実は完全に冷え切っている中国と北朝鮮の「関係」(辺 真一)
中朝のへその緒は切れるか
北朝鮮の核実験後、中朝関係は明らかにきしんでいる。同盟関係の面影はもはやなく、疎遠な、冷たい関係にあると言ってよい。
そのことは、習近平総書記が全人代で国家主席に就任した際の金正恩党第一書記のそっけない祝電と、それに対する習近平総書記のこれまた極めて儀礼的な礼電に表れている。
金正恩第一書記が4月11日に習近平氏宛に送った祝電は、習近平氏が党総書記に就任した昨年11月以来の二度目。二つの祝電を比べると、そのギャップは著しい。
総書記就任の際のメッセージには「兄弟的中国人民」とか「朝中両国は山と河を接した親善的隣邦でもあり、長い歴史に根差した朝中親善は両党、両国の老世代の領導者らの心血と労功が刻まれた共同の貴重な財富である」とか「世代と世紀を繋いできた伝統的な中朝親善」という「修辞」がふんだんに盛り込まれていた。
しかし、国家主席就任への祝電にはこの種の「修辞」や「枕詞」はなく、「朝中親善」あるいは「伝統的な朝中親善協調関係」というありふれた言葉に留めていた。
一方の中国も、昨年4月に金正恩氏が党第一書記に就任した際に胡錦濤総書記(当時)が送った祝電には「中朝両国は山と河を接した親善的な隣邦である」とか「両党、両国の老世代領導者らが築き、育ててくれた中朝関係を立派に耕し、立派に建設し、立派に発展させるため朝鮮の同志らと手を取って努力する」と記されていたが、今回の習近平総書記の返電にはそれら「修辞」が消え、「親善的な隣邦である中朝両国」「伝統的な中朝親善協調関係」との儀礼的な表現に終始していた。胡錦濤総書記の時の「伝統的な中朝親善協調関係を絶え間なく強固発展させることは中国の党、政府の確固不動の方針である」との「決意表明」もなかった。
また、中国は通常なら、北朝鮮からの祝電をトップに紹介するのだが、中国外務省が発表した各国首脳からの祝電では金正恩第1書記からの祝電は4番目に紹介されていた。極めて異例のことである。
異例と言えば、北朝鮮もまた、今年1月17日、金正恩第一書記宛に新年祝賀メッセージを送ってきた国々の首脳らのリストを公表したが、その中にはなんと中国は含まれてなかった。これまたかつてなかったことである。
故・金正日総書記の再三にわたる訪中で、2009年5月の二度目の核実験でギクシャクした中朝関係は大幅に改善されたかにみえたが、昨年12月のミサイル(衛星)発射に続く今回の核実験で、両国の関係は再び2009年5月の状況に逆戻りしたようである。それどころか、今回は過去のケースとは異なり、両国の修復は容易ではない。
北朝鮮のミサイル発射と核実験に反対の立場の中国は、北朝鮮に自制するよう求めてきたが、北朝鮮は一度目の核実験を2006年にやった際には「干渉を受け入れ、他人の指揮棒によって動けば、自主権を持った国とは言えない。真の独立国家とは言えない」と、中国の説得に全く耳を貸さなかった。
北朝鮮が2009年に二度目の核実験を行った時も、中国の梁光烈国防相が「北朝鮮は誤った判断をしている。こうした行為は彼らを国際的にさらに孤立させ、決して役に立たない」と不快感を示すと、北朝鮮外務省は「大国がやっていることを小国はやってはならないとする大国主義的見解、小国は大国に無条件服従すべきとの支配主義的論理を認めないし、受け入れないのが我が人民だ」と不満を露わにし、名指しこそしなかったものの「米帝にへつらう、米帝の追随勢力」との烙印まで押すほどだった。
核問題の外交的解決を目指す中国は、それでも北朝鮮を6か国協議の場に呼び戻そうと努力するものの、肝心の北朝鮮は「6か国協議参加国が国連安保理事会を盗用し、我々の衛星発射権利まで白昼に強奪する無謀なことをしなければ、今日のような状態にはならなかった。6か国協議の再開を主張する参加国は会談を破壊し、対決の発端となった自らの行為については強情にも沈黙している」と、6か国協議議長国の中国への不満を露わにしている。
ミサイル(衛星)発射に続く、2月の三度目の核実験の強行に怒った中国が国連の新たな制裁決議「2087」や「2094」に相次いで賛成すると、北朝鮮は中国の「背信行為」に腹わたが煮え返ったのか「最も多く核兵器を持っている安保理理事国が他国の核問題を論じる道徳的資格もない」「無視できないのは、国連安保理が米国の策動に追随し、主権国家の自主権を乱暴に侵害したばかりか、我が共和国の最高利益である国家と民族の安全を直接侵害する道に入ったことだ」と中国への反感を露わにし、「6者協議は消滅した」と宣言する始末。
堪忍袋の緒が切れた中国は、安保理常任理事国として国連の新たな制裁決議に従い、北朝鮮への原油停止、税関の厳格化、中国国内にある資産凍結など北朝鮮への制裁に乗り出したと伝えられている。
中朝関係に楔(くさび)を打ち込み、北朝鮮から中国を切り離し、味方に取り付けたい日米韓3か国にとっては、理想の展開になりつつある。
それでも、金正恩、習近平両氏ともに祝電と返電では、相手を「同志」と呼称しているところをみると、完全にへその緒を切る考えはないようだ。
米朝の攻防とともに中朝の今後も、目が離せない。
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