本当に「被曝の影響はない」のか(おしどりマコ)
週刊金曜日に掲載された記事を加筆して転載する。
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2013年2月13日、福島県福島市杉妻会館にて、
第10回県民健康管理調査検討委員会が開催された。
福島第一原発事故後の住民の健康調査は
「基本調査」と「詳細調査」の2本が柱である。
「基本調査」とは、県民が行動記録を付け、
そこから被ばく線量を推計評価をする調査。
「詳細調査」とは、小児の甲状腺検査や、
避難区域の住民への血液検査を含んだ健康診査、心の調査などである。
被ばく線量は公表しない
今回の発表で、平成23年度の小児甲状腺検査にて、
10名に悪性、もしくは悪性の疑いという診断がなされた。
小児甲状腺検査とは、2011年3月11日の東日本大震災の発災時に
福島県内の18歳以下の県民全てに、甲状腺の超音波エコー検査を実施するもの。
対象は約36万人だが、平成23年度では3万8千114人、
対象者の1割しか検査がなされていない。
その平成23年度の検査実施者の中から、二次検査に進んだものが186名、
実際に二次検査をしたものが162名(再検査11名、二次検査終了151名)
そして、細胞診まで実施したものが76名である。
この細胞診をした76名のうち、66名は良性と診断されたが、
10名は悪性、もしくは悪性の疑いという診断で、
うち3名は手術も実施したという発表であった。
筆者は、この悪性もしくは悪性の疑いと診断された10名のうち、
何名かを個人的に知っているが、線量の低いところでは全くない。
警戒区域に近いところで生活しておられたご家族である。
同検討委の会見で、筆者は
「この甲状腺検査の結果は、被ばく線量評価と相関しないのか、
その評価は発表しないのか」と質問したが、
そういう考察は、現段階では発表しないとのことであった。
また、「この10名の被ばく線量を検討委員会は把握しているのか」と質問すると、
甲状腺検査の責任者である福島県立医科大の鈴木眞一教授は
「被ばく線量は把握しているが、公表はしない」との回答であった。
この10名は、男子3名、女子7名、平均年齢は15歳、
甲状腺腫瘍の平均サイズは15ミリということであった。
3名は手術が済んでいるが、残りの7名も8割の確率で甲状腺がんの可能性があるという。
7名の確定診断は今後の手術後、ということであった。
回答率わずか二割
このような発表はすべて口頭で行われた。
資料で配られたのは「76名が細胞診をした」という情報までである。
「不要な心配、風評被害を避けるため」と言いながら、
きちんと情報を公開しないことこそが、疑念を抱かせるのではなかろうか。
5ミリ以下の結節、20ミリ以下ののう胞を認めた子どもたちについても、
問題は無い、という評価ではあるが、地域別の数を公表してもらえないかと筆者は要望した。
現在の発表の形式は、福島県全体としてのものであり、
これが地域別の偏りがあるかどうかを評価しなければ
「被ばくによる健康への影響は無い」と言い切れないのだ。
放射性プルームが通過した地域、汚染地域で、
発生率に偏りがあるかどうかが一番重要なのである。
詳細調査のうちの血液検査の結果についても大まかに発表された。
これは、筆者が2011年から質問を繰り返してきたが全く公表されず、
2012年には情報開示請求もしたが、不開示であった。
過去記事:検討委『血液検査』の現状報告(2012.11)
http://op-ed.jp/archives/5084
この血液検査を含んだ詳細調査は、全県民対象ではなく、
避難区域の住民と、行動記録をつける基本調査から、
被ばく線量が高いと推計される住民を対象になされるものである。
今回の検討委員会で、井坂晶委員(双葉郡医師会長)がこの検査を
「(原発作業員になされる)電離検診と同じような意味合いのもの」
と表現したほどである。
この健康診査の血液検査には「白血球の分画」の項目が上乗せされていた。
単なる健康診断では診ない項目である。
人間の体の中で、一番敏感に放射線の影響が出るのはリンパ球である。
