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大型台風前に溜まり水を測定しなかったのは、希釈されるのを待ったのか?(おしどりマコ)

2013年9月18日の東京電力の定例会見、そしてその後のぶら下がり取材のあと、筆者は非常に大きな疑問、懸念を持った。

大型台風18号による降雨の影響で、福島第一原発のタンクエリアの溜まり水を排水した件についてである。

【溜まり水の測定値を読み違えたまま排水開始(おしどりマコ)】
http://op-ed.jp/archives/14716 
1.サーモグラフによる水位管理についての訂正

2.なぜ、台風前に溜まり水のサーベイを行わなかったか


3.なぜ事前に全βのみの測定でセシウム濃度を測定しなかったのか。

→タンクの汚染水の漏洩にのみ留意し、汚染水かどうかについては考慮せず。

4.15日の豪雨後に、告示濃度限度以下となったのではないだろうか?

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1.サーモグラフによる水位管理についての訂正

18日の会見で、17日の臨時会見で筆者が質問した際の回答への訂正が入った。
前回の記事に「現在、タンクエリアの水位管理はサーモグラフも用いて行っている」という東京電力の回答があったが、それについての訂正である。
現在、サーモグラフでの水位管理は実用レベルではなく、まだテスト段階で、実際に運用はされていないという。
現在のタンクエリアの漏洩確認は、

目視(漏えい個所が無いか、タンク本体の目視。ドレン弁の「閉」運用により、水たまりの有無の目視点検はできず)
測定(線量計で、溜まり水の線量を確認する。以前までは溜まり水があっても、全てを測定する運用ではなく、「異変」を感じた場合のみの測定であった)

日々のパトロールでこの2つを行うことで、タンクの水位管理、漏えい確認をするという。

ぶら下がりで確認したが、サーモグラフによる水位管理は難しいそうで、画像でどういう違いが出れば漏洩とみなすか、どういう画像判断をするか、などテスト、調整が続いているという。
前回の記事に書いたが、タンクの断面積は113m2あり、1cmの水位の低下で、約1tの汚染水が漏えいすることになる。
しかし、サーモグラフではそこまでの水位管理は無理、とのことで、数tレベルの漏洩はサーモグラフでは感知できないことになる。
なので、各タンクに水位計を付けることを、規制委員会は指導しているが、まだ、そこまで準備が整っていない。

[caption id="attachment_14806" align="aligncenter" width="620"] 「群」タンクの図解。色ごとが「群」で、注水の際は連結され、☆印のタンクにのみ水位計がつけられている。注水後、切り離された。[/caption]

第3回特定原子力施設監視・評価検討会汚染水対策検討ワーキンググループ、資料1より。
http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/tokutei_kanshi_wg/data/0003_01.pdf

元々、タンクに中濃度汚染水を貯留する際、「群」で注入していた。5~6個のタンクをつなぎ、手前のタンクから、一度に注入していく。手前のタンクのみに水位計を付け、それが満水になれば、5~6個の「群」のタンク全てが満水になったものとみなす。そして、その後、タンクを連結させているフランジ部分を締めていき、タンクを1つ1つ切り離す。つまり、いったん満水にしたあと、タンクは独立するので、「群」のうち、一番手前のタンクにしか水位計がついていないのである。

(なので、タンクの水位低下がみられた、H4エリアのNo5のタンクは「群」の最も最後尾なので、そもそも始めから満水だったのか? という疑問もある。なぜなら、最後尾のタンクが満水になったかどうかの確認はされていないからである。)

現在、「群」のタンクのフランジ部分を開放し、独立させていたタンクを再び結合させ、「群」の手前の水位計で、水位管理をしているという。しかし、これは5~6個のタンクごとの水位計なので、個々のタンクに水位計をつけることが望ましい。

18日の会見で、サーモグラフによる水位管理の訂正がなされた発言を書き起こす。

東京電力尾野氏の冒頭の訂正
まず初めに私の方、説明で間違っところがありましたので、訂正をさせて頂きたいと思います。
昨日ですね、サーモグラフによる水位確認、「タンクの水位確認はされてますか」というご質問に対して、 「サーモグラフによる水位確認はしてございます」というふうに回答をさせていただきました。
サーモグラフによる水位確認というのは現在、具体的に運用レベルで実行するための準備をしているところでございまして、 21日を目途に運用レベルで全体の適用が始まるというような状況でございますたので、サーモグラフによって確認をしていると申し上げたのは私の間違いでございます。失礼いたしました。
で、今現在どのように確認をしているか、ということでございますが、台風が来る水の処置をする必要から、水位を確認しておくということの必要性がございましたし、移送を行うということでありますとタンクの連結弁を開けておく必要があるということで、タンクの下部の連結弁を開けて受け入れの準備がしてある状態で待機していた、ということでございます。
したがいまして、水位計によって水位を確認できる状況にはございまして、水位は確認済みであったということであります。
説明として一部誤ったところがありまして失礼いたしました。

