総理のみなさん、相手を間違っていませんか?菅元首相が安倍首相を提訴(上杉隆/文・写真)
菅直人元首相が安倍晋三首相を訴えるというので久しぶりに国会に行った。
参院選の真っ只中である。
もしかして原発事故の対応について、政府や東京電力でも訴えるのではないかと少しだけ期待していた私が愚かだった。
結果は、2年前、原発事故について記した安倍首相のメルマガが虚偽であり、それが菅元首相の名誉を毀損するという話だった。
総理大臣を経験した政治家にしては小さい、あまりに小さすぎる。
とはいうものの、訴えられた安倍首相も同じようなものである。
自身のフェースブックやHPでは、国家の問題を論じるよりも、自らを批判したジャーナリストをやり玉に上げ悦に入っていることが多い。
国よりも自分、自分が一番大切なのだ。
それが日本の最高権力者の正体だ。
さて、安倍元首相(当時)が菅首相(当時)を訴えた2年前、最大の「犯罪企業」である東京電力の事故後初の株主総会が開かれている。
その時の拙文を再掲載しよう(日時など一部補足している)。
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きのう(2011年6月30日)、東京電力の株主総会が開かれた。約6時間に及ぶロングラン総会は荒れ模様となったものの、社長の交代、原子力発電の続行など、結局、当初の方針通りに終了した。結果として、東京電力は株主総会を乗り切ったのである。
東京電力は、国家を滅ぼすような大事故を起こした企業である。そのうえで「情報隠蔽」を繰り返し、国民の健康や生命に危害を及ぼしている。
にもかかわらず、お咎めはない。これは、いったいどういうことなのか。
〈福島県内の保護者らでつくる市民団体「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」などは30日、福島第1原発事故の影響調査で福島市内の6~16歳の男女10人の尿を検査した結果、全員から微量の放射性物質が検出されたと発表した。
検査を担当したフランスの放射線測定機関「アクロ研究所」のデービッド・ボアイエ理事長は記者会見で「福島市周辺の子どもらに極めて高い確度で内部被ばくの可能性がある。事故前の数値はほぼゼロだったと考えられる」と話した。
発表によると、尿は5月下旬に採取。放射性セシウム134の最大値は8歳の女児で尿1リットル中1.13ベクレルだった〉(共同通信)
きょう、共同通信が発表したニュースは衝撃的なものだった。福島のこどもたちの被曝が確定的になったのだ。
3月の事故発生当初から、東京電力は、政府や新聞・テレビと一体となって、「嘘」をつき続けてきた。放射能は外部に漏れない、よって避難の必要はないという情報を提供したのは東電である。
その言を信じた福島の親たちは、結果として愛しいわが子を被曝させることになった。これは犯罪ではないか。
〈焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件で、運営 会社「フーズ・フォーラス」(金沢市)が、富山や福井など4県の全20店舗について、被害者の補償金などを確保するため、入札による一括売却を計画していることが23日、フーズ社の代理人弁護士への取材で分かった。
既に10社以上の同業者が応募。1回目の入札を今月末に行い、残った社による2回目の入札を7月中旬に実施する。売却額は3億円以上を見込んでいるという。
弁護士などによると、フーズ社は営業再開を断念し、8日に従業員約60人を解雇した。今月末に解散、清算手続きに入る予定〉(共同通信)
このニュースの通り、この食中毒事件は徹底的に糾弾された。捜査当局は社長宅含め、家宅捜索を行い、マスコミは同社長を「極悪人」に仕立て上げ、連日報道、自宅まで詰め寄った。結果、会社は本日解散、来月からは被害者への賠償が始まる。
一方で東電の原発事故はどうだろうか。
この事故によって、何千人とも、あるいは何万人にも上る健康被害者の出ることが確定的になっている。高濃度の放射能の飛んできている東日本の広い範囲では、人生を一変、あるいは破壊された人々が、きょうも不自由な生活を余儀なくされている。
さらに、これからの日本を背負っていくこどもたち、彼らの少なくない人数を放射能被曝者にしてしまった。なんということだろう。これは世界的にみても、許しがたい企業犯罪に他ならない。
ところが、この日本では、政治も、行政も、財界も、司法も、マスコミも、東京電力の国家的な犯罪行為を追及しようとしない。いや、むしろその犯罪行為の隠蔽に加担している有様だ。
なぜ、東京地検特捜部は、東京電力本店に家宅捜索をしないのか。この3ヵ月間、うんざりするような情報隠蔽を繰り返し、多くのこどもたちを被曝させ、その親に将来にわたる不安を植え付け、平和な日常生活を奪い、国土をつぶし、海洋を汚染し、国際的な信頼性を毀損させたこの企業を放置しているのか。先月、捜査当局者のひとりに尋ねた際、その人物は私にこう回答した。
「まだ、原発事故は進行中であり、ここで捜査に入るわけにはいかない。すべてが終わってからだ」
政治も、マスコミも、東電に対しては及び腰だ。追及をしないどころか、東電幹部を庇うかのように「復興」「支援」ばかりを謳っている。
そうこうしているうちに、株主総会は終わり、社長は交替した。東電幹部は、実質、誰一人責任を取らずに給料をもらい、普通の生活を送っている。
一方で、ユッケを売った社長は、徹底的に糾弾され、人生のケリを付けさせられようとしている。
思えばそれは堀江貴文氏に対してもそうだった。検察は、堀江貴文氏を、なんの前触れもなく逮捕し、家宅捜索を繰り返し、結果、会社をつぶし、実刑有罪判決を食らわせ、刑務所にぶち込んだ。マスコミは彼を極悪人に仕立て上げ、社会から抹殺した。
だが、彼は、本当にそんなに悪いことをしたのだろうか。
この国では、あまりに巨大な悪は免責されるのだ。国家が加担し、マスコミが黙認した犯罪は、見逃されるのだ。
そして、5年後、10年後、国際賠償などの信じがたい不幸がこの国を襲い、多くの国民が被曝による健康被害と戦い始めた頃、東電幹部たちは、引退し、何食わぬ顔で生活していることだろう。
それは、政府、マスコミにも言える。犯罪者たちを放置することは決して許されない。どの国家であり、社会であろうと犯罪者は罰せられるべきなのだ。そうでもしなければ被曝者という被害者たちも浮かばれないではないか。(2011年7月1日『ダイヤモンドオンライン』に発表)
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菅元首相は提訴の相手を間違ってはいないだろうか?
同じく安倍首相も向けるべき批判の矛先を違えていないだろうか?
総理大臣のみなさん、本当の相手をよく確認されたらどうでしょうか?