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フクシマの真実(3) 海はつながり、水は流れ、魚は移動する(文・上杉隆/写真・グリーンピース)

「分水嶺となる阿武隈山脈から、F1(福島第1原発)を洗い流すように太平洋に地下水が流れている」

事故以来、福島第1原発の緊急対応に当たっていた馬淵澄夫原発事故担当首相補佐官〈当時〉は、2月21日(2012年当時)の自由報道協会の会見で、驚きの事実を次々に明かした。

「使用済み燃料プールのある4号機は雨ざらしになっており、天井がドスンと落ちる形で爆発し、当時からそのまま海洋に汚染水が流れ出している状態だ」

建設会社に勤めていた馬淵議員は、事故後の4号機の中に入った唯一の国会議員(2012年3月当時)で、現在の政府の事故対応を批判している数少ない当事者の1人。だが、馬淵氏の重要な発言が、マスコミで報じられることはめったにない。まるで「馬淵証言」が存在していないような報道ぶりだ。

馬淵氏の言う通りであるならば、当然に福島や周辺の海は放射能で汚染されており、そこにすむ海洋生物も危機にさらされているということになる。

海はつながり、水は流れ、魚は移動する。だが、日本政府とマスコミはこの自明の理を忘れたかのような対応を続けている。

例えば、2011年4月、国際環境NGOのグリーンピースは海産物の放射能調査を日本政府に打診した。結果は、世界で2例目となる「拒否」であった(インドネシアに次いで。インドネシア政府はその後国内メディアなどの批判を浴びてに解除している)。

当時、そのグリーンピースとともに東日本の各漁港を取材していた私は、わかめや昆布などの海藻や魚介類の中に、高いレベルの放射能汚染個体のあることを知り、さっそく自身の「メルマガ」(2011年4月)や『週刊文春』(2011年5月)などでリポートした(当時、取材に当たってはグリーンピースジャパンの佐藤潤一事務局長および花岡和佳男海洋生態系問題担当に多くのアドバイス・協力をいただいた)。

その直後、猛烈な批判の声が寄せられる。ツイッターなどでも「魚が危ないというデマを流すな」「寿司屋の敵は死ね!」と罵(ののし)られる日々が続いた。

そうした声の中で励ましの声をくれたのは、何と、当の福島の人たちだった。

「上杉さん、ありがとう。それこそ俺たちが一番知りたかったことだよ」

(いわき市漁協の漁師=現在も休漁中/発言は2011年12月。2011年4月から通い続けた漁協・漁港取材の一環。ちなみに蛇足ではあるが、筆者は「漁協」を「漁港」と誤記したために「そんな漁港は存在しない」という理由でずっと嘘つき扱いをされることになる。ミスは反省するが、本筋(海洋リーク)から外れた議論が永遠に続くのは極めて不健全であると考える)

「(いわきの)海が好きだから、本当のことを知りたいだけだ。できることならばなんでも協力するよ」(同県いわき市のサーファー)

いまなお、東京電力福島第1原発からは、海洋への放射能汚染が続いている(2013年現在、それはさらに深刻な事態になっていることは各報道でお分かりだろう)。米国海洋調査会社ASRによれば、その汚染は東北太平洋岸を北上し、すでに北海道南東岸にまで達している。

北海道のタラバとサバの缶詰めから、放射能汚染が見つかったのは昨年夏のことである(北海道庁の発表による/2011年当時)。

しかし、政府もマスコミも、その事実を「黙殺」したままである。

※  当記事は2012年3月、「夕刊フジ」に連載した「福島の真実」に、加筆・修正しタイトルを変えたものである。

※馬淵澄夫氏のお名前を「馬渕」と誤記しておりました。正しくは「馬淵」です。お詫びして訂正いたします。 DNB編集部