切り捨てられる被災者……。ドイツの国営放送「DW」が報じた2年目のフクシマ(大貫 康雄)
原発事故から2年、DWの告発
第二公共テレビ『ZDF』、週刊誌『シュピーゲル』、『南ドイツ新聞』……。ドイツ・メディアの原発報道に共通するのは、被害者の立場、健康・環境への影響を重視した視点といえる。
その中でも国営国際放送『DW(ドイチェ・ヴェレ)』は、簡潔で要点を突く報道で知られている。
原発事故から2年、DWはドイツ・グリーンピースの専門家ハインツ・スミタール氏にインタビューし、福島では現在、日本政府による被害者切り捨てが進められていると厳しく批判している。
(1)最近の福島の線量について
●高濃度汚染地域の人々が避難している福島市も高濃度放射能で汚染され、地表の線量は事故前の200倍もある。
●除染効果は良くても20%~50%除去できる程度で、放射能は簡単にはなくならない。
●除染をするのであれば、福島市、郡山市など人口密集地で集中して行われるべきだ。
(2)人々の帰還の可能性について
●日本の人たちは何世代も同じ土地に住み、土地との結びつきが強い。今までの生活に戻りたいとの思いは理解できる。しかし、残念だが危険すぎて住むのは不可能だ。
(3)日本政府による情報提供について
●(政府は)人々の健康への危険性を過小評価して発表している。山や川がある広い土地から放射能を完全に除去するのは不可能であり、その中で内部被曝を防ぐことも不可能だ。
●それなのに政府は、人々に高い線量でも受け入れる(住む)よう働きかけている。政府が“放射線の健康への害はないから心配することはない”、と言っているのはそのためだ。
●今、原発事故・放射能災害の被害者は、危険な放射能下に住むのを促される形で(政府・体制によって)二重の被害者にされつつある。
(4)人々のための政府の対策は十分ではないというのか?
●全体的にみて、被害者の人たちは見放され・切り捨てられようとしている。
●東京電力に対する賠償請求のための書類を見ても分厚く、まるで本のようだ(これに書き込んでいくのは大変だ)。
●大半の人々はトンデモナイ官僚主義に対抗する気力を失い、諦めかけている。中には、この2年間に1万5千通の手紙を書き、弁護士を雇う人もいる。しかし大半の人たちは闘いに苦しめられ困難な状況の中で、そうした精神力も出せないでいる。こうした状況に被害者を追い込むことによって、原子力村(nuclear power operator)は被害者に賠償を支払うことなく、利益を得ることになる。
(5)福島の復興について
●チェルノブイリ事故のその後を知る限り、放射能汚染は数十年先でも大幅な減少は考えられない。放射能汚染は主に放射性物質の自然崩壊によってしか減少しない。
今後数十年、福島地域は高い放射線量に苦慮することになる。圧倒的に深刻な事態(the magnitude of the catastrophe)に対応できる希望は残念ながらない。原子力がいかに危険なものか、そして原子力はドイツからも、世界からもなくすのがいかに重要か誰にも判るだろう。
DWは故・高木仁三郎氏が創設したCNIC(市民原子力情報室)など多くの日本国民が、政府計測の原発周辺の被曝量などの正確さに疑念を抱いていることを例を挙げながら報じている。
●例えば、政府が設置した線量計の周辺は初めに除染されていること(そのため線量が周辺よりも低く計測される)。
●CNICは、政府は線量計設置箇所だけでなく、あらゆる箇所で線量を計測し公表するべきだという。また、農地の汚染は継続した計測が重要である。何故なら放射能が地下に沈みこんでジャガイモや根菜類に影響が及ぶのに5年かかるからだという。
加えてDWは、手間暇がかかるが政府は東日本の広い地域の農産物の汚染情報を出来るだけ正確に、今後数十年間、国民に提供する必要があるとの専門家の見方を報じている。
いまさら言うまでもないが、東日本大震災と原発事故・放射能災害は日本で起きた大事件で被害者は日本国民である。主権国家の基本的義務は国民の生命・健康、財産の保護だ。
被害者の救済、被害者の立場に立ち、政府の活動を監視・報道するは、報道の基本であり、日本マスコミの一大使命であるはずだ。しかし日本のテレビ・新聞の一面や主要ニュースで被害者の実態や声を知る機会は余りない。
例えば『NHK』夜9時の「ニュース・ウォッチ9」。これを見ているとスポーツや娯楽を始め様々な“話題”は結構長く紹介しているが、原発事故・放射能災害については時々思い出して報道するような感じだ。それも被災者・被災地産の農産物を購入するなど、人々の善意を期待するものが多く、肝心の被害者・被災地の悲痛な現状、放射能被害の正確な情報、事故収束への状況などは殆ど取り上げない。
スポーツや娯楽を取り上げるなというのではない。ことさら政府を批判せよというのではない。しかし、この番組はNHKの看板番組の一つであり、であるからにはNHKの鼎の軽重が問われる番組だ。
NHKのメンツにかけても、また担当者自身の実績のためにも大きな問題と真正面に取り組むべきだろう。何故、NHKのETV特集などが優れた番組を出しているのに、それが出来ないのだろう。
原発事故・放射能災害は繰り返しでもよい。毎日取り上げて然るべき問題である。それとも今のNHK報道は、私などのニュース価値とは異なってしまったのだろうか。ドイツのメディアからは“フクシマの被害者の立場にたつ報道”という報道の基本に従う確固たる姿勢が感じられてならない。
東日本大震災と原発事故・放射能災害から満2年のドイツ・メディアの報道を長く紹介したのは、そうしたドイツのメディアのニュース価値に共感したゆえんである。
【NLオリジナル】