 

[caption id="attachment_14807" align="aligncenter" width="620"] 東京電力尾野氏[/caption]


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2.なぜ、台風前に溜まり水のサーベイを行わなかったか

前回の記事にも書いたが、
「台風が来る前から、タンクエリアの堰内には溜まり水があった。なぜ、台風が来る前に測定して処理しておかなかったのか」
という作業員の指摘を、筆者は聞いた。

それを東京電力にぶつけると、
「確かに台風前に、堰内にはすでにくるぶし程度の溜まり水はあった」と認めた。

なぜ、それを事前に処理しなかったのか。
なぜ、台風の暴風雨が最も酷い状況のときに、「緊急に排水」などという処置をとったのか。

この2つの疑問に対する明確な回答は得ていない。
会見で筆者が質問すると「ご指摘はそのとおり」という回答が返ってくる。
ぶら下がりで何度同じ疑問をぶつけても「その点は東京電力の計画が甘かった、見通しが甘かった」という返答のみである。

しかし、18日の会見で、下記の資料が発表されたとき、筆者の疑問は大きくなった。

「福島第一原子力発電所 排水を行ったタンクエリア堰内外のセシウム・全ベータ測定結果」
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2013/images/handouts_130918_10-j.pdf

[caption id="attachment_14809" align="aligncenter" width="620"] 赤字はそれぞれの核種の告示濃度限度である。[/caption]


この「堰外たまり水」のセシウム137の濃度を見て驚いたのだ。
これは、今回、大型台風による降雨の影響のため、緊急排水されたタンクエリアの堰内の溜まり水と、その排水された当該のタンクエリアの堰外のたまり水の測定結果である。

排水を是とした根拠として「全βの測定値が、ストロンチウム90の告示濃度限度30Bq/Lより低い」という理由であった。

セシウム134の告示濃度限度は、60Bq/L、セシウム137の告示濃度限度は90Bq/Lである。

もう一度、堰外たまり水の測定結果を見直してほしい。

セシウム134、137の告示濃度限度を超えている堰外溜まり水が、6か所中4か所なのである。(Eエリアは堰外の溜まり水は採取できず)

排水されたのは、堰内の水である。
表を見てもわかるとおり、堰内と堰外の水の測定結果は大きく異なる。
同じような核種組成は、C東エリアくらいである。

セシウムは事故後のフォールアウトの影響で、土に付着していることが多く、事故後そのままの土壌と、事故後に時間が経過してから作られたタンクエリアの堰内とでは、セシウム濃度が異なることも理解できる。

しかし、それだけでは説明のつかない事象もある。
例えば、H9西エリアなど、堰外より、堰内のほうがセシウム137の濃度が高い。
(堰外の検出限界が66、と高い傾向でもあるが)

H9エリアとH9エリア西などは、地図でも見てもわかるとおり、隣接しているが、堰外溜まり水の核種分布が、全βとセシウム137が逆転している。

(ちなみに、筆者は、堰外たまり水、というのはどこの地点で採取したのか、具体的に場所を示してほしい、という質問もしており、回答待ちである。)

堰外と堰内で、なぜこのようなバラバラの分布がおきるか、東京電力として、検討中である、今のところ、測定結果を示しただけで、原因の評価はまだ、という説明であった。

そして、この表を見て、ぶら下がり取材をして、そして、浪江町の降水量を調べたあとに、筆者の疑問が大きくなるのである。

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3.なぜ事前にセシウム濃度を測定しなかったのか。
→タンクの汚染水の漏洩にのみ留意し、汚染水かどうかについては考慮せず。

「汚染水か雨水かの判定として、全βを測定した」という東京電力の説明だが、排水した堰内の「雨水」は、全βのみの測定しかなされていなかった。

「タンク内の中濃度汚染水はセシウム除去後の汚染水であり、全βがの占める割合が最も高い。なので、タンクから漏えいした汚染水の調査として、全βを測定する」
と、たびたび東京電力は説明してきた。

[caption id="attachment_14811" align="aligncenter" width="620"] 水位低下が見られ、底部に水たまりがあった、漏えいが考えられるH4エリアNo5タンクの水のサンプリング結果。[/caption]

http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/smp/2013/images/south_discharge_130826-1j.pdf

確かにセシウム134、137より全βは4ケタ多い。つまり10000倍である。

(ところで、この測定結果の単位がBq/cm3であることに留意したい。全βが2・0×10^5Bq/cm3、つまり、2.0×10^8Bq/L、全βが2億Bq/Lの濃度で存在しているのである。)

