「脅しには屈しない!」タリバンに襲撃された少女が国連で訴えたこと(大貫 康雄)
少女たちに教育を受ける機会を与えてほしいと訴えて、タリバンに襲撃されたパキスタンのマララ・ ユサフザイ(英語ではMalala Yousafzai)さんが、16歳の誕生日(6月12日)に国連本部(ニューヨーク)で演説した。
この演説は英BBCと米CNNが世界同時中継し、日本のマスコミも報じた。マララさんは「彼らは銃弾で私たちを黙らせられると思ったが失敗した」と語り、世界の女性たちに「勇気を持って立ち上がろう!」と呼びかけた。彼女の信念のこもった力のある演説が、いま、世界中の人たちの感動を呼んでいる。
マララさんは12歳のころに“少女にも教育を受ける機会を!”と主張を始め、14歳の時(昨年10月)に“少女の教育を禁止する”イスラム原理主義者タリバンによって故郷のパキスタンで襲撃された。
頭蓋骨を損傷するなど瀕死の重傷を負ったが、イギリスで手術やリハビリを受け、現在はイギリスで勉強を再開できるまでになっている。タリバンはそれだけ、当時一人の少女に過ぎなかったマララさんの言動に脅威を感じていたのだろう。
その後、マララさんの不屈の勇気と少女たちへの教育を力強く訴える姿勢が評価され、世界中から数々の賞が送られた。また、少女や女性の地位の向上を図る国際NGOも立ち上がった。
いまなお、世界の若い女性の4分の1が初等教育さえ満足に受けられていない。マララさんはこの女性教育の問題を世界の課題にしたと評価され、今年のノーベル平和賞の候補(史上最年少の候補)にも正式に挙げられている。
国連のバン・キムン(Ban Ki-moon/藩基文)事務総長は、マララさんの誕生日を“マララの日”とし、それを受けて国連の“地球規模での教育向上”計画特別代表のゴードン・ブラウン(Gordon Brown)前英首相が、マララさんを国連に招待し演説が実現した。
マララさんの演説要旨は以下の通り。
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テロリストたちは私たちの意志をくじこうとしたが、いまの私たちに弱さや恐怖、絶望はない。逆に、私たちは強さ、力、勇気を得たのだ。
“マララの日”は私の日ではない。自分たちの権利の声をあげたすべての女性たち、そして、すべての少年少女たちの日である。
これまでに多くの人たちがテロリストや過激派の犠牲になっているが、すべての人が教育を受けるためにも平和を実現してほしい。
世界の指導者たちは平和と繁栄のために戦略を変えてもらいたい。
無料教育を提供し、テロリストと闘ってほしい。タリバンやテロリストたち、過激派の子どもたちにも教育を受けさせてほしい。
私たちに本とペンと本を与えてほしい。本とペンは世界を変える最も有力な兵器だ。私たちに知識という兵器を与え、一致団結して護ってほしい。すべての子どもたちに、何よりもまず教育を!
(差別と弾圧を受けている女性たちは立ち上がり戦おう! 男性たちが助けてくれるとは思うな)女性たちが権利と教育を求めるのは、女性たちこそが最も犠牲になり苦しんでいるからだ。
女性の権利のために男性に助けを求める時代はあったが、いまや私たち女性が自分たちの権利のために戦う時だ。そして、そのために男性の協力を無視する必要もない。
何よりも、私たち女性自身が勇気と力を得ることが重要なのだ。
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背後の席には両親が座り、表情にいまだに幼さが残るマララさんを見守る。演説は言葉をひとつひとつ確かめるように区切った短いが迫力があり、500人の満場の人たちが何度も立ち上がり拍手を送っていた。
マララさんが身に着けていたのは、遊説中、凶弾に倒れたパキスタンの女性首相、故ベナジル・ブット(Benazir Bhutto)氏のショールだったという。
パキスタンやアフガニスタンでは、今も学校に行く少女たちが襲撃される事件が相次ぎ、中には学校に行くのをあきめるこどもたちもいる。
ユネスコや国際NGOの最新の調査では、現在世界で5700万人の子供たちが学校に行けない状態だ。特に紛争地域では、いまも子どもの半数近くが学校教育を受けられないでいる。日本を含む先進国からの援助も減っているという。
そして、その日本国内でも満足な教育を受けられない子どもたちが増えているのを忘れてはならない。
【DNBオリジナル】
国連総会室
photo by Chirs Erbach
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