福島第一原発作業員の方の驚愕のお話。(おしどりマコ)
(WEBマガジン、マガジン9の連載「脱ってみる?」第57回
『いわきのママたちと地下貯水槽と作業員の方のお話の件。』より抜粋)
http://www.magazine9.jp/oshidori/130415/index.php#san
福島第一原発作業員の方の驚愕のお話。
しかし! この地下貯水槽の濃縮塩水の漏えいなど、
比較したら案外些末なことだ…と思ってしまうことを伺いました。
4月11日は原発作業員の方と東京大学の若い先生と話し合っていました。
レベル7の原発事故の収束作業なのに、お金も時間もケチってる!?
作業員「まぁ、あちこちから漏れるのは当たり前だと思いますよ」
――えーどうして!?
作業員「だって、いろいろな設備は応急処置の突貫工事でしたから。
原発事故のあと、とにかく、急いで、1年ほど持てばいいから、
というような感じで設備を作っていったんです。
施工業者によっては、『品質の保証はしない』という一文が契約に入っていたりもしてましたよ。
その1年持てばいいと作った設備を1年以上使っているのですから、
あちこち劣化はしていくでしょう」
ショック…。
作業員「そして。とにかく急いだのと、問題は『とにかく安く!経費を抑えて!』という発注なのです。
原発事故収束のため、国から東電にお金が投入されていますが、それはただ与えたわけじゃない、
いずれ国に返還する性質のものです。つまり、借金。
福島第一原発は今後利益を生むわけでなし、
そうすると東電はできるだけ借金を少なくしようとしますよね。
するとどうなるかというと、原発事故収束のための工事・設備が
『とにかく予算をおさえて! 経費をおさえて! 安い素材でいいから!』といったことになるのです。
世界の叡智を集めて事故収束にあたるというようなことでは、現場は全くありませんよ」
ケンパル「世界の叡智でなくて、ケチを集めていますねぇ!」
作業員「お金だけでなく、時間もケチっているのです。
『年度末だから急いで工事を仕上げて!』というような現状もあります。
『年度末だからもう予算が出ない』とかね。
レベル7の原発事故という大惨事が継続中ですのに、
なぜ、このような『年度末』に振り回されないといけないのか…。
原発事故の収束作業というのは東京電力という一企業に任せていいことではない。
企業であるかぎり、利益を追求せねばならないし、年度末や決算もあるでしょう。
なので、福島第一原発を、東京電力から切り離し、
事故収束のため、廃炉のためのプロジェクトやチームを立ち上げねばダメだと思います」
事故以前と同じ人員確保の状態では、原発事故収束作業員の確保は破たんする!!
作業員「お金の問題だけではありません。人員も大きな問題です。
事故収束にあたる人員の確保は本当に難しくなっています。
線量限度を超えてしまった人間はもちろん現場作業にあたれなくなりますね。
経験・知識を持った作業員が減っていくことは予想されていました。
それだけでなく、遠方から来られる、とにかく短期でお金を稼げればいいという作業員。
これは、まぁ原発だけでなく建設業界の闇ですが。
こういう方々は事故前なら、元請けから4次請け、5次請けくらいでまわっていました。
でも事故後はそれでも人員を確保することが難しく、
9次請け、10次請けまで手配に動いても、なかなか人が集まりません。
そして、それほど下請け会社を挟むと、労働賃金はかなり削られますね。
で、どういうことが起きているかというと、遠方から、お金を稼ぎにきた作業員は、
福島にきて、宿舎に入り、いろいろな人間と話すとあることを知るのです。
それは、除染作業のほうが、一日の労働賃金が高く、被曝量も少ない、ということを。
そうすると、遠方から福島にきて、原発事故作業員をやっていた人間が、
次々と辞めて、除染作業員になっていくのです。」
わ、その話はいろいろな作業員の方から伺っていましたが、やっぱり…。
作業員「もう一つの種類の作業員もいます。全国の原発の作業員たちです。
今は全国の原発はほとんど止まっていますよね。
各地の原発作業員たちが、責任感と使命感から、
もしくは指示を出されて福島原発事故の収束作業員として来ています。
しかし、これから、各地の原発はどんどん再稼働されていくので、そうなると、
彼らはまた、元いた自分の原発に帰っていったり呼び戻されたりすることでしょう」
――えー! どんどん再稼働しますか、やっぱり!
