汚染水が止まらない〜無責任にも見える対応で続々と漏洩(木野 龍逸)
(9月16日発表の東電資料。「B南」から20万Bq/Lの全ベータが確認された)
東電は2日午後10時過ぎに一斉メールを送信。BエリアAグループ 5番タンクから鉛筆一本程度の漏えいがあることを、現場で作業中の東電社員が発見したことを伝えた。
2時間後の3日午前0時15分、原子力規制庁はこのタンクの周囲に設置している堰の内側で分析した水から、1リットルあたり20万ベクレルの全ベータを検出したことをメールで連絡。汚染水を早期に回収すること、汚染範囲の特定、汚染土壌の回収および、タンク近傍の排水溝のサンプリングをすることを指示した。
規制庁のメールによれば、現地を確認したところ、漏えいはB南エリアの堰内の水をタンクに戻していたところ、タンクの天板部から溢れた模様との指摘。またタンクに設置した足場から堰の外にも漏れていて、排水溝に入った疑いがあるとのこと。漏洩量は調査中だが、排水溝は海につながっている。東電は午前0時57分のメールで、海への流出が否定できないため排水路に土嚢を設置した。
以上が東電と規制庁からのメールの内容だが、それにしてもタンクからの漏えいが続いている。東電メールを見返すと、9月25日にFエリア、27日にA7およびA9タンク(5/6号機側)、27日にはJ3およびJ4タンク(5/6号機側)、28日にFエリアJ2タンク、10月になって2日にH8南エリア、そして今回のB南エリアと続いていている。
東電は8月に発生(発見)した汚染水貯蔵タンクからの300トンの漏洩後、パトロールの強化を発表。9月から人員を増やしはじめた。一連の漏洩は、パトロール強化後に発見されたといっていい。とすると疑問なのは、「もともと漏れてたのではないのか?」ということだろう。この疑問を否定できる根拠はなにもない。
そもそもパトロールは、規制委の更田委員が8月27日の汚染水対策ワーキンググループで「走って回ったような気がしないでもない」と批判するようなレベルのものだった。同じ会合で規制庁の現地担当者は「2人で1000個見るのは不可能」と指摘している。また東電の会見では、過去1年間のパトロールで放射線量が高いなどの異常が報告されたことがないことも明らかになっている。
過去の結果だけを見ると、福島第一原発の汚染水タンクはとても安定してるんだなあということになるが、ここ数日で漏れまくっている。これらのことから、従来のパトロールからは、異常がなかったのではなく、単に異常を見逃していただけではないかという疑念が強くなる。
もうひとつ問題がある。9月16日に台風18号が接近した際、東電はBエリアの堰内の水位が上昇したため排水しようとしたが間に合わず、そのまま堰から溢れた。東電のその後の説明では、急激に強い雨が降ってきて、ポンプを起動しようとしたが「スイッチを入れるまでに数分間のタイムラグがあり」間に合わずに溢れたということだった。またその他のタンクエリアについても、堰内の水の放射能濃度が十分に低いと確認できたものは、ドレン弁を開放して溜まった水を放出した。
これらのことについて東電は30日に、規制委の汚染水対策ワーキンググループで、「緊急措置」と題したパワーポイントを示しながら、「各エリア堰内からノッチタンク(4000m3)への移送ラインの設置準備を進めていたが、大量(約3km)の移送ホース調達のため、設置完了が10月中旬の状況」と読み上げた。
http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/tokutei_kanshi_wg/data/0007_01.pdf (23ページ)
この文言に対して、更田委員が「準備が間に合っていれば回避できたものを緊急措置と呼ぶことに強い不満がある」と、強い口調で批判を展開した。
更田「9月になれば台風がやってくるのは十分に予見可能だった話。大量だということが唯一の言い訳になるものの、大量ではあっても、準備ができてれば回避できたことを緊急措置と呼ぶのかということに、あの、そういう呼び方はないだろうと思うがいかがでしょう」
東電「ご指摘の通りの部分もある。準備が遅かったということもある。ただ、これも言い訳になるが、ひとつは、汚染した水をオーバーフローさせないということを優先的にさせていただいたということで、こちらの対応が後手に回った。それについてはたいへん申し訳ないじたいと考えている」
