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米国のスパイ活動に無批判な日本政府(大貫 康雄)

11月4日、『NYタイムズ』電子版が「日本も米情報・諜報機関の傍受・盗聴の対象になっていた」と報じ、それをようやくNHKなどの日本のマスコミも伝えるようになった。米情報・諜報機関の世界規模での傍受・盗聴問題は、ヨーロッパ各国の政府・メディアが連日のように取り上げているが、日本政府はまるで大問題ではないかのような姿勢だ。

おおかたのマスコミも政府の姿勢に相応するように、他人ごとような報道しかしていなかった。日本の産業・経済政策や企業の(軍事関連)技術開発までもがアメリカに盗聴されていたのに、小野寺防衛大臣は“メディアが報じているだけでアメリカ政府が言っているわけではない”“信じたくない”などと、何とも頼りなく心細い反応だ。防衛大臣の発言であるのに、マスコミはなぜ批判しないのか。

エドワード・スノーデン氏が、NSA(米国家安全保障局)を中心とする米情報・諜報機関の傍受・盗聴工作のデータを外部に渡して以来、これまでにどんな問題が明らかになっているかを簡単に列挙する(主として英・ガーディアン紙、独・デア・シュピーゲル誌、そして米・NYタイムズ紙、ワシントンポスト紙などの記事から抜粋)。これによって、少なくとも今各国が抱える緒問題が見えてくる。なお、スノーデン氏は今年10月、高い倫理を実践した情報関係者を讃える「サム・アダムス賞」を受賞した。

●NSAなどの暴走は、2001年にブッシュ政権が9月11日同時テロ事件を受けて制定した愛国法がきっかけだ。これによって相応する監視制度が伴わないままNSAなどに膨大な権限が付与された(一時の憤激と恐怖に駆られた国民感情をブッシュ政権が利用する形で、どんな法律なのかを国民に考える余裕を与えずに成立させた)。

●外国人だけでなく、一般米国民への傍受・盗聴が明かになり、個人のプライヴァシー侵害が問題になる(国民は自分の日常の行動も対象になっている可能性に驚愕、愛国法の危険性を初めて認識する。これが市民社会にとって最大の問題であることは今も変わらない)。

●外国政府機関の活動が傍受・盗聴されていた(“仮想敵国”だけでなく“同盟国”政府も対象になっており、日本を除きヨーロッパ、南米各国から米政府への批判が相次ぐ)。

●米英両国の情報機関が協力していた。GCHQ(英国政府交信〈傍聴〉本部)は、米NSAの下請け機関になり、資金さえ供与されていた。

●外国政府の批判に対し、米英情報・諜報機関は「どこの国でも同じような活動をしている」と反論。それを認めたのか、それともアメリカとの関係を計算したのか、当初、各国首脳の反応は控えめだった(アルカイダなど“イスラム過激派テロ組織”の情報収集は、一国だけでは不可能。大なり小なり相互協力が不可欠なためとの事情もある)。

●ドイツ政府は、冷戦時代から続いていた米独情報機関の旧ソ連圏対象の協力合意を解消(冷戦時代、国が分断されていた旧西ドイツは西側〈主にアメリカ〉の対東側傍受の中心地であった。その関連施設は冷戦後も継続運営されていた)。

●アメリカでは、情報・諜報機関の暴走を防止する専門の裁判所が設けられたものの、裁判所の機能を充分果たしていない。被告側のNSAが“秘密”と判断した情報活動は裁判所に提出されず、判断できないためだ。このNSAの活動に対し、判事たちは何度も警告し、違憲判断を出していたことがようやく報じられた(秘密を設け、工作機関を設置するといつの間にか一人歩きし、税を払って政府を支える国民に牙をむいて、統制できない事態になる危険がわかってくる)。

●米、英、加、豪、ニュージーランドの5カ国「五つの目・(Five Eyes)」は、第二次大戦を契機にスパイ活動を行わない協定を締結していた。

●英国がベルリンの大使館に高性能の通信傍受装置を設置していたことがわかる。NYタイムズは、アメリカが東京の大使館でも日本政府や企業対象に高性能の通信傍受装置を設置していたと報じる。オーストラリアはインドネシア・ジャカルタの大使館で、同様の傍受工作をしていたことが報じられ、インドネシア政府が豪大使を外務省に呼び抗議。

仏オランド大統領、閣僚らの通信傍受・盗聴が明るみになり、米側に抗議。フランスも規模は小さいが同様の工作をしていたと報じられる。

●昨年暮れから、1カ月間にフランス国民の交信7000万件、スペイン国民の交信6000万件を傍受していたと報道。両国民の間に不信感が増大。

●独メルケル首相の携帯電話通話が傍受されていたことが報じられ、欧米間の外交通商問題に発展。傍受は野党党首時代の2002年から11年間続いていたことが明らかになり、メルケル首相は怒りを表明。オバマ大統領に電話し抗議。外相も駐独アメリカ大使を外務省に呼び抗議。オバマ大統領は「最初は知らなかった。8月に知った時、止めさせた」と釈明。しかし、明確な謝罪がないとしてドイツ側の不信感は消えず、首相特使2人をワシントンに派遣(メルケル首相は“世界各国互いに同様の工作はやっているもの”との前提で、当初はむしろ抑え気味の対応だったが、自分の携帯電話の通話が長年盗聴されたと知り、「信頼していた友人に裏切られた!」こととメンツをつぶされた思いがあり、ワシントンに特使を派遣した)。

●EU首脳会議でも問題になり、EUも特使を派遣し抗議。

●ドイツ側は、米側の謝罪が不十分であると見ており、基本姿勢に依然として不信感を隠さない(米・EU間では、産業活動の円滑化を促進するための交渉が継続中。米IT企業の超大型コンピュータを相互に自由に設置出来るか否かは、米企業にとって最優先課題だ。米側がEU側の不信をどこまで解消できるかがカギとなる)。

●グーグル、ヤフー、マイクロソフトなど、世界的な活動を展開しているIT企業は当初、裁判所の許可を得た活動だったとして、NSAからの通信記録提示要請に応じた。しかし、米IT企業は世界的に事業を展開しており、アメリカ人以外の利用者が圧倒的に多い。そのため国際的な信頼の失墜は、企業の存立に関わる。NSAなどがIT企業のコンピュータに侵入し、傍受していた行為を「窃盗」と批判。改めて侵入しにくい暗号化を進める方針を打ち出している。

以上、経過を簡単に振り返っても、米NSAなどの活動は、日本にとって無関心ではいられない問題だ。通信傍受など秘密工作をする機関を作ると肝心の納税者、主権者に牙をむき、いかに社会を蝕む方向に動くかを考えてみたい。

【DNBオリジナル】

by Steve Jurvetson from Menlo Park, USA