ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

人事交流全面禁止、悪化する中国と北朝鮮の関係(相馬 勝)

すでにNews-logの常連執筆者の辺真一氏も指摘しているが、中国が胡錦濤体制から習近平体制に移行してから、北朝鮮との関係が激変し、両国の関係は極めて冷え込んでいるようだ。中国の今年2月の北朝鮮向け原油輸出がゼロだったことが中国税関の統計から判明したように、中国政府は北朝鮮のミサイル発射実験や核実験に対する制裁措置として対北経済支援をストップさせるとともに、これらの経済支援に加え両国間の人事交流も全面停止状態にある。

米国を拠点にする中国情報専門の中国語ニュースサイト「多維新聞網」によると、中国共産党の習近平・党総書記は今年1月下旬の党政治局会議で、「北朝鮮が東アジア域内で平和的な発展を脅かす行動をとれば、中国への挑戦とみなす。中国は国家的な利益を犠牲にすることはできない」などと発言し、北朝鮮を公然と批判したという。これが事実とすれば、党トップが同盟国である北朝鮮を名指しで批判するのは極めて異例の事態だ。

これを受けて、中国はすでに北朝鮮と共同開発の経済特区計画を延期したほか、中国の吉林、遼寧両省に開設した北朝鮮の銀行2行の口座も凍結したと伝えられる。

多維新聞網が報道した習主席の重要講話によると、これは北朝鮮がロケット発射実験や核実験を行うなど、「北朝鮮は域内の平和的発展を脅かす挑発的な行為が多い」ためで、「中国も他の国々も平和的発展の道を堅持する。中国は正当な利益を決して放棄しないし、犠牲にすることはできない。いかなる国であろうが、中国が主権や安全、発展の利益を損ねるような苦い結果を受け入れるだろうと期待させてはならない」と述べ、北朝鮮の挑発に断固とした措置をとる決意を表明した。

この会議で習氏が北朝鮮に言及した部分は発表されていない。なぜならば、中朝関係の悪化が公になれば、北朝鮮の同盟国で社会主義の先輩国でもある中国の国際的発言力が低下する恐れがあるからだ。しかし、金正恩第一書記が今後も中国の意向を無視して、核実験などを継続しても同じ結果となるため、「習氏は独自制裁の実施を決め、経済特区の一時凍結や国境貿易の縮小、北朝鮮向け経済支援の中止を決めた」と北京の外交筋は明らかにする。

中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」も社説で日本語の断絶、断交を意味する「破裂」という言葉を4回も使って、「このままの状態ならば、かつての中国とソ連の関係断絶の二の舞になる可能性がある」と論評。対北批判のデモや集会が行われるなど中国内の対北世論は硬化している。

このようななか、昨年12月からこれまでの両国間の人事交流がほとんど途絶えており、中国政府は両国の政府や党のほか、民間も含む全面的な人事交流停止の方針を決め、実行しているようだ。

駐北朝鮮中国大使館のホームページによると、劉大使が北朝鮮で公式活動をしたのは今年1月25日、春節(旧正月)を祝って、中国大使館を飾り付けし、各国大使館の外交官や家族、さらに北朝鮮各界の要人を招待してのレセプションを行ったのが最後。その後の劉大使の公式活動は報告されておらず、「召還されているのでないかとの情報が北京では出ている」と同筋は明かす。

また、北朝鮮を訪れた中国の使節団にいたっては昨年12月2日、北朝鮮のミサイル発射実験を阻止するため訪朝した李建国・中国全国人民代表大会(全人代)副委員長以来、皆無だ。

「血で塗り固めた友誼」を誇り、「唇と歯の関係」という極めて近い同盟関係を誇示してきた両国だが、すでに4カ月間も、両国間の人の行き来が途絶えているという極めて異常な事態に陥っているのである。

北朝鮮と国境を接する瀋陽軍区は昨年来、1月の正月や2月の春節(旧正月)という最大の祭日にもかかわらず、「雪上の軍事訓練」(中国人民解放軍機関紙『解放軍報』)を連日行っており、両国関係は極めて緊張していることだけは間違いないようだ。

【NLオリジナル】