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世界中から批判を受ける安倍政権の右翼的・国家主義的体質を国内メディアはなぜ報道しないのか?(大貫 康雄)

海外メディア、安倍国家主義を糾弾

『NYタイムズ』紙を読んでいる人はわかると思うが、先週、特約寄稿家の欄にひとつの漫画が掲載された。

「安倍総理が、怒る習近平・中国国家主席の目の前を通り、習氏経営の陶器店(China shop:“China”はここでは“陶器”の意味。“Japan”は時折“漆器”の意味でつかわれる)に、胴体に「国家主義」(Nationalism)と書かれた牛の背に乗って平然とした表情で入り込む」場面だ。

“安倍総理が大変危ないことをしている”という意味だ。この漫画が掲載される前日にNYタイムズが、そして28日には『WP(ワシントン・ポスト)』紙が、いずれも社説で安倍総理の国家主義(要するに右翼イデオロギー)や歴史認識のひどさを批判した。

NYタイムズは「不必要な(余計な)国家主義(Japan’s Unnecessary Nationalism)との題で、WPは「安倍晋三の歴史を直面できない能力(Shinzo Abe’s inability to face history)との題で。

他アメリカのメディアもこのところ、安倍氏の国家主義的言動への懸念と批判を強めている。

(1)個人的には不思議な感慨と懸念を抱いてしまう。安倍総理が過去の失敗や反省を改めていないのは、これまでの経緯を振り返ればすぐにわかる。

第一次政権(2007年)の安倍総理は「慰安婦」(Comfort women。国際的には直接的に性的奴隷・Sex slavesと呼ばれる)問題で、村山元総理の談話の見直しに触れ、韓国・中国だけでなくアメリカ、フィリピン、EUなど広く国際社会から反発を受けた。

それにもかかわらず、一時は右派の政治家や言論人がアメリカ議会に行き説明しようとしたが「(火に油を注ぐ)逆効果」と外務省に止められた。

すると何と同じ顔ぶれがWPに自分たちの意見広告を載せた。これがアメリカの上下両院で反発を買った。アメリカの政治家は、保守的な共和党の政治家といえども、公的に認知された歴史や人権に関する発言には過敏だ。何しろアメリカ国民が黙っていないからだが。

(2)第二次内閣を組織した安倍氏はそんな失敗などなかったかのように同じ過ちを繰り返している。

ただ、前回と異なるのは安倍氏はまず大いにアメリカにすり寄った上で国家主義的な言動にアクセルを踏みだしたことだ。

「民主主義という共通の価値観を有する同盟」(?)などとアメリカにゴマをすり、注文や難題をきいた後ならば、再び過ちを繰り返しても免罪符が得られるとでも思ったのだろうか。

慰安婦・性的奴隷問題でも間接的なあいまい表現で各国の理解を得られるとでも思ったのだろうか。もしそうとしたら、一国の首脳としては判断が甘すぎる。

(3)安倍氏の言動は曖昧に終始しながらも、その後、結局日本の侵略戦争を正当化し、その結論として東京裁判を否定し、靖国擁護へと進んでいる感じだ。

戦中、戦後の歴史を学べば、東京裁判・極東軍事裁判とニュルンベルク裁判の否定はアメリカ主導で作られた戦後国際体制の否定へと繋がることはすぐにわかる。

安倍総理は1952年4月28日の主権回復の日の記念式典を沖縄や奄美の人たちの反対を押し切って強行したが、主権回復を認めたサンフランシスコ講和条約の精神を忘れているのか、それとも知らないのだろうか。

靖国神社の今年の春の例大祭には麻生副総理ら閣僚3人を含め、これまで最多の168人の国会議員が参拝し、アメリカをはじめ各国を驚かせている(昭和天皇は靖国の神官たちがA級戦犯を合祀して以来、靖国参拝を止めている)。

(4)(靖国や歴史認識の問題にアメリカが非常に神経を払っていることを示す逸話がある。2007年より前の事だが、アメリカのシーファー前駐日大使は靖国神社の遊就館の展示を見て「まるで(侵略)戦争賛美の博物館だ!」と衝撃を受けている)それにもかかわらず、歴史を学ばず自分の過去の失敗さえも改められない人物を我々は二度も総理大臣に選んだ。