その次が好中球と言われている。
それらを調べるのが「白血球の分画」なのである。
この健康診査は、「生活習慣病を調べる」というのが名目であったが、
それならば白血球の分画はあまり関係ない。
なぜ調べるのか、とたびたび筆者が質問すると、
「白血病発症リスク増大が考えられる」という回答が文書で返ってきた。
なので、この健康診査の結果は懸念していたのである。
今回発表された結果は大まかなものであったが、
「白血球数減少、好中球数減少、リンパ球数減少の割合に、
年齢区分や性による大きな偏りは無かった。」という考察がついていた。
だいたい、30%ほどが基準値以下と読み取れるグラフであった。
この減少については、年齢区分や性によるパラメータではなく、
推計被ばく線量のパラメータにおいて、偏りが無いかどうかを考察するべきではないか。
この点を質問すると
「推計被ばく線量との相関を公表するかどうかは検討課題」とのことであった。
この原発事故後の健康調査は、被ばく線量を推計する基本調査と
様々な検査を実施する詳細調査の2本立てなのだが、
それぞれの結果をバラバラに発表するだけでは全く意味が無い。
それでおいて、「原発事故による被ばくの健康被害は無い」という評価を出すのは疑問である。
被ばく線量を推計する基本調査も
「県北、県中では90%以上の住民が2ミリシーベルト未満」という発表だが、
これについても疑問がある。
この基本調査を回答している住民が、県北、県央地区とも20%程度なのである。
(検討委員会の発表)
筆者はこの調査を回答した県民、回答しなかった県民に取材を重ねたが、
当時、自主避難をしたり、防護をしたり、被ばく防護をしていた住民ほど調査に回答をし、
何も気にしなかった住民は調査も回答をしない、という傾向にあった。
検討委の安村委員にその点を確認したが
「詳細な統計を精査したわけではないので何とも言えないが
確かに行動記録を見ると、避難をしたり防護をしたりされていた方は少なくない」
とのことであった。
なので、回答した住民が2割の段階で「被ばく線量はおよそ問題無い」という評価を出すのは
問題があるのではないか。
誰のための調査なのか
「こころの健康度」に関する調査において、
こころのケア対象者15118名のうち、5379名には電話支援をしているが、
除外が9759名ということであった。
除外のうちわけは返信無し、支援希望無しが多いのだが、
30名が死亡ということであった。筆者はその死因を質問すると、
「死因は公表しない」という回答であった。
ここで、他の記者からも声が飛んだ。
「基礎データを公表しないのか」
「甲状腺検査の地域別データも含め、どこが公表するしないの判断をしているのか」
記者数名で質問すると、この県民健康管理調査の結果を
どこまで公表するしないの判断をしているのは、
福島県立医科大に設置された放射線医学県民健康管理センターの内部の
「専門委員会」であった。
その専門委員会は具体的にどういう名前でいくつあるのか、と聞くと、
福島県は「把握していない」福島県立医科大は「今すぐには出てこない」という回答。
筆者は検討委員会終了後に重ねて質問し、後程メールにて回答を得たが、
全部で9つある専門委員会で所属の委員の名簿は公表できないということであった。
過去記事:放射線医学県民健康管理センター内の専門委員会(2013.3)
http://op-ed.jp/archives/6665
この県民健康管理調査は、何かしら法に基づいた調査でないため、
情報公開の基準が非常にあいまいなのである。
「この調査で得られる情報はどこの所有になるのか」という質問に対し、
福島県が「県のものになる」という回答。すると間髪入れず、
「違う、この情報は患者のものだ!」という声が飛んだ。
県は「そういう意味でいえば、そうなる」と回答をにごした。
誰のための、何のための調査か。
福島第一原発事故後の県民健康管理調査は、
様々な情報がきちんと公表されないまま、
「被ばくによる影響は無い」という言説だけが横行しているのである。
【週刊金曜日、2013.3.1号】