(ちなみに、筆者は、この漏えいしたタンク内の水、そして、漏えいによる汚染を調査している排水路などの測定点でなぜトリチウムを測定しないのか、と質問を重ねているが、漏えいした汚染水のトレーサーとして、全βを測定する、という回答であった。
トレーサーとしての全βなら、なぜ、漏えいした元々の汚染水、このタンク内の残水のトリチウムを測定しないのか、どの核種をどれだけ環境中に放出したのか評価するべきではないか、問うと、全βの測定だけで十分だと考えている、という回答であった。)

話がそれた。

雨水かどうかの判断基準を、全βのみの測定で行った、というのは、運用基準に問題があるのではないか。

「タンクの汚染水が漏えいしたものかどうか」ということが推定されるのみで、
「汚染水かどうか」の判断基準にはならない。

なぜなら、堰外の溜まり水のように、セシウム134、137が告示濃度限度を超えている可能性については評価されなかったからである。

今回は、排水後に、セシウムについての測定結果がわかった。(排水前に採取したものを測定した。)偶然、告示濃度限度以下だったものの、超える可能性もあった。

(偶然といえば、前回の記事で書いた、24Bq/Lを、コピーの劣化により、誤って2.4Bq/Lと読み違えた点も同様である。
例えば、68Bq/Lを、6.8Bq/Lと読み違えていたら、告示濃度限度を超えた汚染水を排水していた危険性があるのだ。

偶然、1ケタ読み違えても、ギリギリ告示濃度限度以下だったのだ。)

偶然、告示濃度限度以下の汚染水を海に排水することになり、不幸中の幸い、のように、一旦は筆者は感じた。

しかし、18日のぶら下がりでのやりとりで疑問は増す。

告示濃度限度以下ならば、排水をするのか、
それならば、希釈すれば、いくらでも排水できるではないか、と問うた記者に、
現在の法律では、そうなっている」と回答した東京電力。

この問題点は以前からたびたび指摘されている。

続いて筆者が、なぜ、事前にタンクエリアの堰内の溜まり水を測定しなかったのか、と問うと
16日の昼に急激に降雨量が増えた。予想以上だった。」と回答。

――しかし、地震と違い、台風は予報があるではないか、大型台風が来ることは数日前から予測できたではないか

 

見通しが甘かった。当初は、堰内の溜まり水は全て汲み上げてタンク内に移送する予定であった。

――タンクの余裕量こそ、事前にわかっていたはず。余裕の無いエリアの堰内の溜まり水も全てタンク内に汲み上げるつもりだったのか

そう予定していたが、降雨量が激しくムリだった、計画が甘かった

――では、なぜ、事前に溜まり水を測定しなかったのか。17日の臨時会見で尾野氏が認めたとおり、台風到来前から、堰内にはくるぶし程度の溜まり水があったのに、なぜその水を測定しなかったのか。

「それを指摘されると、おっしゃる通りである、我々がそこまで至らなかった。」

――なぜ、排水前にセシウムを測定しなかったのか? 堰外の溜まり水ではセシウムが告示濃度限度を超えているものがある、堰内の溜まり水も超えている可能性は考えなかったのか

「全βを測定し、タンク内の汚染水の寄与があるかどうかを見た。タンク内の汚染水は全βの寄与が最も高いので。」

――漏えいした汚染水の寄与ではなく、堰外に存在するフォールアウトが舞い上がる可能性もある、なぜ、セシウムの測定をしなかったのか。

「緊急のことで、測定に手が回らなかった、溢れさせないように、ということを優先させた。」

 

――台風の暴風時に、溜まり水を採取し測定するより、事前に行ったほうが、作業する現場作業員の安全を確保するためにも重要なことではないか。不要な危険にさらしたのではないか。

「その点はおっしゃるとおりである。」

ここで他の記者が、告示濃度限度以下なら排水してもいい、というのが現在の東京電力の運用なのか、これからもそうしていくのか、と聞いた。

それに対し東京電力は

「雨水であることが確認できたら、排水してもいいことになっている、そういう議論が汚染水対策WG、確か第5回であり、これは認められているはずだと回答した。

筆者は汚染水対策WGも傍聴・取材している。
すぐに第5回のWGの書き起こしメモをチェックした。

その回では同時に、
「東京電力だけで測定は間に合っているのか、技術者が足りないのではないか、サンプリング試料の十分な測定はできているのか、規制庁が測定者についても支援する、規制庁の監視情報課に後から言うように」
と更田委員が発言している。

 

つまり、十分に測定するように、技術者が足りないという言い訳はしないように、という指導があったのだ。

その書き起こしを提示し、

 

