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イスラム原理主義支配に蜂起したバングラディシュのブロガー戦士たち(瀬川 牧子)

 

[caption id="attachment_7958" align="alignnone" width="620"] 市民デモは、ダッカの中心部、シャハバッグ広場で始まったことから、シャハバッグ運動と呼ばれている[/caption]

2013年、バングラディシュでは若者ブロガーらが国の世俗化(民主主義)を求め、イスラム原理主義団体らと命懸けで闘っている。これはアワミ政権が2008年の選挙マニフェストに「独立戦争時の戦犯を死刑にする」と掲載したことが発端だ。

1971年のパキスタンとの独立戦争時に多くの知識人やジャーナリストを殺害したとされる戦犯は、イスラム原理主義団体や政党を象徴する人物であった。そのため「イスラム原理主義による支配からの解放と終焉」を期待し、若者を中心とした民衆が一気に動き出したようだ。

今年2月、首都ダッカのシャハバッグ広場から死刑裁判などを求めるデモが始まった。そのことから地元の新聞ではこの民衆運動を『シャハバッグ運動』と呼ぶ。2月から4月半ばまでで約100万人がシャハバッグ運動に参加。これはバングラディシュ独立後、最大規模の運動だと人々は口を揃える。

民衆の要求は、もともとは戦犯の死刑だった。それが次第に「イスラム原理主義の政党『ジャマット・エ・イスラム』を政府に介入させない」「『ジャマット・エ・イスラム』を支持する機関などをボイコットする」「女性の地位向上」などへと拡大した。

この「シャハバッグ運動」の士気を鼓舞しているのが若者ブロガーらだ。参加者の7割が30歳以下を占めると地元新聞の記者は話す。そのため、国の世俗化を追求する若者ブロガー対イスラム原理主義の対立構造とも考えられる。

映画評論家でフェイスブックを利用しているタイムール・レゼさん(28)は、「この運動に関して、二つの全く違うスピリットがうごめいているのを感じる。一つは、国の世俗化や発展を願う急進的な精神。そして、もう一つは急進的なことを嫌う保守的なイスラム原理主義的な精神」と指摘する。

国内の小数派であるイスラム原理主義者らは、急進的な発想を持つ大学生らを「無神論のブロガー」とし、報復を繰り広げている。

4月19日付の『国境なき記者団』報告によると、国内の4人のブロガーらが、「ブログに書き込んだ内容が“宗教的感情を傷つけた”罪」で政府により身柄を拘束された。近く14年間の投獄と100,000ユーロの罰金が課せられるという。

2月15日、シャハバッグ運動の活動家で建築家のアフメッド・ラジブ・ヒイデルさん(当時30歳)が、ダッカの自宅付近で原理主義者らに刃物で全身を滅多切りにされるなど無惨な方法で殺害された。

ヒイデルさんは、ブログ名“Thaba Baba”を使用し、イスラム原理主義を批判していた。2月5日に開催された初回の「シャハバッグ抗議」以降、常に抗議の様子をブログに掲載。有名なブロガーだった。

そして2月26日、イスラム原理主義派は19人のブロガーに脅迫を行なった。

3月7日には、帰宅中のブロガー(28)が何者かに頭や脚を刺され、病院へ搬送された。

このような事態を受け、ブロガーと原理主義の血なまぐさい衝突を防止するため、政府は3月13日に「ネット上の宗教冒涜を防止するための政府委員会」を設置。新法に基づき、今後、多くのブロガーらが「宗教的な冒涜」を根拠に逮捕される懸念が大だ。

ブロガーらの他、国内の職業ジャーナリストらも命の危険に晒されている。4月6日、『ジャマット・エ・イスラム』が主催する反シャハバッグ運動への抗議行進中、女性TVレポーターを含む8人のジャーナリストらが負傷した。

現在、100万人以上を動員している「シャハバッグ運動」は、戦犯の死刑が実行されるまで続く予定だ。しかし、複数の戦犯は、英国、カナダ、米国などに政治亡命し、市民権を得ているため、身柄引き渡しなどは困難だとされている。

バングラディッシュは人口の約90%がイスラム教徒。しかしイスラム原理主義者らの人口は国内ではわずか9000人にも満たないと政府関係者らは話す。

マイノリティにも関わらず、イスラム原理主義者らが影響力を持つのは、彼らに資金力があるため。地元ジャーナリストは、彼らが国内に多くの病院、銀行などを所有していると明かす。

1971年の西パキスタンからの独立戦争では、パキスタン兵によりバングラディッシュの国民300万人が殺害され、国内の20万〜40万人の女性がパキスタン兵に強姦されたとバングラディッシュ外務省は主張する。

【NLオリジナル】

[caption id="attachment_7955" align="alignnone" width="620"] バングラディッシュのハサヌル・ハク・イヌ情報大臣。71年の独立戦争時は、ゲリラ軍の隊長として活躍。大学では理系でエンジニアを目指していたが、独立運動により政治の世界に引き込まれる運命となった[/caption]

[caption id="attachment_7957" align="alignnone" width="620"] 地元の英字新聞。表紙を飾るトップ記事は、どれも独立戦争の戦犯死刑裁判を追求する市民抗議、シャハダ抗議とそれに反対するイスラム原理勢力「ハファジャット・エ・イスラム」に関する話題だ[/caption]

[caption id="attachment_7956" align="alignnone" width="620"] バングラディッシュの首都ダッカ・シャハダ通りで、女性解放運動、児童人権、独立戦争時の戦犯の死刑裁判を求め街中を練り歩く一般市民[/caption]