国会論戦の火種になりそうな安倍首相の焼肉好きと平和ボケ(藤本 順一)
「毎日、何時何分に誰が入って何分に出たとか、必ず各紙に出ている。知る権利を超えているのではないか」
28日、特定秘密保護法案を審議する衆院国家安全保障特別委員会で質問に立った小池百合子元防衛相はこう述べ、新聞や通信社が連日報じている「首相動静」について、「何を知り、何を伝えてはいけないのかの精査をしっかりして欲しい」と政府の対応に注文をつけた。
首相の動静そのものが機密保護の対象に成り得るとの認識を示したものだが、菅義偉官房長官にその直後の記者会見で「特定機密の要件にあたらない」とあっさり否定されてしまった。
小池氏はまた、「日本は秘密や機密に対する感覚をほぼ失っている平和ボケの国だ」とも述べている。機密保護法案の必要性を強調したかったようだが、とんだ勇み足といったところか。
少し前には同法案を担当する森雅子少子化担当相が沖縄返還密約の内部告発をスッパ抜いて逮捕された毎日新聞元記者のケースが処罰対象に含まれるとの見解を示していたが、24日の参院予算委員会で「違法行為などを公益のために持ち出す行為で内部告発をしても処罰されない。政権中枢や当局の違法行為、重大な失態は、そもそも特定秘密の対象たりえない」と答弁して事実上、前言撤回に追い込まれている。
ことほど左様、政府与党内でも混乱甚だしい法案である。国民世論に不安と疑念が渦巻くのも当然だ。
小池氏がヤリ玉にあげた「首相動静」に話しを戻せば、安倍首相は10月23日、19時8分から首相行き付けの韓国家庭料理店で焼肉を突きながらテレビのインタビューを受けている。翌日夕のニュース番組を視聴された方も多かろう。この時の発言を「脱原発の小泉元首相を批判」との見出しでマスコミ各社は一斉に報じている。
しかしながらたった一行だけの首相の動静から得られる情報は、これにとどまらない。
この前日には“和食”が国連教育科学機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されることが内定している。
「登録されれば、自然の尊重という日本人の精神に基づく伝統的な和食文化、健康的な食生活の次世代の継承に寄与する」とは菅官房長官のコメントだ。日本の首相であれば、韓国料理ではなく、日本料理に舌鼓を打つところだ。
もっといえば25日に竹島で実施された韓国の軍事演習を事前に容認したとも取れるタイミングであった。
狂信的な右翼思想の持ち主でなくても、看破できない安倍首相の動静である。あるいは日韓関係修復に向けた安倍首相なりのしたたかな計算が働いてのことだとしても、週明け国会論戦の新たな火種になりそうだ。
【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】
Photo : Shinzo Abe at CSIS(Wikimedia Commons /Author:Ajswab)