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交渉再開でも北方領土返還はまったく視界不良のまま(藤本 順一)

安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領は29日の首脳会談で日ロ平和条約締結に向け小泉政権以降、長らく棚上げ状態になっていた北方領土返還交渉を再スタートさせることで合意した。共同声明にはこの他、安全保障や経済分野の協力推進、文化・スポーツ交流の活性化などが盛り込まれた。

日ロ接近の背景には中国の台頭と北朝鮮の核問題など緊迫する東アジア状勢や極東地域の経済開発を期待するロシアと日本のエネルギー事情がある。あるいは参院選を前に外交成果をアピールしておきたい安倍首相の思惑もあろう。

ただ、北方領土の返還をちらつかせて経済協力を引き出すのはロシアの常套手段だ。今回の訪ロにも日本企業約40社120人が同行している。日本は過去、ロシアに何度も煮え湯を飲まされてきただけに油断は禁物だ。

北方領土について言えば、柔道家のプーチン大統領は「引き分け」との言葉で56年の日ソ共同宣言に盛り込まれた歯舞・色丹2島の返還を交渉のスタートにしたいようだが、安倍首相の交渉相手はロシア政府だけではない。日本政府は戦後一貫して4島一括返還を求めてきたが、ソ連崩壊後の90年代半ば以降、橋本、小渕、森と続く3政権はこれを前提としながらも、4島の帰属問題を領有権と施政権とに分け、その態様返還時期については柔軟姿勢に転じている。併せて対ロ経済技術協力を加速させたことが、01年3月に森喜郎首相とプーチン大統領とのイルクーツク声明につながり、領土交渉はロシアがまず歯舞、色丹の2島を日本に返還、残りの択捉、国後2島については平和条約締結後に帰属問題を解決することで合意をみる。ところがこれに待ったをかけたのが小泉内閣の発足で外相に就任した田中真紀子氏だった。この時、小渕、森両政権で対ロ外交を主導した鈴木宗男氏は国民世論に「売国奴」と罵られ失脚している。

そうであれば、イルクーツク声明の当事者であり、今回も「引き分け」を口にするプーチン大統領と返還交渉を再スタートさせる安倍首相も「売国奴」にならないか。

「日本とロシアがパートナーとして協力の次元を高めていくことは、時代の要請であり国際社会の平和と繁栄に寄与することになる」

首脳会談の冒頭、安倍首相はこう述べたそうだが、領土返還交渉の先行きはまったくの視界不良である。

【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】