海洋への汚染水漏洩は目視できる状態に!?(おしどりマコ)
福島第一原発で、海に流れ出している汚染された地下水の状況は、情報が出てくれば出てくるほど、過去最悪なものとなっている。
8月10日の16時54分、東京電力から下記の連絡がきた。
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報道関係各位
○福島第一原子力発電所1~4号機タービン建屋東側観測孔においてトリチウムおよびストロンチウムが高い値で検出されたことについて、その後の状況についての続報です。
○本日(8月10日)新たに掘削した地下水観測孔No.1-8(地下水観測孔No.1から東側へ約18m、地盤改良エリアから西側へ約2m、護岸から約7m)の地下水位測定結果について、以下の通りお知らせします。
<地下水観測孔No.1-8>
O.P.+2,800mm(基準標高確認中のため暫定値)
○引き続き、他の箇所の追加ボーリングの結果や港湾内や放水口などの海水の分析結果を踏まえて、監視を強化してまいります。また、護岸の地盤改良工事を継続するとともに、今後、取水電源ケーブルトレンチ内の汚染水の移送、閉塞および海水配管トレンチ内の汚染水の浄化など汚染拡大防止対策を鋭意進めてまいります。
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この地下水観測孔No.1-8は、最も海に近かったNo.1-1(護岸から4m)が土壌改良工事のため使用できなくなったので、新たに掘削された観測孔で、現状、ここが最も海に近い。
筆者の過去の記事を参照して頂きたい。
「海側遮水壁の上部2mほどは、遮水できていないので汚染水は海洋へ出続け。」
http://op-ed.jp/archives/12909
「汚染水は遮水壁を乗り越えているという前提で緊急の対策を」
http://op-ed.jp/archives/12947
つまり、汚染された地下水が海洋へ漏洩することを防ぐための土壌改良工事は、上部2mほどが遮水が効いていない。なので、海側の地下水の水位によって、汚染された地下水が遮水壁を乗り越えて、海洋へ漏洩し続けているかどうか、評価するのである。
このあたり、いわゆるNo1エリアの地盤はO.P.+4,000mmである。
東京電力からのメールで、暫定値ではあるが、海に最も近い地下水観測孔の水がO.P.+2,800mm、つまり地盤から、深さ1.2mのところまで、すでに地下水がきているのである。
地盤から、深さ約2mのところまでは遮水が効いていないので、つまり、これは遮水壁が効かず、海洋へ漏洩していることを意味する。
ちなみに、筆者は8月9日の東京電力定例会見で、地下水の水位において次ようなやりとりをした。
[caption id="attachment_13384" align="aligncenter" width="620"] 上部のグラフが水位トレンド。8月9日報道配布資料。[/caption]
――地下水観測孔の地下水位トレンドグラフについて。
東京電力は冒頭の説明で「8月3日から地下水観測孔No.1がやや頭打ち」と言っていたが、これはどのような評価をしたのか? 3日から漏洩がある、もしくは南北方向に(遮水壁のサイドに)地下水が逃げた評価か?
東京電力尾野氏「まずこのグラフの赤い濃い実線を見ると、右肩上がりで上がっていた物が、3日あたりで頭打ちでやや下がり、その後、また持ち直している、こういう動き方に入っている。これらの様子を見ていくと、下の降雨との関係で見ていくと、何らか関係がありそうだということと、ガラスを打っていないNo.1以外のNo.3と比較で見ると、このあたりの動きは No.3の動きとほぼ並行に見えているという事がある。
こうしたことから見ていくと、この動き自身がNo.1だけが特異的に動いている状況ではなく、他の場所と、ほぼ協調して動いていると見て取れる動きが始まっているということである。
東京電力としての評価で言うと、今しばらく様子を見ていく必要があると思っているが、どうも、No.1エリアのNo.1ボーリング孔の地下水の、要はガラス遮蔽したことの上昇は、バランス点に入ってきた、あるいはそれに近づいているというように、見て取れる。
従って、今後、そこをよく見ていくということだが、これはそこに流入してくる量が水位が上がったことにより、動水勾配が実質的に下がるから減ってきているという事であったり、多分、その一部は最後の方に、脇の方に流れていくという事だろうし。それから当然議論はあるが、ガラス壁を越えて護岸側に一部廻っている可能性もあるだろうということで、そのあたりをしっかり見ていく事かと思っている。」
つまり、東京電力も、8月3日あたりから、この遮水をした付近の地下水がバランスする、満水に近い状態になり、遮水壁のサイドか、遮水壁を乗り越えて海洋に漏洩しているのではないか、と評価しているのである。
ちなみに、原子力規制委員会はもう少し早い、7月20日付近で、遮水壁を乗り越えて海洋へ漏洩しているのではないか、と評価している。(8月2日の汚染水対策ワーキンググループにて)
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筆者は、このエリアの地下水の汚染が発覚した6月からずっと、このエリアの地下水の総量と流速、そして水位の評価を出してほしい、と質問し続けている。(数週間質問し続けた結果、地下水の水位のデータが存在することがわかり(!?)参議院選の翌日に、水位のデータが公開され、それとともに、海洋への漏洩が発表されたのである)
