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鳩山元総理の“尖閣発言”に過剰反応する安倍政権(大貫康雄)

鳩山友紀夫(“由”から“友”に改名)元総理とインターネット番組で80分ほど話をした。そこで、6月13日に香港の『フェニックス・テレビ』のインタビューで「(尖閣諸島について、日本が)盗んだと思われても仕方がない。カイロ宣言の中に尖閣が入るだろうという解釈は中国側からは充分に成り立つ話」などと述べ、尖閣諸島が日本と中国との間の係争地であるとの認識を示した件について聞いてみた。

というのは、鳩山氏の発言に対し、菅義偉内閣官房長官が記者会見で「私は絶句した。あいた口がふさがらないという言葉があるが、まさにこのようなことだろうと思う」「このように我が国、領土の主権を揺るがせるような発言をすることは国益を著しく損ねるものであって断じて許すことができない」と述べ、また民主党の幹部まで鳩山氏の発言を非難していると報じられたからだ。

さらに一連の報道にインターネットで鳩山氏に攻撃が加えられ、右翼の街宣車が鳩山氏の自宅に押し掛けるなどの過激な反応があったので、いったい何を言ったのか、本人に確かめるためだった。

我々の質問に対し鳩山氏は、カイロ宣言報道文(英語原文)を指しながらていねいに説明した。氏によると、インタビューでは同時に尖閣諸島が日本領だという日本政府の主張をきちんと明言し、その上で、中国側から見れば……と話したという。また、鳩山氏は香港のあとに訪れた北京で、中国要人から「貴方は日本の国益を主張した」と言われたこともつけ加えた。

氏が言うように、確かに宣言報道文の原文で、領土に触れた箇所は以下のように記されている(かっこ内は筆者による加筆)。

……. It is their purpose that Japan shall be stripped of all the islands in the Pacific which she has seized or occupied since the beginning of the First World War in 1914, and that all the territories Japan has stolen from the Chinese, such as Manchuria(満州・現東北3省), Formosa(台湾), and the Pescadores(澎湖諸島), shall be restored to the Republic of China.  Japan will also be expelled from all other territories which she has taken by violence and greed.……(下線加筆は筆者による)(カイロ宣言は、1943年11月27日、アメリカ・ローズヴェルト大統領、中華民国・蒋介石元帥、イギリス・チャーチル首相の名で発せられた)

鳩山氏は(習金平国家主席はじめ)中国側が主張の根拠と明言しているカイロ宣言は“such as Manchuria……以下の部分である”と具体的に示しながら、さらにポツダム宣言文の中にもカイロ宣言が履行されるべきことが記されていることを述べた。

鳩山氏は、日本人としては残念だが(日本が受諾した)ポツダム宣言では、“日本の領土は本州、北海道、九州、四国と、我々(連合国)が決定する諸諸の小島に限られる”と記されている。彼らからすれば、これが日本の固有の領土ということになるとも語った(ポツダム宣言は1945年7月26日、アメリカ大統領、イギリス首相、それに中華民国主席の名において発せられた。ソ連はポツダム宣言に後日加わり追認している。“固有の領土”北方領土に侵攻し占拠するのは昭和天皇のポツダム宣言受諾放送の後だ)。

要するに、鳩山氏は中国側の尖閣領有権の根拠を挙げただけの話だ。中国側の主張に同意した訳では毛頭ない。それだけのことである。

従って中国側の反応は冷静で特別歓迎しているものはない。“鳩山氏は日本の主張を展開した”とか“日本の国益を主張した”などの声もインターネットを含む中国メディアの中で紹介されている。

香港のフェニックス・テレビは、台湾、香港、中国大陸など中国語圏の知識人階級を視聴対象にし、また英語放送もしている。海外からの反応も特別なものがあったとは聞いていない。

では、この鳩山氏の発言が、なぜ安倍政権にとって問題なのか!? また民主党幹部はなぜ距離を置くのか!? 菅官房長官も、また民主党の海江田万里代表も、細野剛志幹事長も、鳩山氏に直接会って発言内容を確かめたのか!? あいは鳩山氏に確かめずとも、香港総領事館の駐在職員なりフェニックス・テレビに確かめることをしたのか!?

尖閣周辺海域には、今年も中国政府の船が何隻も領海侵犯をし、接続水域を出入りしている。日本側がいかに固有の領土だと言っても、中国が無断で領海侵犯を繰り返している以上、世界各国は“係争の地”と見る。鳩山氏は国際社会の常識を言っただけのことだ。

鳩山氏の発言に日本政府が影響される必要はない。世界のどの国の政府も、この発言で、菅官房長官がいうように、“鳩山氏が日本の国益を損ねた”などとは考えていない。

問題は、この当たり前のことを発言したことに対し、安倍政権も、そして民主党幹部までもが、かくも過剰な反応をすることである。

当事者に事実確認ができるのにそれをせず、一方的に感情的で大げさな言葉で反発をする。これを聞いた多くの人が誤解して事の真相がわからなくなる。国民を欺く結果にもなる。

そんなことより、以前は両国の一部国民の上陸騒ぎが散発するだけで、両国公船の対峙までには発展しなかったのが、なぜ、今こんな事態になったのか。昨年春の石原慎太郎前都知事発言から野田佳彦前内閣の国有化発言、中国国内での反日暴動などの経緯を振り返り、日中がこれ以上緊迫の度を深めないよう外交的な着地点を見出す努力を最優先にすべきだろう。日本側が施政権を行使し、実効支配している事実に変わりはないのだから。

こんな対応しかできない政権では、マトモナ情報収集・分析も判断も期待できない。自民党の石破茂幹事長は盛んにインテリジェンス……と言うが、こんな反応をするようでは、安倍政権にインテリジェンスは期待できないと危惧するのは私だけではないだろう。

なお、鳩山氏は我々との会話で、総理辞任の後、アメリカのオバマ大統領から手紙が送られてきたこと。その手紙の中でオバマ大統領が、鳩山氏は「Trust me!」と発言し、最後までその言葉に忠実だったと評したこと。辞任が残念だと書いていたことを明らかにした。

*鳩山氏のインタビューは「U3W」(http://u3w.jp)『鳩山友紀夫元総理が明かす尖閣発言の真相』にてご覧になれます。

【DNBオリジナル】

photo by WahEkeim

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