力的に、あるいは拡大解釈して対応するか、条約が足枷になるなら、協議して条約を改定すれば済む話だ。
外国の例をみれば、例えば、ロシアは旧ソ連が1961年に北朝鮮と結んだ「友好協力相互援助条約」を国際情勢の変化を理由に2000年に破棄、失効させ、自動介入条項を削除した新たな「友好善隣協力条約」を結んでいる。
日本でも、1951年にサンフランシスコ講和条約と同時に米国との間で調印された安保条約も1960年に改定され、新条約が締結されているし、日米の地位協定についても在日米軍の刑事裁判手続では米軍人及び軍属の起訴前の拘禁の移転とか、軍属に対する裁判権の行使の面などで運用の改善が行われている。まして、「金科玉条」としてきた日本国憲法ですら「時代に沿わない」という理由だけで改正しようとしているわけだから、できないはずはない。
駐韓日本大使館前の慰安婦像の設置も、米国の一部州における同じ像の設置も、日本の対外イメージを損なうだけで、絶対にやらすべきではなかった。韓国もまた、日本との未来志向の関係を望むなら、やるべきではなかった。同時に、朴大統領は外遊先で日韓の二国間問題に言及し、対日批判を展開するのを慎むべきだ。
本来なら、とっくの昔に片付いていたはずの「過去の問題」をその処理を誤ったが故に今、足枷となって日韓関係を阻害しているのは極めて残念でならない。
from Greek Foreign Ministry
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