交渉失敗!? 北朝鮮、ミサイル発射のカウントダウンが始まった(辺 真一)
「(米国の敵対政策に対する)軍民の断固たる対応意志を実質的な軍事行動で誇示する」とした朝鮮人民軍最高司令部の声明(3月26日)からほぼ1か月が経過しようとしているが、その「軍事的意志表示」となる北朝鮮によるミサイルの発射はまだない。
韓国当局は当初、金正恩党第一書記就任日(11日)前日の4月10日か、金日成主席生誕日の4月15日発射の「Xデー」とみていたが、北朝鮮は動かなかった。
北朝鮮による開城工業団地の一方的な閉鎖措置(4月9日)で事態の深刻さを痛感した韓国政府は、11日に柳吉在統一相に続き朴槿恵大統領までが対話を呼びかけ、12日には米国が訪韓したケリー国務長官を通じて交渉による解決へのメッセージを発信したが、北朝鮮の態度を軟化させるにはいたらなかった。
韓国の提案を「一考の価値もない」と一蹴した北朝鮮は、非核化を対話の前提条件として求めた米国に対しても「我々の核抑止力をなくすための対話を呼びかけるのは世界を欺く欺瞞の極地である。我々が耳を貸すだろうと思うのは誤算だ」と拒否する一方で、逆に国連安保理の謝罪と制裁解除、さらには軍事演習の中止などを前提条件に突き付けた。
ケリー国務長官は、北朝鮮の逆提案を「受け入れられない」とし、挑発→交渉→見返りというこれまでの慣習を踏襲しないと議会の聴聞会(17日)で強調していた。
一方の北朝鮮も「(米国との間では)軍縮会談はあっても、非核化の会談はない」(4月20日付の労働新聞)と応酬している。米朝の提案はまさに水と油で、どうにも折り合いが付きそうにもない。
こうした対立状況を打開するため、中国政府は6カ国協議の議長を務める武大偉朝鮮半島問題特別代表を21~24日にワシントンに派遣する。武代表は米国のデービース北朝鮮担当特別代表と会談し、北朝鮮情勢を巡る米中高官級協議を開くことにしている。
韓国もまた、北朝鮮を翻意させるには中国の影響力が不可欠とばかり、尹炳世外相を北京に派遣する。尹外相は24日に中国を訪問し、王毅外相と会談するほか、北朝鮮と太いパイプを持つ王家瑞共産党対外連絡部長とも会談を行う予定である。訪中後、尹外相は26-27日には日本を訪れる予定だ。
日本もすでに外務省の杉山晋輔アジア大洋州局長が訪米(18-20日)し、デービース代表と会談し、北朝鮮問題では協調して対応することで合意している。
ロシアも含め、北朝鮮を除く5か国は、6か国協議を開き、北朝鮮の非核化を平和裏に実現することで足並みを揃えているが、肝心の北朝鮮は、(1)6か国協議には二度と出ない、(2)核放棄を約束した6か国共同声明は無効である、(3)非核化を前提とした交渉には応じないとの原則を貫いたままである。
北朝鮮は、国連安保理で制裁決議「2087」が採択された1月23日、すでに外務省声明を通じて、(1)世界の非核化が実現するまでは半島の非核化は不可能である、(2)6か国協議も「9.19共同声明」も死滅した、(3)朝鮮半島の非核化は終末したと宣言していた。
また3月9日の外務省代弁人声明では「核保有国の地位と衛星発射国の地位を永久化させる」と公言までしている。
さらに3月16日の同声明では、(1)経済援助や取引材料として核を保有したと考えるのは大きな間違いだ、(2)「他の選択をすれば支援する」との米国の誘惑は我々には通じないと、核を米国から譲歩を引き出すための外交カードに使う考えがないことを明らかにしている。
極めつけは、3月30日に開かれた労働党中央委総会で「核抑止力と核報復攻撃力を強化するための実際的な対策を取る」ことが規定され、翌4月1日に開催された最高人民会議では「核保有地位の強化と宇宙開発法に関する法律」まで制定されてしまっている。
金日成生誕日の祝賀大会(4月14日)で演説したNo.2の金英男最高人民会議常任委員長は「民族の生命であり、統一朝鮮の国宝である核武力を質量的に拡大する」とまで言い切っている。
そして、ケリー提案への4月17日の外務省代弁人の反論では「米国が敵対視政策と核の恐喝を放棄しない限り、真の対話は、我々が米国の核戦争脅威を防ぐ核抑止力を十分に備えた段階であり得る」と、米国が北朝鮮政策を転換しない限り、核開発・核実験などを今後も継続して行うことを示唆している。
事態を収拾するには北朝鮮に最も影響力のある中国しかいないとのことで、周辺国は中国に期待を寄せているが、仮に武大偉代表が訪米後に訪朝し、果たして北朝鮮の首に鈴を付けられるだろうか? それまで北朝鮮はおとなしくしていられるだろうか?
韓国当局が「第三のXデー」として警戒している朝鮮人民軍創建日の4月25日まで時間が残されていない。
北朝鮮は4月17日の外務省代弁人談話で「米国が我々を狙い、仮想目標を定め、核攻撃訓練(B-52やB-2戦略爆撃機の訓練を指す)をやった分、我々もそれに対応する訓練をやらざるを得なくなっている」と、抽象的な表現ながらも、グアムなどを標的にしたミサイル発射実験をやることを示唆している。現状のままでは、4月30日までの軍事演習期間中か、あるいは軍事演習終了後に踏み切る公算が強い。
事実、最高司令部が3月26日に発令した「1号戦闘勤務態勢」も、二日後の作戦会議で金正恩国防第一委員長がミサイル部隊に命令した「射撃待機状態」も依然として解除されず、継続したままだ。4月15日の祖父の誕生日に二週間ぶりに顔を出した最高司令官の金正恩氏も再び、軍首脳らと共に「潜伏」してしまった。
米韓の「和平提案」で一時的に止まっていたが、ミサイル発射に向けたカウントダウンは再び始まったようだ。
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