更田「9月15日、16日にかけて規制庁通じて報告うけているが、この際に緊急措置とか応急措置というか、回避ということに私自身は非常に強く反発感じたのは、その時に受けた説明が、ホースの調達が間に合わなかったので堰を開けざるをえませんと。これに対して規制委員会は、それじゃあしょうがないやということはできないよということを、繰り返し申し上げた。準備ができてれば回避できたものを緊急措置とはいわない。東電にすれば緊急だろうが、調達間に合わないからそうですかという対応をとるわけにはいかない。台風がきたときにドレン弁を開放したことを緊急措置と呼ぶことはふさわしくないと思っている」
こうしたやりとりがあったことをふまえ、10月2日の会見で尾野本部長代理に「緊急措置という認識は変わっていないか」と聞くと、「変わっていない」という答えが返ってきた。ではなぜ準備が間に合わないような事態になったのかという原因をどう分析しているのかと聞くと、次のように答えた。
「努力していたが結果において間に合わなかった」
これではまた同じことが起こっても不思議はない。何が起こっても東電は、「がんばったがダメでした」で済まそうというのだろうか。メルトダウンも「努力したがダメ」であり、そもそも津波の想定も「努力したがダメ」だっというのだろうか。がんばったがダメだったというのは、小学生が勉強を頑張ったがテストの成績が良くなかったというのと同じレベルだ。
そうこうしているうちに、台風の時に堰から溢れたB南エリアで、こんどは漏洩が起きた。不安があるのは、今回は堰内の水から1リットルあたり20万ベクレルという高濃度の全ベータ核種が検出されたことだ。2週間前の台風時には、同じ場所で37ベクレルだった。なぜ2週間で5400倍になるのだろう。詳細はまだ不明だ。
それにしても、いつまでこのような汚染水対応が続くのか。東電がこれまでのような無責任ともいえる対応を続ける限り、行き先に光は見えない。
【以下、メール引用】 受信:2日午後10時10分(東京電力一斉メール) 午後8時5分に、福島第一原発B南エリアの堰内に溜まっていた水を処理するために現場にいた東電社員が、B南エリアタンク(BエリアAグループ 5番タンク)の天板部分から「鉛筆一本程度」の滴下を確認。 http://www.tepco.co.jp/cc/press/2013/1231126_5117.html 以下、規制庁メール 受信:3日午前0時15分(東電メールの約15分前)
福島第一原子力発電所構内のタンクエリアから水が漏えいした件について、東京電力から報告を受けましたので、お知らせします。(昨日(2日)22時43分受信)
○昨日(2日)20時05分頃、発電所構内のB南エリアタンク(B-A5)の上部天板部から水の滴下があることを東電社員が発見。
○現場を確認したところ、B南エリアの堰内の水を当該タンクに移送していたところ当該タンク天板部から溢水した模様。
○当該タンク天板部から漏えいした水は堰内に滴下するとともに、タンク外周に設置された歩廊を介して堰外にも流出している。
○タンクからの漏えい量は堰内及び堰外を含め調査中。また、堰外に漏えいした水の流出経路についても調査中。
○当該タンクエリアの堰内の水の分析結果(昨日15時00分採取)は以下のとおり。 ・セシウム134:18ベクレル毎リットル ・セシウム137:54ベクレル毎リットル ・全ベータ:200,000ベクレル毎リットル
原子力規制庁より、東京電力に対し、以下の指示を行っています。 ・B南エリア堰内の水を早急に回収すること。 ・B南エリア周辺の汚染の範囲を特定すること。 ・B南エリア周辺の汚染土壌の回収 ・B南エリア周辺の排水溝について、速やかにサンプリング分析し、溢水の海への流出を防止すること。 なお、現地保安検査官が現場確認を実施しております。
受信:3日午前0時29分(東京電力一斉メール) B南エリアタンク(BエリアAグループ 5番タンク)から滴下している水は堰内のほか、タンク外周に設置されている足場を介して堰外にも滴下していることを確認。 堰の内側に溜まっていた水を分析したところ、全ベータの簡易測定で1リットルあたり20万ベクレル、セシウム134は同18ベクレル、セシウム137は同54ベクレルを検出。堰の内側から採取した時間は2日の午後3時。 このことから東電は、2日午後9時55分に東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関する規則第18条第12号「発電用原子炉施設の故障その他の不測の事態が生じたことにより、核燃料物質等(気体状のものを除く)が管理区域内で漏えいしたとき。」に該当すると判断。 原子力規制庁に連絡。
【ブログ「キノリュウイチのblog 」より】
Photo : TEPCO Head Office (Wikimedia Commons/Author: PON)