この付近の地下水の総量が把握できなければ、遮水壁を作っても、いつそれを乗り越えて再び漏洩が始まるか、予測ができない、と質問し続けたのだが、「検討中」というまま、地下水が遮水壁を乗り越えてしまい、再び海洋への漏洩が始まった。
土中の遮水壁が上部2mほど遮水がきかない、というのも、実は、東京電力は当初からわかっていたことであった。
その情報を、7月10日付近ですでに出した、図面を見たという東京電力の社員がいたので、改めて東京電力の広報に問い合わすと、それは間違いで、8月2日の会見にて説明する、と回答があった。(その経緯は下記の記事にもある)
http://op-ed.jp/archives/12909/3
筆者は8月2日は規制委員会の汚染水対策ワーキンググループに出席していたため、東京電力の会見には出席できなかった。しかし、会見の動画を確認すると、冒頭で「7月10日に説明をした、というのは間違いであった、訂正する」と謝罪が簡単にあったのみである。
では、何をもって、「遮水が上部がきかないという図面を見た」という東電社員がいたのか。
筆者はその社員に改めて聞くと、この図面であった。
[caption id="attachment_13385" align="aligncenter" width="620"] 左下の【工事完了後の改良体イメージ】に注目。[/caption]
これは、東京電力が規制委員会に6月28日に提出した資料である。
第13回特定原子力施設監視・評価検討会 資料1-2
http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/tokutei_kanshi/data/0013_04.pdf
この【工事完了後の改良体イメージ】を見ると、薬液注入による地盤改良は
「直径約80cm×高さ約13m」とある。
筆者はその図面の数字を聞き、東京電力社員に驚いて聞き返した。
――13m!? ここは16mの深度で薬液注入をしたはずでは? では、遮水が効かないのは上部2mではなく、3mなんですか?
筆者が下記の記事で書いたポンチ絵である。
http://op-ed.jp/archives/12909/3
東電社員「いえ、下部に1m難透過層があるのです。その部分と、遮水が効かない上部2m、合せて3m、そして、遮水が効くのが13mなのです。この図面は6月末に出しているでしょう」
――いや、でも、これは規制委員会の図面で、記者会見では出してないですよ。
東電社員「そうですね、私も、記者会見の資料を見て、おやっと思ったのです、あの数字は消したんだな、と思って… でも規制委員会の資料を見て頂ければ書いてありますし、規制委員会も、マコさんみたいに、この付近は不透水層まで深度16mで薬液注入する、とちゃんと数字が入っていれば、すぐに気づけたはずです。」
――いやいや… そんな間違い探しみたいなことせず、きちんと東京電力が自ら説明をしてください! するべきでしょう…
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原発事故の偽りの「収束宣言」以降、現在、最もシビアな状態が露呈している。高濃度の汚染水が海洋へ漏洩し続けているという事態だ。
冒頭に書いた、海から7mの地下水観測孔No,1-8の水位が地盤から1.2mということが暫定だが測定されたため、遮水壁を汚染した地下水が乗り越えた、というデータが次々と出ている。
その東京電力のメールが届いた8月10日、筆者は福島第一原発の作業員から、憂鬱な情報を得た。何人かの作業員に確認したところ、海洋への地下水の漏洩は、「目視できる」というのだ。
「ちょろちょろというものではない、川のような流れ」
「ザブザブというゆるやかな滝のような感じ」
このように、海への漏洩が目視できる、と報告をきいた。
なるほど、海水中の護岸の下部からではなく、遮水壁の上部を乗り越えて漏洩している現在では、護岸の上部からの漏洩となり、海面から漏洩付近が上部に移動し、目視できるということであろうか。
「この付近の写真や映像もあるはずだが、公開しないのではないか」そう話す作業員もいた。
このような非常事態の、東京電力からのメール、作業員からの連絡を次々と筆者が受けている中、TVでは、安倍首相が10日から夏休みに入った、というニュースを報道していた。映像でゴルフに興じている首相は、小泉政権以降の長期休暇をとり、21日まで復帰しないということであった。
原発再稼働を進める安倍政権は、この汚染した地下水が海洋に漏洩し続けている現状を、どうやら問題にしていないようである。
ちなみに、規制委員会はお盆休みの週も、朝から晩まで次々と検討会、ワーキンググルプが入ってきている。8月2日の緊急に設けられた汚染水対策ワーキンググループの更田委員の言葉、
「東京電力に手が余るようなら、声をあげてください。
国でも何でも使ってください。
東京電力の手に余り、やはりできませんでした、では済まない問題ですから。
厳しい言い方だが、次回は、資料を耳をそろえてもってきてほしい。
JAEAでもJNESでも、とにかく国でも何でも力を借りて、全てをあげて対応にあたるべき問題です。」
この言葉が現状を表している、と筆者は感じる。
【NBオリジナル】
[caption id="attachment_13388" align="aligncenter" width="620"] 質問をする筆者。(撮影、おしどりケン)[/caption]
【NBオリジナル】