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【中東ジャーナル】(第四回)正義とテロリストと…(上杉隆/文・写真) 

ヒズボラとはアラビア語で「神の党」、レバノンのシーア派イスラム主義の武装勢力のことを指す。

米国や英国、イスラエルなどの一部の国家からはテロ組織にも指定されている。

しかし、それは一方的なものの見方ではないか。世界はもっと多様な人々と多様な価値観で構成されているはずだ。

実際、レバノンでは「神の党」は公式な政党であり、現在の「与党」(政権参加グループ)のひとつでもある。

果たして、実際はどうなのか。ヒズボラの支配地、その中心でもあるイスラエルとシリア国境沿いのある村を訪れた。

「身分証と名刺があれば、提出を!」

ヒズボラの案内人のMが軍服に身を包みながら、こう命じる。 握手の際にも厳しい眼差しが私に向いたままだ。その彼の肩越しには、破壊された戦車やロケット砲の転がっているのが見える。

実は、ここはかつてのヒズボラの最重要戦略基地のひとつだったのだ。いまはこうして訪問することができるが、5年前までは激戦区の中心にあり、立ち入ることはもちろん近寄ることもできなかったそうだ。

1982年に設立されたヒズボラは、2006年の対イスラエル戦の勝利によって、レバノン(とくに南部)では合法的な組織と認められ、完全なる市民権を得ているようだった。 この「基地」に到達するまでも、神の党のシンボルである黄色い旗が道路脇にはためき、殉教者たちの肖像画が大きな看板となって車の中の私たちの眼に次から次へと飛び込んでくる。

「2006年のイスラエル軍の攻撃によってこの地では1600人もの人々が命を落としました。そこには、子どもも女性も含まれています。私たちはこの地で平和に暮らすことを祈っているだけなのです」(案内人M)

祖国を守り、家族を救う行動が、一方からは「テロ行為」に映ってしまう。 正義とはいったいなんなのだろうか?正義を主張する人々に本当の正義はあるのか?

こうして 現場にやって来て、現地の人の話を聞く度に、私は悩んでしまうのである。

(続)