いま日本でコーヒーをめぐるホットな争いが起きている!(蟹瀬 誠一)
私は無類のコーヒー好きで、毎日10杯は飲んでいる。豊かな香りが気持ちをゆったりと落ち着かせてくれるとともに、含まれたカフェインがしばし眠気を吹き飛ばしてくれるからだ。ところが今、そのコーヒーを巡ってホットな論争が起きている。
火付け役はネスレ日本の高岡浩三社長だ。ネスカフェといえばインスタントコーヒーの本家本元。そのネスレが8月末に「さよなら、インスタント」を宣言し、細かく砕いたコーヒー豆を混ぜた「レギュラー・ソリュブルコーヒー」を発表した。それがどうしたと思われるかもしれないが、日本のコーヒー業界には激震が走った。 理由は「レギュラー」という呼称だった。コーヒーの業界団体である全日本コーヒー公正取引協議会(加盟128社)はドリップで入れるレギュラーコーヒーと粉末のインスタントコーヒーの2種類にしかコーヒーを分類していない。そのため粉末であるネスレの新商品に「レギュラー」という言葉を使うことに猛烈な反発の声が上がったのだ。消費者が誤認する恐れがあるというわけである。
しかしそれは本当の理由ではない。背景には業界で圧倒的なシェアを誇るネスレが自分たちの領域をいよいよ侵食し始めたことに対する恐怖があった。まさに日本の業界の持つ閉鎖性の縮図である。自分たちが決めたルールに従わないものは排除し、自分たちの既得権益を守ろうとする“島国根性”だ。そもそも競争する相手を間違えている。
街を歩いてみるとコーヒーショップはすでに多様化している。旧来の喫茶店が減少する一方でスターバックスやタリーズといったセルフスタイルの店舗が増加傾向だ。さらにコンビニやスーパーなど小売業がレギュラーコーヒー分野に進出している。異業種参入によってゲームのルールが変わらざるをえないのに、旧態然とした業界の”内規“をなんとか守ろうとしている姿は滑稽ですらある。
勝敗の鍵は業界の垣根を超えていかに消費者に支持されるブランドを構築するかにかかっている。
ネスレ日本は、経営環境が厳しくなってきている中小喫茶店に「カフェ・ネスカフェ」の看板を貸与するだけでなく、業務用コーヒーマシーンを無償で貸し出すことによって3年後には1000店の喫茶店をチェーン化することを目論んでいる。その代わりに売上高に応じて一定の助言料を受け取るというビジネスモデルだ。
コーヒーの起源は諸説あるが、そのひとつに山羊が灌木の実を食べると興奮状態になることを知った修道院の院長が居眠りをする弟子たちに飲ませたというのがある。日本のコーヒー業界もこれを機会に目を覚まし、どうしたら消費者により低価格で美味しいコーヒーを提供することが出来るかを考えて欲しい。
【コラム「世界の風を感じて」より】
※Photo:Coffee selections and fresh brewed cup(Wikimedia Commons / Author:darkliight)