圧勝した自民・安倍首相の憂鬱と脆い足元(平林 壮郎)
誰もが予想した通りに自民党大勝、民主党惨敗という結果になった参院選。衆参のねじれが解消し安倍晋三首相の政権基盤は格段に強まったように見える。あまりの勝ちっぷりに自民党の1強体制の到来を意味する「2013年体制」という言葉を使うメディアすらある。確かに小さくなった野党はバラバラで再生と再編は容易ではないだろう。それでも首相の足元は意外に脆弱で薄い板の上に載っているに過ぎないことを見落としてはならない。しかも首相でありながら政治家としての理念や信条を自ら封印せざるを得ないというジレンマは続くのだ。
土俵の上の横綱にまわしを締めたちびっ子が束になってかかって行く。今回の参院選はそんなシーンを見るようだった。
1人区が31選挙区もあるのに、力の弱い野党が結束できない。しかも安倍政権への高い支持率が続き、頼みの風も組織力に勝る自民党に吹いている。有効な選挙協力が打てなかった野党の非力ぶりが、安倍首相をして「国会より選挙の方が楽だった」と言わしめるほどの戦いにさせた。
こうした選挙戦術の拙さだけではない。安倍首相が打ち出した経済政策アベノミクスに代わる日本経済立て直しの道を野党は示せなかった。アベノミクスの副作用を単に批判するだけでは有権者の胸に響かなかっただろう。
当否は別にして「経済を再生させる明確な意思」は安倍首相からしか伝わってこなかった。少しでも暮らしがよくなればとの国民の切実な願いは、円安と株価の上昇という形で目の前で動き出したアベノミクスに吸い寄せられた。こんな情勢であれば自民党の「歴史的勝利」に終わるのに不思議はない。
かつての似たような光景を思い出す。
自民党は1986年に中曽根康弘首相が仕掛けた衆参ダブル選挙で地滑り的勝利をおさめ、中曽根氏は誇らしげに「86年体制ともいえる新しいスタートを切った」と宣言したことがある。最近でも2005年に小泉純一郎首相が踏み切った郵政解散で無党派層の取り込みに成功、圧勝した。
だが、国民の支持を集めた自民党政治はその後どうなったのか。
89年参院選で惨敗し、中曽根氏の「86年体制」という言葉は束の間の幻影でしかなかった。小泉氏の劇場型政治の手法で引き付けたはずの無党派層は4年後に民主党政権を選択した。
鋭いけれど、移り気。それが民意なのだ。今回の参院選で多くの有権者が自民党に投票したのは、アベノミクスの成果をもう少し見てみようという限りでの支持でしかない。
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉や消費税増税の判断など難問が待ち構えているが、安倍政権の行方は何よりも景気の動向にかかっている。
世論だけではない。衆参ともに「適正な議員数をはるかに超えて酸欠状態」(自民党関係者)という党内も一枚岩ではない。首相の「右寄り路線」の行方に懸念を抱いている議員は多い。アベノミクスの歯車が狂いだしたら抑えられている党内の不満は顕在化する。
歴史認識を見直し、憲法改正を実現して「戦後レジームからの脱却」を果たす。安倍首相の譲れない信念でもある。第1次安倍政権で「美しい国」を連呼して手痛い失敗を喫した首相は、今回の参院選では「誇りある国」を何度も口にした。理念が先行するタイプの政治家であることに変わりはない。
持論を披瀝すると、中国や韓国が反発するだけなく、首相が最大の同盟国と頼む米国からも厳しい視線にさらされる。一国のリーダーでありながら国際社会に向けて自らの歴史観や政治的信条を述べることができないという現実はまだ続く。
首相に返り咲いて7か月。いまだ中国、韓国との首脳会談が実現しない。暗礁に乗り上げた中韓との関係をどう前に進めるのか。参院選を乗り切り国内では信任を得たが、外交でも手腕を発揮し、状況を動かす賢明な政治家であることを示さねばならない時が来ている。
いつまでも「対話のドアは開いている」ではすまないことは言うまでもない。
【DNBオリジナル】
photo from http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Abe_Shinzo_2012_02.jpg?uselang=ja
by TTTNIS
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