ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

ついに原発推進機関の専門家からも疑問の声が出て来た原発事故処理問題(大貫 康雄)

IAEA(国際原子力機関)はご存知のとおり、原子力発電推進機関で福島第一原発事故の後も、とにかく日本政府・東電の対策を基本的に支持してきた。

しかし、16日にウィーンの本部で開かれた総会で、各国代表からの懸念や疑念が相次いで出される異例の展開となっている。それは事故から2年半も経つのに、収束はおろか逆に新しい問題が次々に出ている状況を深刻に考えているためだ。

IAEA総会と機を合わせるかのように、16日(午後10時)のNHK・BS1は、東京電力が原発事故収束に協力を求めた海外の専門家の活動の一端を紹介した。いわゆる「国際協力福島計画」(Fukushima Plan)の技術者たちが、事故収束にどんな問題があり、何を検証しているのかを追ったものだ。

国際協力団は脱原発論者ではなく、あくまでも原発推進機関の専門家であり、番組も脱原発を意図したものでもない。だが番組では、事故収束に関する専門知識と技術が示されている。

番組で示された要点(順不同)は以下の通り。(カッコないは筆者。技術者の固有名は省略)

(1)汚染水に含まれるトリチウムは、現在の技術では除去が困難。そのままでの放出は国際的な取り決めで禁止されている。IAEAも一定程度の除去しかできないと認めている:(ロシア)

(トリチウムは低濃度でも遺伝子に異常を引き起こす。事故後2年半も経った後であるが、13日、東京電力は広く国際社会にトリチウム除去技術を公募することとなった)

(2)福島第一原発の事故は核燃料棒が溶融し、炉心を突きぬけコンクリート製の格納庫の底を溶かして固まった状態。スリーマイル島(TMI)原発事故より遥かに深刻。TMI事故では核燃料棒の取り出しに計10年を要したが、福島第一原発事故での燃料棒は鉄だけでなくコンクリートに含まれる様々な物質と相互作用を引き起こし、非常に硬い放射性物質と化している。このためプラズマを使った燃料の切断作業が困難になる。チェルノブイリ事故でも同様だった。:(米)

(3)福島第一原発事故での燃料取り出し作業は、ひとつの万能型の削岩機では不可能だろう:(ロシア)

(4)その他、こんな点も指摘された:TMIでは高濃度の放射能に満たされた炉心内に藻のような生物が繁茂し、パイプを詰まらせ、除去に1年かかった。東京電力は予期しないことが起きることを前提に物事に対処するべき:(米)

この国際技術協力団の技術者は、比較的穏便なものの言い方をしていた。

しかし日本政府(東電)は、何故わざわざ難しい技術を使おうとするのか。何故、外国の協力提案を考慮してこなかったのか。原子力ムラ内の自分たちの利権を奪われないためなのか……。以上の批判や疑問は、特にヨーロッパの新聞・テレビがインターネット版で何度も報じている。サイトを開けば皆さん簡単に探して読めるのでここでは省略する。

また、現在、日本政府(東電)が地下水の流入を食い止めるために採用したのは、土壌を凍結させる方法だ。地上から地下何メートルにもわたって凍結壁を作り、地下水の原発敷地内流入を防止するという。

なぜ、わざわざ複雑な技術による手の込んだ方法を用いるのか。なぜ、チェルノブイリのように暫定的であっても、分厚いコンクリートを地下深く打ちこんで放射能の外部流出を食い止めようとしないのか。凍結液は定期的に交換しなければならず、そのために膨大な電力が必要だという。

番組では、国際協力に積極的な米・ザヴァンナリヴァー国立研究所を訪ね、そこで開発された土壌凍結剤を用いた汚染水対策が紹介されていた。

低リスクはゼロリスクではない。だが日本では当初からゼロリスク非現実的な安全神話を振りまいてきた。

当然のことながら改めて、“日本政府・東電は何をするにも、国民に長所・短所も含めすべての情報を公開し、国民の理解を得ることが最優先の課題だ”(英)との指摘が出された。

繰り返すがこの番組は脱原発や反原発を取り上げたものではない。あくまでも原発商業利用推進の技術者たちの提言、助言だが、日本政府・東電の対応は彼らでさえも満足させるものではなかった。

【DNBオリジナル】

© 国土画像情報(カラー空中写真) 国土交通省