作業員「もちろんしますよ、そういう流れになっています。
規制庁から骨子が出たでしょう、あれでどんどん再稼働のための点検が始まっていくことになっています。
これから点検のために作業員が呼び戻されていきますよ」
規制庁から、再稼働のための原発の「新安全基準の骨子(案)」が出たので、
電力会社によっては、工事・点検・調査に走り出したところもあるとのこと、
それで各地の原発作業員が戻っていっているそうです。
作業員「元々の福島第一原発の作業員はどんどん線量限度をパンクさせていく、
全国各地の原発作業員は再稼働とともに、各地に戻っていく、
お金を稼ぎにくる現場作業員も集まらない。
経費を抑え、安い素材で設備を作っているだけでなく、
作業員の人員確保も大きな大きな問題なんです」
――お金も人間も、大きな問題ですね…。
作業員「作業員の形態もまだ問題があります。
建設業界の深い闇ですが、3次請け、4次請けなど、下請け会社の問題。
先程も言いましたが、現在は9次請けなど、かなりの下の会社と一緒に作業しているのが現状です。
だから、10人でチームを組んである作業にあたっているとしますよね。
その中には3次請けや6次請けや、いろいろな雇用の人が混ざっているのです。
しかし、元請けや2次請けの、チームのリーダーは、6次請けや9次請けの作業員に直接指示できない。
それが、『偽装請負』と言われてしまったからです。
確かに直接の雇用関係にないのに指示するのは違法ですし、
建設業界の闇の部分で正さなければいけないところはたくさんあります。
でも、今、原発事故収束作業にそれを求められると困る部分もあるのです。
今、作業をしながら、『あ、そこの部分はこうやって作業してほしいのに…』
と思っても指示することができません。
その人間が現場を離れ、『雇用関係じゃない人間に指示され働かされた!』と訴えれば
それが偽装請負になるからです。なので、怖がってなかなか指示できない、という問題もあります。
確かに偽装請負は悪いことです。
でも人員が確保できず、いろいろな立場の人間が一緒に作業せざるを得ない現場で、
この状態は非常にまずい。もう、このような雇用形態も変えてほしい。
一括して国やどこかが、事故収束のために管理するべきだ。
これも、東京電力から福島第一原発を切り離してほしい理由の一つです」
4号機の使用済み燃料プールだけではなく!!
作業員「東京電力の収束作業計画として、世論で騒がれているところにフタをしていく、
といった傾向があります。廃炉に向けての長期的計画ではなく、
騒がれないようにするだけの場当たり的な計画になっているんですね。騒がれないところは放っておく。
4号機の使用済み燃料プールは話題になっているでしょう。
だから、早くに様々な対処・計画が立ちました。
しかし、私は、4号機の問題は使用済み燃料プールだけではないと思っています。
原子炉をはさんで、使用済み燃料プールの反対側にDSP(機器貯蔵プール)というものがあります。
通常の運転中はDSPはあまり使用しません。しかし、震災時、4号機は定期点検中だった。
震災の直前に、4号機の原子炉の中からシュラウドを取りだし、
水中で切って、DSPの中に入れていたのです。
なので、4号機のDSPの中には高線量のシュラウドや切りくずがいっぱい入っているのです」
シュラウドとは、原子炉圧力陽子の内部に取り付けられた円筒状のステンレスの構造物。
内部に燃料集合体や制御棒を収納します。
原子炉の中で、冷却水の流路を確保するための仕切板の役目もあります。
高さ7m、直径4.5m、重量は35tという大きいもの。
これは原子炉の中で燃料棒が臨界を起こしているときに一緒に入っているので、
うん、それはそれは高線量になるよね!
それが4号機の使用済み燃料プールの反対側、DSPに入っているというのです。
作業員「DSPはもちろん満水ですし、シュラウドや機器もたくさん入っている。
このDSP全体の重量は1年ということで構造計算をしていたはずなので、
爆発して建屋の構造が弱まっている現状、DSPはどうするのだ、と心配なのです。
4号機の使用済み燃料プールの燃料棒取り出しの計画のときに、
一緒にDSPの貯留物も取り出したほうがいい、という提案もあがったのですが、
『そこまでの予算は無い、今騒がれているのは使用済み燃料プールだから』
という理由で却下されたそうです」
――わー、DSPはあとどれくらい持つかしら…
作業員「1号機のカバーリングも終わりましたが、あれも対症療法。
あれは、カバーを外す想定で作られておりません。
最終的に、建屋の中に入り、廃炉作業をしなくてはいけないのですが、どうやって壊すんでしょうねぇ…。
壊すのに手間がかかると思いますよ…。
でも、『とにかく、大気中に放出する放射性物質を低減させていけば、世論がおさまる!』といった理由で、
取り外せないカバーを応急処置でかぶせたそうです」
聞けば聞くほど、ガッカリなお話です。
地下貯水槽の漏えいなんか些末な話だ、というのがわかってきました…。
一番の問題は2号機がシビアな状況になること!!
