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特定秘密保護法では「国家機密」は守れない(イッシン山口)

特定秘密保護法案については「国民の知る権利」や「報道の自由」が侵害されないかといった部分にばかり焦点が当たっているが、もっとも重要な議論が抜け落ちている。それは、いったいこんな法律で本当に国家の重要機密が守れるのかという点だ。

法案は、秘密漏えいを防ぐ手段として以下の3つで構成されている。

(1)特に秘匿を必要とする情報を特定秘密に指定する。
(2)その秘密を扱う人物を「適性評価」によって限定する。
(3)その情報を漏らしたり、そそのかしたりした場合の罰則を強化する。

たったこれだけのことで、はたして重要機密が守れるのだろうか?

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特に安全保障上問題となる外国の諜報機関のスパイ活動に対抗しうるか、はなはだ疑問だ。

結局、機密漏洩防止の「装置」として組み込まれているのは日本国内における「罰則強化」の1点しかない。政府・与党は罰則を強化しさえすれば、機密が守れると信じている。平和ボケもはなはだしい。

そもそもスパイ行為は非合法だ。法律があるとかないとか、罰則が重いとか軽いとかは関係ない。中国や北朝鮮の諜報エージェントが「あの国は罰則が厳しいからやめておこう。この国は罰則が緩いからやってみよう」などと話すわけがないのである。

一方、秘密を漏らしてしまう側の心理は複雑だ。私怨であったり、義憤であったり、実際はどうあれ本人は公益目的の通報だと信じていたり、金銭目的であったり、大事なもの(人)を守ろうとするためであったり、それらが複雑に絡み合っていたり。罰則強化で防げるのは、本人が悪いことだと知っていながら、つまり罪の意識がある場合で、それは情報漏洩のほんのごく一部に過ぎない。

特に外国の諜報機関は単純にカネや女を与える見返りに内部から情報を取ってこさせるというようなことはしない。十分過ぎる時間をかけて、徐々に取り込んで行く。知らず知らずのうちに利害が同じだという「仲間意識」を持たせ、積極的に情報を漏らす人間(S)を内部につくる。女を使う場合はセックスの見返りにではなく恋愛感情にまで発展させた上でスパイ活動に従事させる。

いずれにしても、罰則が軽いから情報が漏れる、重くすれば漏れないという話ではないのである。

さらに致命的な欠陥がある。これは日弁連の秘密保全法制対策本部事務局長を務める弁護士の清水勉さんがいつも指摘していることだが、この法案は「秘密情報」が書類によって管理され、人がコピーして持ち出し、他人に渡すーーーというような事態を前提としている点である

ちょっと考えればわかることだが、公的情報のほとんどはデジタルデータとして存在している。であれば、それを前提に保護の仕方を考えなければならない。サーバーや端末にどうやって鍵をかけるか、その鍵を開ける手順はどうか。だが、現状の法案はそうなっていない。文書の右上あたりに「特定秘密」と表示することで秘密を指定するらしい。あくまでペーパーベースの想定しかしていない。デジタルデータであれば、漏洩だけでなく破壊や改竄も問題となる。ところが、それは処罰の対象になっていないのだ。

スノーデン事件で有名になった米国家安全保障局(NSA)は3つのプログラムの組み合わせで同盟国首脳の電話を盗聴したりインターネットの閲覧履歴を覗き見していたことがわかっている。こうした諜報活動が、

⑴とくに秘匿を必要とする情報を特定秘密に指定する。
⑵その秘密を扱う人物を「適性評価」によって限定する。
⑶その情報を漏らしたり、そそのかしたりした場合の罰則を強化する。

で、防衛できるとはとても思えない。

前出の清水弁護士は、本当に秘密を守りたいと考えるなら、まずデータ管理システムを整え、法案は「データ管理法」として構成し直すべきだと主張するが、政府・与党は聞く耳を持たない。つまりこの法案は、本気で国家機密を守るための法律ではないということだ。では、何のための法律なのか。

結論をいうと、秘密を守るための法律ではなく、行政府が都合の悪い情報(とくに公安情報)を隠蔽するための法律なのだ。

それが何より証拠には、政府・与党と日本維新の会の修正協議の中で、維新側は処罰の対象となるのは「スパイ目的に限定する」と主張したが、受け入れられなかった。スパイに対抗するための法律なら「スパイ限定」でいいはずだ。秘密指定の恣意性を監視するため、行政府から独立した第三者機関の設置についても難色を示している。野党が主張する修正のうち、情報隠蔽にとって都合の悪いことはことごとく排除されてしまう。

この法案は作成段階から与党議員にさえ関与させず、官僚(主に内閣情報調査室を中心とする警察官僚)だけで条文をつくり、国会提出の直前になってようやく全文が明らかになった。そして、その中身や問題点が国民に浸透する前に、短期間で可決・成立させようとしている。

審議や修正協議の過程をみる限りでも、ますますこの法律が「秘密を守る」ためではなく、「情報を隠蔽」するためのものだということがよくわかる。これによって、行政府を監視するすべて活動が知らないうちに制限される。マスコミも市民も、そしてもっとも影響を受けるのが国会議員の国勢調査活動だ。そのことを議員は、とくに与党の議員はよく考えて欲しい。

本当にこれが外国の諜報機関などから安全保障上の国家の重要機密を守るための法律なら、反対する国民は少ないはずだ。ところが、パブリックコメントの大半は反対意見で、世論調査でも過半数が反対で、さまざまな言論団体が反対声明を出している。多くの国民がこの法律の正体に気づいているからだ。

安倍政権は「外国(特にアメリカ)政府との情報共有ために必要だ」とも言っているが、当のアメリカの新聞(ニューヨークタイムズ)でさえこの法案を危険視する社説を載せた。在京の外国特派員協会も反対声明を出し、つい先日は国連の人権理事会が強い懸念を表明した。

私は、この法律は平成の治安維持法だとか、成立すると記者や市民団体の活動家が軒並み逮捕されるとか、戦争への道を進むだとか、そういう大袈裟なことを言うつもりはない。むしろ、知らず知らずにうちに、知らされないことが日常になってくることのほうが怖い。いま見えているものがだんだん見えなくなって、そのうち見えなくなってしまったことすら忘れてしまうような。行政府(官僚)が狙っているのは、そういう社会なのである。

【DNBオリジナル】

by TTTNIS

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