シリアへ問題で情勢分析を誤った安倍首相の稚拙外交観(藤本 順一)
夏休み明け早々、緊迫するシリア状勢をめぐり安倍晋三首相は手痛いミスを犯してしまった。
ケリー国務長官が26日の声明でシリアのアサド政権が化学兵器を使用したと断定、翌日にはオバマ大統領がキャメロン英首相やカナダのハーバー首相と軍事介入に向けて電話会談を行ったとのニュースが世界を駆け巡った直後の安倍首相の発言である。
中東訪問中の安倍首相は28日の記者会見で「シリアで化学兵器が使用された可能性が極めて高いと考えている。日本政府は事態の改善のため、国際社会と緊密に連携していく」と述べている。さらに、これと前後して行われたカタールのタミル首長との会談では「情勢悪化の責任は、暴力に訴え無辜の人命を奪い、人道状況の悪化を顧みないアサド政権は道を譲るべきだ」とまで言い切ってしまったからだ。
この二つの発言を合わせれば事実上、日本は米国の軍事行動によるアサド政権の打倒を支持し、日米が軍事的プレゼンスを含め共同行動に出ることを宣言したものと、少なくとも国際社会では受け取られよう。
おそらく、米国への支持をいち早く示すことで同盟国としての存在感だけでなく、安倍首相自らのリーダーシップを見せつけたいとの誘惑にかられたのだろうが、その後の経緯をみれば拙速がすぎた。
国連安保理決議は見送られ、米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)は不参加、頼みとしたキャメロン首相も英国議会には軍事介入を否決されては身動き取れずにオバマ大統領は窮地に立たされている。
安倍首相が情勢分析を誤ったのは明らかだ。もっと言えば、国民への説明もなく、いきなり国連決議の枠を越えて米国の軍事行動に追随する安倍首相の発言には憲法9条を軽んじる危険極まりない思想がある。
菅義偉官房長官は2日の記者会見でアサド政権の化学兵器使用について 「誰が使用したかは、引き続き関係国と緊密に連携を取りながら情報を収集、分析しているのが今の現状だ」と述べるにとどめたが、この間の安倍発言との矛盾をどう説明するのか。早急に国会を召集するべきだ。
【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】
Photo : Shinzo Abe(Wikimedia Commons /Author:Ogiyoshisan)