作業員「そう、地下貯水槽など些末なんです。
なぜかというと、本丸は汚染水や冷却システムではなく、建屋、原子炉ですからね。
1号~4号まで、どうやって解体、処理していくか。まだ中にも入れない状況ですよね。
それに比べれば、現場は、メタクラや地下貯水槽など、建屋外の問題は些末に感じてしまいます、
重要なことですけれどね」
――では一番、問題なのはどこですか?
作業員「それはやっぱり2号機です」
東大の先生「やっぱり! 2号機は研究者の間でも、全く想像がつかないんです!」
作業員「2号機は中がどうなっているか、震災直後にどういう状況になったか、さっぱりわからないんです。
1号機や3号機の爆発はある程度想像はついています。
いろいろなパラメータをみたりして、恐らくこういった挙動でこういった事象になったんだろう、
ということは推定されています。
しかし、2号機はさっぱり。
なぜ、爆発もしていないのに、あんなに大量の放射性物質が放出されたのか、
燃料棒はいったいどうなっているのか。
いろいろなパラメータから、恐らくメルトスルーはしていないのでは、と言われていますけどね」
東大の先生「そうですね、突き抜けてはないようなんですよね」
作業員「では、なぜあんなに大量の放射性物質が外に出ていったのかは全くわからないんです」
(2号機から放出された放射性物質は1、3号機と比べてケタ違いに多いの!)
作業員「事故直後の挙動の推定がつかないだけでなく、
建屋の中に驚くほど高線量の部分があるのも2号機なんです。
はっきり言ってしまうと、もし注水などに問題があり、冷却ができなくなる事態が起き、
どうしようもない、といった過酷な状況になったとします。
1、3、4号機ならば、決死隊が被曝覚悟で駆け込んで何とかすることができるんです。
しかし、2号機は。
2号機の建屋は、非常に線量が高いところが多々あるため、決死隊が駆け込んでも、
作業する前に死んでしまう、問題の個所にたどりつけない可能性が高いのです」
……………そんなにシビアだとは。
作業員「だから、メタクラや地下貯水槽など、建屋外の構造物の作業など、
些末な問題だと感じてしまうのはわかるでしょ、被曝はしますが、簡単に作業できる場所ですので」
********
おまけ
とにかく、レベル7の原発事故はまだ継続中で、このままの状況だと、収束までたどりつかないだろう、
なので、福島第一原発を東京電力から早く切り離さなければ、また日本が危機的状況になるのではないか、
ということを広く伝えてほしい、とおっしゃっておられました。
それは「いわきの初期被曝を追及するママの会」の方々にも伝えました。
「やっぱり! もう冷温停止状態なんか早々と宣言してしまって!
またもう一度、福島第一原発が大変なことになったら、
どうやって子供たちを急いで避難、疎開させるかの計画など全く無いのに!
いわきは原発事故の収束作業を支える地域でもあります。
でも、何かあったら、子供たちだけは急いで逃がしてほしい。
レベル7の事故が継続している以上、地元ではもっと注目していろいろ考えていくべきことです。
作業員の方々の安全も、いわきの子供達の避難も、
日本が汚染されないことも全部同じで重要なことですから!」
*********
おまけのおまけ
そういえば、どんどん増え続ける汚染水は、
最終的にアルプス(多核種除去装置)でできるだけ放射性物質を取り除いてから、海に流すそうです。
2011年の暮れに、現場の作業員の方から「今日、アルプスの試験運転が始まったよ!
これでできるだけ取り除いて、海に流す予定らしいよ!」と電話がかかってきたこともありました。
すぐに統合会見で質問をしたら「そのような計画はありません」と
東電松本さんはおっしゃっておられましたが。
なかなか、アルプスの処理水を海に流す、ということが言い出せず、
そして試験期間も長引いて、ほったらかしにしたまま、時間がすぎている、という印象ですね。
作業員「だから、1年も放っておいて、部分運転しかほとんどしなかったから、
アルプスを実用段階にもっていったら、またすぐどこかが故障するんじゃないですか…」
とのことでした。
多核種除去装置といっても、トリチウムだけは取り除けないんですけどね!!
とにかく、原発事故は全く終わっておらず、ますますひどい状況になる可能性が高いということ、
それを世間のみなさんに知ってもらい、何とか国や社会を動かしてほしい、
という作業員の方のお話でした。
【マガジン9「脱ってみる?」より 】
[caption id="attachment_8760" align="aligncenter" width="620"] 記事とは別の作業員の方に頂いたタイベック。[/caption]