被災者の意見がほとんど反映されていない基本方針を閣議決定(木野 龍逸)
[caption id="attachment_15407" align="alignleft" width="300"] 復興庁担当者に決議文を手渡しする自治体議連の佐藤和良いわき市議会議員[/caption]
政府は10月11日、原発事故子ども・被災者支援法の基本方針を閣議決定した。
復興庁は基本方針の策定にあたって8月30日から9月23日までパブリックコメントを募集。期間中、千葉県や茨城県、栃木県などの自治体が見直しを求める意見を提出したことが報じられているほか、福島県内外からの避難者や被災者が復興庁に要望書を提出するなど、強い反発が起きていた。しかし復興庁はこれらの意見をほとんど採用せず、もとの基本方針案に修正を加えただけで閣議決定された。見直しを求める声がさらに高まるのは必至だ。
基本方針案、14市が見直し要請 被災者支援法 http://www.47news.jp/feature/kyodo/news05/2013/09/post-8309.html
被災者支援法:「意見公募」に13市から異例の批判 http://mainichi.jp/select/news/20130924k0000m040078000c.html
パブリックコメントは、復興庁の発表によれば約4900件集まった。復興庁は詳細を公表しておらず、具体的な意見の内容は明らかになっていないが、復興庁・佐藤紀明参事官によれば、手続きに関するものが2000件、支援対象地域の見直しなど内容に関するものが2700件、移動の支援に関するものが200件、住宅支援関連が700件などとなっている。ほぼすべてが反対意見かどうかについて、佐藤参事官は「受け止め方次第」と述べた。その一方で、当初の基本方針案で「よし」とした意見は「2件」だったことを明かした。
原発事故子ども・被災者支援法は、第5条で「基本方針を策定しようとするときは、あらかじめ、その内容に東京電力原子力事故の影響を受けた地域の住民、当該地域から避難している者等の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする」としているほか、13条では「当該内容を定める過程を被災者にとって透明性の高いものとするために必要な措置を講ずる」など、手続きの透明性確保を重要なポイントに位置付けている。
佐藤明事官は、「見直しの意見があったことは認識している」としたが、事前に内容を公表することは否定。これまでの例に倣って、決定時に公表するとし、翌日に公表した。
「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」(案)に対するパブリックコメント結果の公表 http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat8/sub-cat8-1/20131010195834.html
原発事故子ども・被災者支援法 (東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律) http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H24/H24HO048.html
支援対象地域に関しては、同法の第1条、8条、13条にある「一定の基準」を超える放射線量について、これまでの住民説明会では環境省が定める「汚染状況重点調査地域」に該当する地域を含めるべきという要望も多かった。同じく自治体も、「年間放射線量が1ミリシーベルトを超える「汚染状況重点調査地域」は、全て、「支援対象地域」に指定」(野田市がパブリックコメントに提出した意見)することなどを求めていた。
しかし復興庁の基本方針では、年間1ミリシーベルトを基準にするとコミュニティの分断をまねくとして基準を設けず、復興庁が「相当な線量」と認めた地域に対して適切な施策を実施するとしていた。
今回の修正では、2ページ「支援対象地域に関する事項」の第5パラグラフを修正し第6パラグラフを追加することで、汚染状況重点調査地域と支援対象地域を明確に切り分けたことが見て取れる。これにより、批判の強かった除染が必要な地域と支援対象地域の不整合性が回避されることになる。
NPO法人アワープラネットTVが公開した基本方針修正案 見え消し版は修正点がわかりやすい http://www.ourplanet-tv.org/files/20131009.pdf
この点についてもパブコメなどでは見直しを求める意見が多かったが、佐藤参事官は、「基本方針を定める前からいろいろなところから(意見を)聞いていて、それに対する答えとして準支援対象地域、相当な線量とした」と説明した。そして、「パブコメの中で、もっともだというのがあれば直すべき所は直した。支援対象地域(の見直し)は数が多かったが、(基本方針は)もともとパブコメで出てくる意見も踏まえたものだったのでそこは従来通りということ」とも述べた。
しかし反対意見が多かったのは、復興庁が示した「相当な線量」という定義はやめて、本来の法律に書いてある「一定の基準」を定めるように要望した内容だった。それに対して復興庁は、法律にはない「相当な線量」という表現を「復興庁で決めた」(佐藤参事官)として採用。被災者ら当事者の意見を退けた。
佐藤参事官は修正後の基本方針について「新しいものは入っていない」と述べている。現状では、復興庁が被災者の意見を反映させたとは、とてもいえない内容になっている。今後、支援対象地域は1年ごとに見直される予定だが、被災者の意見が反映されるかどうかは不透明だ。
閣議決定直後、地方自治体の議員らで構成する「原発事故子ども・被災者支援法」推進自治体議員連盟は、参議院会館で集会を開催。1年以上も放置した末に、「パブリックコメントへの回答も示さないまま、基本方針の微細な修正によって、あまりにも拙速に本日閣議決定が強行された」ことは、支援法の規定から逸だするものであり、「国民軽視も甚だしくとうてい容認できるものではない」とした決議文を復興庁に手渡した(写真)。
【ブログ「キノリュウイチのblog 」より】