薄熙来の判決迫る、中国の改革は進むのか?(相馬 勝)
9月中旬に4日間ほど北京に行ってきた。気温は30度前後だが、湿度が60%程度で日本同様、蒸し暑い。ただ、大陸性気候のせいか、日陰に入ると結構涼しく、汗が出てくると木陰で涼んでいた。そこで気づいたのは、市街地に政治スローガンが増えたことだ。
「中国の夢を実現しよう」「中華民族の偉大なる復興」「改革開放は素晴らしい 生活は蜜より甘い」――などで、習近平国家主席が日ごろから叫んでいるスローガンが主だ。
中国では最大級の書店である王府井書店にも行ってきたが、習近平主席の演説がまとめられ、入り口の特設コーナーで大々的に宣伝、販売されていた。これも政治的運動の一環だろう。
習氏は演説で、政治問題では毛沢東主席、経済では改革・開放路線を導入した鄧小平氏の言葉を引用することが多い。
習氏自身の言葉で最も有名なのが「蠅だろうが、虎だろうが、ともに退治すべき」との言葉だ。今年1月、党員の不正監視機関である党規律検査委員会の全体会議で語った。このあとに「指導幹部の規律違反・違法案件を断固として調べて処分し、民衆の回りで起こっている不正の風と腐敗問題をしっかり解決すべきだ」と続く。習氏の腐敗撲滅にかける断固とした決意が伝わってくるようだ。
反腐敗問題で注目されるのが、腐敗や党規律違反で逮捕されている元重慶市トップの薄熙来・元政治局員の裁判で、9月22日の日曜日に判決が下されるとの情報が流れている。
死刑相応の重い判決が予想されるが、薄氏は太子党(高級幹部子弟)勢力の中心的人物だけに、極刑だと彼らの反発を招き、15年程度の懲役刑だと、市民の失望を買うのは必至だ。司法の権限すら党が握っている中国ならではのことで、政治的に微妙なバランスが要求される。
さらに、難しいのは経済改革問題だ。今後の経済運営については7月下旬、北京で開かれた党政治局会議で、「安定成長を堅持しつつ、構造調整を進め、改革推進を統一的に実行する」という二律背反的な結論に落ち着いた。
習氏は安定成長と改革の同時進行について、鄧氏の言葉を引用して「河を渡るときは、水面下の石を探りつつ素早く歩け」と比喩的に使っている。意訳すると、「急流に流されないように慎重ながら、石を探り足を踏みしめ一歩、一歩素早く大胆に渡れ」ということになる。
改革案は11月の党中央委員会総会で審議されるが、あまりに改革色が強いと太子党ら既得権益層の抵抗が予想される。
習近平体制が発足してから、北京市内でスローガンが増えたのも、政治・経済運営の難しさを示すものといえそうだ。習氏にとって、今年の夏はこれまでで最も暑かったに違いない。