フクシマの真実(4) 「除染」か「移染」か? フクシマの桃の木(上杉隆/文・写真)
福島県広野町の除染モデル地区を訪れた(2012年3月当時)。
東京電力福島第1原発から約20キロメートル離れた、海岸沿いの東京電力広野火力発電所の敷地近くでは、日本ではめったにお目にかかれないような巨大な重機があちこちで動いている。
「どちら様?許可は取っているんですか?」
すべての樹木と土をひっくり返したような広大な作業現場に近づくと、大手ゼネコンのヘルメットをかぶった現場監督が近付いてきた。そう、モデル地区の除染作業は東京の大資本が入っているのだ。同じ地区で働く地元の現場作業員に話をきいた。
「復興といいながら、全然、地元には金が落ちないよ。孫請け、さらにその孫孫請けとしてわずかな仕事が回ってくるばかり。全部、東京に持っていかれちまう」
公共事業の現場でいつも聞かれる声をここでも聴いた。結局、除染も「利権」なのだ。もしかして、国や県が、除染作業を急ぐ意味はこのあたりにあるのかもしれない。
その広野町の駅近くの雑木林で放射線測定器をかざせば、毎時2マイクロシーベルトを簡単に超えてしまう。除染をした場所でも毎時1マイクロシーベルトは下らない。
果たして、国や県は本気で福島県内の広大な山林や田畑を除染しようとしているのだろうか。
「ウクライナやベラルーシの一部では除染をあきらめている。そもそも、完全な除染は無理であることが分かった。水で洗い流しても放射能は移動するだけで分解されるわけではないのだ」
先月、欧州で開かれたオーフス会議に招待されたベラルーシの科学者は、日本で始まっている「除染作業」について忠告し、こう続けた。
「私たちがチェルノブイリ事故で得た結論は、除染よりも避難することの方が合理的ということだ」
昨年来、テレビ・新聞では「除染が成功した」というニュースを盛んに流している。高圧洗浄水によって、モモの木の80%以上の除染に成功したと1面に掲載した朝日新聞がそのいい例だ。
だが、その汚染水はどこに行くのか。根元に落ち、土に浸み、場合によっては川に流れ、海に到達する。
そして分解されないセシウムなどの各種は環境で循環を始める。
日本、特にフクシマでは、そうした当然の自然の摂理が伝えられていないのである。
(つづく)
※ 当記事は2012年3月、「夕刊フジ」に連載した「福島の真実」に、加筆・修正しタイトルを変えたものである。