アメリカ・メディアの安倍総理批判は、まだ限定された範囲にとどまっている感じだが、安倍氏の危険性を察知し警戒しはじめたことがわかる。

もっともアメリカ・メディアの批判は、同盟国・日本の将来を真摯に憂いてのこととは思えず、安倍政権が対中・対韓関係を悪化させ、アメリカの「国益」と戦略に悪影響を及ぼし始めたからだろう。

「おやっ!?」と思ったのは小沢氏無罪判決の日にわざわざ外国特派員協会で記者会見までして“小沢一郎氏の政治生命は終わった”などと根拠もなく発言したジェラルド・カーチス・コロンビア大学教授までもが公然と批判を始めたことだ。

CIAと関係があり、日本の既得権層を操る日本調教者”(Japan Handlers)の一員といわれる人物。その彼までが朝日新聞に寄稿してまで安倍総理の批判をした。それも靖国問題や歴史の見直し問題だけではない。安倍氏自民党が進めようとしている憲法改正や戦後体制の変更まで全面否定したに近い

自民党の改憲草案を読んでいくと、自民党が国民の自由を制限し人権を後回しにし公共の秩序(?・具体的な記述がなく拡大解釈可能)を重視し、国家への忠誠を優先させていることがわかってくる。

国際社会が向かう方向とまったく逆行している草案だ。アメリカが警戒するのも不思議ではない。こんな改憲案を掲げる前に、偽りの看板「自由民主党」の名前を変えるべきだろう。

安倍総理を支持し持ち上げてきたカーチス教授が今さらに自民党の改憲案まで否定し、安倍氏を叱責するのはコメディとしても、それだけアメリカが本気になりつつあることを示している。

(5)思い起こして見よう。安倍総理の国家主義に対する海外メディアの懸念や批判は今に始まったことではない。それは、すでに昨年暮れ、自民党が大勝し、第二次安倍政権発足前後に、主にヨーロッパのメディアで展開されていた。

自民党圧勝後で安倍政権成立が確実になった昨年12月16日、日本のメディアが何の検証もせずに安倍自民党圧勝を大きく報じていたのとは対照的に、特にイギリスのメディアは押し並べて、安倍タカ派内閣への懸念、アジア各国の不安を報じていた。

いわく、中道左派『ガーディアン』紙は「日本のタカ派の勝利は地域の緊張を高める」。『インデペンデント』紙は「選挙で“戦争屋”復帰でアジアの隣人たちが不安」。中道保守の『タイムズ』も18日に「国家主義者の安倍次期首相は係争諸島に関し強硬路線を取り」不安定要因にと懸念の目で見ていた。フランスの中道左派『リベラシオン』は「安倍氏は既に中国を挑発」とさえ断じている。

今年1月にもドイツの週刊誌『シュピーゲル』などが、国家主義的な体質だけでなく、アベノミックスによる労働者の生活悪化の懸念を報じていた。アメリカ西海岸の有力紙『ロサンゼルス・タイムズ』も早くから安倍氏批判を始めていた。

不思議でならないのは、中国や韓国だけでなく欧米のメディアがこぞって右翼的・国家主義的体質を批判しているのにもかかわらず、肝心の日本の新聞・テレビは安倍氏の過去の言動の検証報道を怠り、安倍政権の危険性をほとんどと言って良いほど報じていないことだ(それどころか各社幹部は安倍総理と親しく会食をしている。こんなことを欧米でメディアがすれば、それだけで批判を浴び信用が失墜するのだが)。

これではマスコミへの信頼はますます失墜し、その存在意義は薄れる一方だ。それ以上に危ういのは、日々真面目に働き、情報はテレビか新聞で得るだけでインターネットや海外メディアに接する機会が持てない数多くの人たちがテレビ・新聞の一方的な情報に影響され、判断が歪められてしまう状態が続くことだ。

【NLオリジナル】