【中東ジャーナル】(第二回)「神の党(ヒズボラ)」の支配地にて(上杉隆/文・写真)
〈ダダダダダッ、ダダダダッ〉
乾いた音が道路沿いの壁に反射する。
隣を走っていた赤いBMWが性能を超えたような勢いで走り去っていく。
運転する女性ドライバーの表情が見えた。首をすくめながら口と目を大きく開けてアクセルを踏みこんでいる。
その向こうに3人組の男たちが見えた。先頭の黒い服の男が大声を張り上げながらライフル銃を撃ち続けている。
私の乗った旧式のメルセデスも、BMWの後に続くように速度を上げた。しばらく走ったところで運転しているY(安全上の理由から匿名)が静かに口を開いた。
「流れ弾が危険だからね」
地中海沿いの乾いた大地の一部では、こうした光景が日常になりつつあるようだ。
きょう(6月6日)は、朝から移動を開始し、ヒズボラ(神の党)の支配地を中心に動き回った。
シリア国境のある街(連日、シリアからの砲撃を受けている)に向かうのをあきらめ、Yのよく知っている地中海沿いの小さな村のレストランで遅めのランチを取った後の出来事だった。
外国人への警戒は厳しい。ヒズボラ支配地で密かにカメラを構え、外部の撮影をしていたところ、いったいどこで見ていたのだろうか、岩だらけの山道を突如、治安部隊の車両が現れて、私たちのクルマを追尾してきたのだった。
停止命令を受ける。すぐにカメラを渡すように言われた。Yがアラビア語で話し、素直に従うようにと、私に言う。
抗すべき選択肢など当然にあるはずもない。私は努めて友好的に、彼らの疑いを晴らすことに協力したのだった。
「ここでは写真を撮ってほしくない」
無事、カメラは解放された。
朝、目的地の山岳はもう間近だった。
遠くにパレスチナの土地が見える。黄色い旗(ヒズボラの旗)が至るところで風に揺れている。
レバノンは緊張の中にある。それは、今回のシリアの混乱のはるか前から、この地の背負った不条理のひとつなのかもしれない。
※取材中の為、本稿では詳細を記さないことをご理解いただきたい。
(続)