ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

いよいよ中国バブル崩壊!? 影の銀行潰しが習政権崩壊へ(相馬 勝)

中国の上海総合株式指数が6月24日、1963・235と約7カ月ぶりに2000の大台を割り込んだことを契機に、その後も最安値を更新し、市場でささやかれている今年夏の「バブル崩壊説」がいよいよ現実味を帯びてきた。

すでに、中国では第1四半期(1~3月)の国内総生産(GDP)伸び率が7.7%と市場予想の8.0%を下回っており、昨年の中国企業の純利益も前年比2.6%増とリーマンショック後の2008年12月期以来、4年ぶりに最も低い伸び率を記録したことで、中国経済への悲観論が広がっていた。今回の株式の最安値更新はそれに拍車をかけることになった。

7.7%の伸び率が発表された4月15日、筆者は上海にいたが、ある日系企業関係者は「物価や賃金が高くなっている割には、儲けは少ない。もう中国ビジネスのピークは過ぎた」と話していた。

これについて、復旦大学中国経済研究センター長の張軍教授は「この大きな原因のひとつは国有企業が一人勝ちで、民間まで利益が回っていない。『国進民退』を改善すべきだ」と指摘する。

つまり、中国では電力や石油、石炭などのエネルギー、鉄鋼、自動車などの基幹産業ばかりでなく、食糧、不動産なども国有企業優位だ。国有企業は政府と密接に結びついており、人的なコネや口利きがモノをいう社会構造を根本的に変えて、市場競争を浸透させて、「民間に儲けさせろ」ということだ。

そのためには、国内の経済システムの改革や外国企業を含む民間企業への市場開放の推進は不可欠だが、香港の中国政府関係者によると、中国共産党政権の不変な政策ともいえる改革・開放路線に反対する「新左派」勢力が台頭しているという。

新左派が改革・開放路線に反対する理由は、改革は腐敗や貧富の格差をもたらし、対外開放は外国企業の中国侵略を促進、民営化は国有資産の流出と貧富の格差を助長するというものだ。まさにグローバリゼーションに逆行し、ナショナリズムを擁護する主張といえる。このため、新左派勢力は国有企業や太子党(高級幹部子弟)グループ、軍や上海閥などの既得権益層を代表しているようだ。

著名な政治・経済学者、施芝鴻・党中央政策研究室副主任は「左右の争いはますます激しい。社会がちぎれるほど深刻だ」と述べて、改革派と新左派が鋭く対立していることを明らかにしたうえで、「この状況を変えなければ改革を進めることはできない」と強く警告。施氏は習主席が国家副主席に就任した5年前から習氏の知恵袋といわれ、政策をまとめてきた有力人物。

肝心の習主席も改革・開放路線の推進を強く主張するが、新左派勢力は習主席の支持基盤だけに、両派の対立は深刻さを増しているようだ。

そのような対立のなかで起こったのが、今回の株式の最安値更新だ。

その最大の原因が影の銀行(シャドーバンキング)問題だ。大手企業が銀行から融資を受けたり個人投資家から集めた資金を実質的に地方政府が出資している不動産開発会社や投資会社に貸し付け、銀行の貸出債権を小口にした理財商品を売りつけるという手法で、実質的な銀行の役割を果たしている。ときには20%台の高金利の場合もある。

中国では原則として地方債の発行は禁止されているが、地方政府は「融資平台(プラットフォーム)」と呼ばれる投資会社を立ち上げ、シャドーバンキングから資金を借り入れインフラ投資を拡大。これらの債務について、中国審計署(会計検査院に相当)は10年末で10兆7000億元(約177兆円)に膨らんでいると推定。しかし、実態はこれを大幅に上回るとみられ、頂懐誠・元中国財務相は「20兆元(330兆円)以上」と見積もる。これに、12年末現在の中国政府の債務残高7兆7600億元(約128兆円)と旧鉄道省の鉄道建設債務や年金債務を加えると、中国政府が財政危機の目安としているGDPの60%を大幅に上回る計算だ。

上海の金融機関関係者は「中国では今年夏に金融危機が起こる可能性が高いといわれている。旧知の上海市政府幹部によると、北京の政府系シンクタンクの高名な経済学者が公言しているというので、われわれ金融関係者は戦々恐々としている」と指摘する。

この金融危機説に現実味を添えているのが不動産バブル崩壊の可能性だ。「バブルがはじければ、地方債が不良債権化し、地方政府は債務危機に陥り、金融不安が広がりかねない。すでに、上海の一部金融機関では金融危機説を聞きつけた市民らによる取り付け騒ぎが起きている」と同関係者は明かす。

中国政府は金融危機の現実化を恐れて、中国の金融機関は5月以降、プラットフォームに新規の融資を行ってはならないとの通達を出したが、すでに多額の債務が膨らんでおり、「後の祭り」(同関係者)ともいえる。

また、政府はバブル崩壊対策として、今年3月1日から不動産税を導入に踏み切った。これは複数の住宅の所有者が住宅を売却する際、売却益の20%を課税されるというもの。中国の主要100都市の新築住宅価格が3月まで10カ月連続で上昇しており、従来の政府による不動産価格抑制策が効果を上げていないからだ。

しかし、中国では「上に政策があれば、下に対策がある」といわれる。居住用の住宅1単記のみ、居住期間5年以上などの条件を満たせば、課税は免除されるという規定に目を付けた中国各地の居住者が、一斉に離婚手続きを行い、婚姻登録所の前には長蛇の列ができるという〝離婚ブーム〟が起こった。離婚した夫婦が複数の住宅を財産分与して名義を変更し、住宅を売却後、再び結婚するというのだ。上海の婚姻登録所で、職員に離婚の理由を聞かれた夫婦が「税金を払って、みすみす不動産で損をしたくないからだ」と答えたというエピソードも伝えられている。

不動産バブルに踊る中国ならではの珍現象というほかはないが、ただ都市住民からすれば、中国では投機の手段が不動産以外にはないというのも事実。

さきにみたように、一時的に大きなブームを起こした株式投資は6000ポイントだった最盛期の3分の1に落ち込み見る影もない。日系証券会社の上海事務所長は「庶民も不動産バブル崩壊が現実化していることに気づいており、儲けることができるうちに稼いでおこうと必死だ」と市民寄りだが、不動産バブルが崩壊すれば、市民の財布を直撃するのは必至。

その際、怒れる市民が暴動を起こし、発足したばかりの習近平政権もあえなく崩壊というシナリオが現実の者にならなければよいのだが……。

photo by j.Patrick Fischer

source from http://commons.wikimedia.org/wiki/File:2012_Pudong.jpg?uselang=ja

【DNBオリジナル】