――その回の汚染水対策WGでは、十分な測定も指示されているはずだ、このWGの回は8月30日だが、測定者の支援を監視情報課に依頼しなかったのか? 全βのみで、セシウムを測定しなかった理由は緊急で間に合わなかったから、と言うが、測定者の支援は依頼しなかったのか、

と問うた。すると東京電力は

「16日に、急激の降雨量が増えた16日に、東京に連絡して応援にきてもらっても間に合わないじゃないですか!」と答えた。

明らかにおかしな返答である。

――だから、大型台風がくることは、予報ですでにわかっていたではないか…

と筆者は再び同じ質問を繰り返すのだ。

いつも、明快な回答を説明する東京電力のこの社員が、おかしな返答を繰り返すのはなぜか。

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4.15日の豪雨後に、告示濃度限度以下となったのではないだろうか?

そこで、ある懸念がわき、浪江町の降水量を調べた。
(福島第一原発の降水量は、おもに気象庁の浪江町のデータを利用している)

9月15日、緊急排水の前日の浪江町のデータである。


http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/hourly_a1.php?prec_no=36&block_no=0295&year=2013&month=09&day=15&view=p1

排水した堰内の溜まり水の採取は、「15日」とされているだけで、時刻の表示が無い。東京電力が全βの簡易測定の結果をプレスにメールを送ったのは、16日6:03である。

ちなみに、汚染水対策WG第5回で採用された、全βの簡易測定は、約8時間ほどで測定できるもの、ということであった。

いったい、排水した溜まり水は、15日のいつ採取したものなのか。

東京電力のサンプリング結果は、およそ採取日とともに、採取時刻も記載される。
なぜ、排水した溜まり水の採取時刻の記載が無いのか。

前回の記事で、タンクエリアについての東京電力からのメールを、時刻とともに、時系列で記載した。

「16日に急激に降雨量が上がり、緊急に排水した」その前日、15日も急激に降雨量が上がり、Bエリア南側の堰内の溜まり水が溢れ、排水路の土嚢が流出し、H4エリアの溜まり水を移送している。

浪江町の降雨量のグラフを見ると、15日13時に、1時間に41.5ミリという豪雨が降っている。

16日に緊急排水した、という溜まり水は、15日採取して測定、となっているが、いったい何時に採取されたものであろうか。

16日6時に発表、だいたい8時間の測定、もろもろの伝達、採取、移動の時間から考えても、15日の豪雨のあとの測定では無いだろうか。

(この全βの測定は5,6号機のラボで主に行われ、コンタミ(汚染)が混じる可能性を下げるため、採取したあと、迅速に測定される、とのことである)

大型台風が福島第一原発近くを通る前に、タンクエリアの堰内に溜まり水が存在するのを知っていながら、なぜ、その水の測定をしなかったか。

なぜ、全βのみの測定、タンクの汚染水の漏洩の寄与のみを調べ、セシウムの測定をしなかったか。


天気予報がありながら、「緊急の測定・排水」にしたのか。

ぶら下がりでの東京電力の社員の回答にあるように思える。
告示濃度限度以下ならば、排水をするのか、それならば、希釈すれば、いくらでも排水できるではないか、という問いに対し、
「現在の法律では、そうなっている」

つまり、堰内に溜まり水があるのを知っていながら測定をせず、大型台風が来てから(豪雨の後?)溜まり水を採取し、測定したのは、
「希釈すれば、いくらでも排水できる、現在の法律ではそうなっている」
という考え方のように思えてならない。

9月15日の採取時刻の発表が無かったが、それは具体的にいつなのか。
サンプリング試料は測定値とともに採取時刻はおよそ記載されるが今回は日時のみである。採取時刻は、全βの簡易測定の発表時刻からある程度推測されるが、今後、追及していく。

【DNBオリジナル】

(余談だが、前回の記事で言及した、24Bq/Lと2.4Bq/Lを読み間違えた経緯がわかった。
現場の測定者が手書きの測定値のメモを、現場の東京電力の情報共有の部署に手渡した。そこでコピーをとった時点で、24の間に黒い点がつき、2.4と読みたがえた。その情報がそのまま、本店や各部署に流れ、そのままプレス発表につながった。排水の判断となり、排水が始まってから、現場の測定者が「24Bq/L」の地点が「2Bq/L」となっていることに気づき、訂正が入った、というのが経緯である。
現場に最も近いところでの誤りであった、とのこと。
福島第一原発敷地内のコピー機が劣化しており、黒い点が入った、とのことである。)

[caption id="attachment_14814" align="aligncenter" width="620"] 質問をする筆者。(撮影、2週間ぶりに会見に参加した、おしどりケン)[/caption]

【DNBオリジナル】