IOCでの安倍総理発言を、東京電力も慌てて政府に確認(おしどりマコ)
2013年9月9日の東京電力定例会見は、ある一点に質疑が集中した。
9月8日のブエノスアイレスでのIOCでの安倍総理の発言、
「汚染水は福島原発の港湾内0.3km2の範囲内に完全にブロックされています。」
2020年のオリンピックが東京に決まった、この最終プレゼンでの発言に質疑が集中したのである。
筆者は、この日本の最終プレゼンもライブ中継で視聴していた。
日本のプレゼンが終わったあとの質疑で、福島原発事故への質問、汚染水への質問が出た。
いくつか質問の挙手があったが、次の質問者の
「私の質問も前の方と同じ、原発事故の汚染水についての質問なので省きます。」
という様子を見ても、かなりの関心度であったことが伺える。
その最終プレゼンの質疑での回答、安倍総理の発言に驚いた。
筆者は、東京電力の定例会見、原子力規制庁の汚染水対策ワーキンググループなどに取材を重ねているが、
「汚染水は福島原発の港湾内0.3km2の範囲内に完全にブロック」
という事実は初めて聞いたからである。
知らないうちに、新しい見解が発表されたのか、と直近の資料をすぐに調べ始めたほどだ。
残念ながら、安倍総理の発言は全くの間違いである。
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9月9日の東京電力の定例会見で、興味深い事実が出てきた。
なんと、東京電力自体が、安倍総理の発言について、9日に政府に問い合わせをした、というのだ。
「お考えが同じかどうか、確認をした」というのである。
具体的な部署としては、東京電力の汚染水対策本部連絡調整チームが、発言の主旨をエネ庁原子力政策課に確認をしたとのこと。
「政府の見解としては、日本近海、および近海でモニタリングを行っていて、その結果、放射性物質の影響は、発電所の港湾内に留まっている、というのが一点、
宮城県沖から千葉県沖にかけて、福島県沖を含む、広い範囲でモニタリングをすると、セシウムの値は検出限界値以下、または告示濃度を下回る値であるということ、
継続的に上昇傾向である、ということは認められないということをもとに発言されたということをお聞きしてございます。
私どものモニタリングでも、実際、港湾外のデータは、告示濃度を下回るようなデータでございます。
ですので、主旨としては、私どもと総理のご発言を同じ主旨であるのかな、とそのように思います。」
ここでポイントなのは、「告示濃度を下回る」という表現である。
原発事故によって環境中に放出された放射性物質は、港湾外で「告示濃度を下回っている」だけで、現在も検出されているのである。
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筆者は、東京電力が日々、測定している、港湾外の測定点、5.6号放水口北側の地点について質問した。
ここは、港湾外であり、港湾口と離れていながら、放射性物質が検出されるポイントなのである。なぜか、というと、5.6号機の取水―放水ラインは生きており、現在も、毎時6500m3の量を、せっせと港湾内から港湾外へくみ出しているのである。
なので、港湾内と港湾外への海水の流通は、潮汐とともに、この5.6号取水―放水ラインのあなどれないと筆者は考えている。実際、1~4号の取水―放水ラインは現在、活用されていないので、1~4号放水口付近より、5,6号放水口付近のほうが、放射性物質の濃度が高い。
(しかし、2011年12月と、2012年3月は、汚染水が排水路から海に直接漏えいし、その排水口付近と、1~4号放水口付近は近いため、ストロンチウムなどの核種が告示濃度を大きく超えている。この件だけでも、「汚染水は完全に港湾内でブロックされている」の真意が筆者は理解できなかったのだが… 現在の状況においてのみの評価であろうか?)
――東京電力のモニタリングで、港湾外である5.6号機放水口北側で、現在も汚染水の漏洩に合わせて放射性物質が検出されているが、これでも『港湾内で完全にブロックされている』という評価なのか
東電今泉氏「検出されているが、告示濃度より低い、と考えている」
――告示濃度より低いということは、ブロックではなく、影響がある、と?
「影響が、少ない、ということである。」
このような回答である。
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そして、「日本近海のモニタリングで放射性物質の影響は、発電所の港湾内に留まっている」という政府の見解について。
東京電力は「政府は政府のデータで判断し、東電は東電のデータで判断している」というのだが、9月5日に筆者は新潟県庁の県知事会見の取材に行った際、県庁の資料室で興味深いデータを発見した。
新潟県と東京電力が、柏崎刈羽原発の環境放射線監視調査結果の資料集を毎年出しているのだが、平成23年度版において、柏崎刈羽原発敷地内、港湾内の測定結果で、福島第一原発事故における影響で、放射性物質の濃度が上昇している、と報告してあるのだ。
(後日、民間の研究所にこのデータを見せると、港湾内の汚染は、海からの汚染水ではなく、河川の汚染、フォールアウトが河川に集まり、それが河口に集まり、海を汚染していった、と考えられるそうである。事実、その研究所の測定で、関東の様々な河川の汚泥から、放射性物質が検出されたそうである。)
――このように、東京電力自身が、日本近海で、原発事故による汚染をモニタリングしているが、この「汚染水は港湾内に完全にブロック」は現在の状況だけを指しているのか?
過去の汚染水の漏洩や、東京電力の柏崎刈羽のデータなどをみると、全くブロックされていないわけだが、どう評価しているのか?
回答は「確認します」であった。
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さらに、安倍総理の発言を受け、菅官房長官が9日の午後の会見で、
「汚染水が漏れた湾内にシルトフェンスを設け、外に出さないようにしている。(略)これを『コントロールしている』と言うのは当然ではないか。」と発言している。
しかし、9日の会見で東京電力は
「シルトフェンスで海水の行き来がゼロになるかといったら、そういうふうには考えていない。一定の抑制効果があると思うが。トリチウムは、シルトフェンスでは抑制できない。」
と説明している。
筆者は、最近の作業実績に
「海側遮水壁工事における先行削孔船の移動に伴い、1~4号機取水口付近に設置したシルトフェンスの開閉を実施。」
というものが加わっているのが気になり、具体的に、どういう作業内容か、シルトフェンスの開閉状態はどうなっているのか、以前から質問していた。その回答が9日の会見内で出た。
この作業中は、つねに、シルトフェンスは開放しているというのだ。
最近の作業実績でいうと、9月6日の9:00~9:45と、9月9日の8:40~9:00、11:05~11:30は、その時間は全てシルトフェンスを開放していたという。
この会見の内容を受けてか、菅官房長官は10日午前の会見で
シルトフェンスについて「水は当然行き来している」とし、完全に遮蔽するものではないことを認めた。
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IOC総会の2020年のオリンピック開催地を決定する重要なプレゼンにおいて、「福島原発の安心安全を保障するという、科学的根拠を示してほしい」という質問に対して、
東京電力もとまどって翌日に問い合わせるような回答を、安倍総理が世界に向けて発言するとは、どういうことだろうか。
安倍総理は間違っている。
「汚染水は港湾内、0.3km2に完全にブロックされている」のではない。
「汚染水は、海洋に流れ、希釈されて、拡散されている。」
これが正解である。
【NBオリジナル】