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日本の大マスコミは安倍総理の大応援団である(大貫 康雄)

6月26日(水)第183通常国会は、安倍政権全閣僚の委員会出席拒否が続き、重要法案の審議も進まないまま会期末となり閉会した。日本のマスコミは、この異常な国会閉会までの経緯と検証を報道しなかった。

最終日の26日も現政権をほとんど無批判報道、日本のマスコミは他の“民主主義国”と異なっているのだろうか。26日に凝縮された動きを検証するだけでも、日本のマスコミがいかに異常かを改めて考える一日になる。

与党側が提出した平田健二参議院議長の不信任案が反対多数で否決。生活の党、社民党、それに緑の風の野党3党が提出した安倍晋三総理大臣の問責決議案が他の全野党の賛成で可決。劇的な展開の日だったが、マスコミは一応、型通りに参議院議員選挙に向けた与野党各党代表の主張だけを横並びで報じている。

しかし、参議院での与野党の攻防をNHK『ニュース・ウォッチ9』は両成敗かのように“泥仕合“と断じるなど、マスコミの多くは、何故このような展開になったのかを分析しない

そして、夕方6時からの安倍総理大臣の記者会見を、的を得た質問もないまま安倍氏の言い分だけを一方的に報じた。

アベノミクスがいまだに実態を伴わないマネー・ゲームである側面を伝えず、6年前の失敗に学んだ挑戦者の心構えで選挙戦に臨むとかいう安倍氏の決意などが詳しく報じられた。

これではまるで、安倍氏の支持者集会報道ではないか。野党各党代表の主張はなく、取ってつけた刺身のツマのような報道であった。こうしたマスコミの報道は26日だけのことではない。ほとんど毎日、安倍政権の広報のような印象だ。

(『NYタイムズ』のM・ファクラー東京支局長は、NHKニュースを例にとり、一般的に最初が安倍総理……次いで麻生財務大臣……と続き、アメリカなどのニュース報道と異なることを国際文化会館での講演で話していた)

平田参議院議長に対する与党側からの不信任案は、なぜ、いかなる法的根拠、理由、背景があって提出されたのか。この数日間の動きなどが俯瞰して解説されることはなく、与野党議員たちの誰が集まったとか離れたとかだけの表層的な動きしか伝えていない。

安倍総理への問責決議案を提出した理由については、マスコミ報道よりも、むしろ生活の党の森ゆう子議員が、その後の展開の分岐点となった21日の動きを具体的に、参議院事務局内部の雑感まで入れ、事実経過をブログで述べているので若干引用する(カッコ内は筆者付注)。

〈6月21日15時が質問通告の締め切り。当日1210分頃、文書で質問提出。他の委員は直接役所(事務局)を呼んで(質問)通告のレク(趣旨説明)をしようとしたが、与党側からの指示でレクは出来ないと拒否される

その後17時過ぎ、自民党、公明党は平田参議院議長の不信任案を提出

法律に従って開催された委員会への出席を憲法第63条に違反して内閣が拒否し、質問通告さえも拒否するという暴挙。……いつも冷静な参議院委員部担当者(事務局職員)も声を震わせて経緯を報告し「前代未聞」と憤った〉

と具体的に言っている。そして―—

〈会期末を控え日数もない中、与党側が議長不信任案を提出して審議を停滞させるだけでなく、その不信任案の処理を迅速に行おうとせず、審議拒否を続けている〉

他の委員会も内閣提出の法案審議のため開会したが閣僚と与党議員が欠席。確信をもって憲法63条に違反し、野党の問責決議を誘発し、それをもって「ねじれ国会の解消」を参議院議員選挙で訴えるという戦略だったという話が聞こえてくる。

憲法を順守しない安倍総理が憲法改正を声高に訴え、自分たちの都合よく憲法改正できるように憲法96条を改正する。議会民主主義の危機である〉と警告している(憲法第63条の部分は省略)。

続けて、国会は国権の最高機関、唯一の立法機関と規定する憲法第41条を記した後、

国会法及び参議院規則に則って石井一委員長は予算委員会の開催を決定……。通常出席要求は事務的に口頭でなされるが、レク拒否があったため文書で要求。署名の無い出席拒否のメモを内閣総務官が持参。参議院議長の不信任案の採決を拒否しているのは与党〉

森ゆう子議員の具体的で問題点、要点をついた記述を読むと、安倍政権の意図が透けて見える。森議員のブログとマスコミの報道のどちらが危機意識に満ち、真相に迫っているか、読者に読み比べるのをお薦めする。

通常国会最終日の26日は結局、与党提出の平田参議院議長不信任案の否決と野党3党提出の安倍総理問責決議案可決で、他の重要法案を審議することなく終わった

その後の安倍総理大臣記者会見で、森議員の指摘した問題点について質問はなかったようだ。なによりも議会民主主義が危機にひんしているという問題意識は出なかった。

アメリカでは、大統領が一般教書演説など節目での演説をすると、必ず野党の代表議員が反対演説をし、新聞・テレビも一定の量や時間を使って報道して、一応の均衡を図る。アメリカは三権分立が日本より明確に規定され、議会の権限が強い国だが、やはり国家元首でもある大統領の影響力は大きい。

いかに民主主義国であっても、マスコミが与党寄りの偏向報道をしては全体主義国家になってしまう危険性があるからだ。

ドイツの場合、二つの公共全国放送も含めて、マスコミと政府の関係が厳しく監視されており、些細なことでも政治家から放送局への働きかけがあれば、即刻、自ら報道する。

ある問題で、バイエルン州の公共放送に保守党の政治家が取材報道しないよう電話をしたところ、放送局側は即刻、電話録音をそのまま放送した。もちろん、この政治家は世の批判を受け、辞任している。こうした外部有力者からの働きかけを隠していたとわかった途端、メディア、特に公共放送にとって最も大事な“信頼”を失うからだ。

5月にドイツの一大宗教勢力(ルター派)プロテスタント教会の全国集会があった時も、決してメルケル首相にこびることなく、与野党党首の言動を平等に伝えていた。

イギリス在住の知人ジャーナリスト小林恭子(ぎんこ)さんからは、私の問いに対しイギリスの報道について以下のような返信を頂いた。若干省略するがご紹介したい(カッコ内は筆者付注)。

〈総選挙となった場合(イギリス立法府は事実上下院だけ)、首相の会見を一方的に流すということは、もちろんない。

まず、2大政党(自由民主党は連立与党に参加)が長く続いていることもあって、与党、野党(複数の場合も)をバランスよくインタビューする。

BBCの場合も、ひとつの党首が出たら、必ずもうひとつ(の党首)が出ないとおかしい。新聞・メディアのそれぞれの支持政党がはっきりと違うので、(逆に)Aという政党(の声)が出たら、Bという政党の声もしっかり出す。

(一般的に)メディアが野党の役割を果たしているので、放送局の場合、必ずと言っていいほど、権力者(政府)の意見に反対する人の声をいれる。そうしないと見ている方が納得しない。街角で拾う声もそうだ。必ず与党側に反対する声を出す。どちらの意見も出してバランスよくニュースを報道することが決められているからだ。最初のスタンスが「権力者を批判する」なのだ。このスタンスが日英では違う感じがする。つまり「中立」ではなく、「野党」的、「必ず批判する」=メディアです。与党にしてみればやりにくい国〉

イギリスに比べると、日本ではマスコミが安倍政権の大応援団となっているようなものだ。

[caption id="attachment_9906" align="alignnone" width="620"] 首相官邸[/caption]

photo by atgw

source from http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Prime_Ministers_Official_Residence_20080723.jpg?uselang=ja

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