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甲状腺有所見率調査結果(速報)について(おしどりマコ)

2013年3月8日、環境省総合環境政策局環境保健部から
「福島県外3県における甲状腺有所見率調査結果(速報)について」が発表された。

詳細な報告書は3月29日に日本乳腺甲状腺超音波学会から環境省にあげられるそうである。

この調査の背景・目的は
「福島県が行う県民健康管理調査において、
約40%の者に20.0mm以下ののう胞等の所見を認めていることを踏まえ、
一定数以上の18歳以下の者に甲状腺超音波検査を行い、
我が国の甲状腺結節性病変の有所見率等、
県民健康管理調査の結果の評価に必要な知見を収集する。」
ということである。

下記は当日、環境省で配布された資料である。

「5ミリ以下の結節、20ミリ以下ののう胞を認めるA2判定が56.6%みられ、
福島県の約4割という結果とほぼ同様」という評価がみられたが果たしてそうであろうか。

下記は福島県の調査のA2判定の人数の経時的変化である。

平成24年1月25日第5回発表:29.7%
(3765人中1117人)
平成24年9月11日第8回発表(平成23年度分):35.3%
(38114人中13459人)
平成25年2月13日第10回発表(平成24年度分):43.6%
(94975人中41398人)

今回の環境省の調査と同程度の人数、検査人数が3765人の時点では、
A2判定は29.7%であった。

この結果と、環境省の調査4500人の56.6%にA2判定が見られた、
というのは「ほぼ同様」という結果には疑問がある。

福島県の調査で平成23年度と平成24年度で
8ポイントも上がったことについてはどう評価するのであろうか。


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福島県内では「無し」県外では「有り」

もう1点、懸念がある。
甲状腺エコー検査は、喉に機器をあて、甲状腺を目視で診察するのであるが、

検査する人間の経験や知識、主観によって左右されることがある点である。

A1判定は「結節やのう胞を認めなかったもの」
A2判定は「5ミリ以下の結節や20ミリ以下ののう胞を認めたもの」

医師によって、経験により「このサイズは何ともない」
というA1判定にいれる方もおられたり、
甲状腺エコー検査にかける時間によって、
極小のものが見つかったり見つからなかったりするのである。

筆者は、自主避難者や福島県民に取材を重ねている。
最近では、3月9日に長野県松本市、3月4日に大阪府大阪市に、
2月26日に福島県郡山市に行き、話を伺った。

すると、保護者5名から
「福島県では甲状腺は何もないと言われるが、県外で検査を受けると何か見つかる」

という同じ話を聞いた。

これは少数例なので一概には何とも言えないが、

県外で小児甲状腺エコー検査をしてくれる医師は、
ある程度被ばくの危険性を考えながら診断し、
県内の医師は大丈夫だと思いながら診断するせいなのかもしれない。
全く反対の診断をする医師もいるだろう。

そして、その保護者の方々に検査時間を聞いたが、福島県内では数分であったが、
県外で診断を受けると10分以上、検査時間がかかった、とも伺った。

前述の、エコー検査にかける時間によって、

極小のものが見つかったり見つからなかったりするのである。

比較するための参照群を評価するならば、
同じ技量、主観を持った同じ技師、医師が検査する必要があるのではないだろうか。

そして、福島県の調査と関係の無い技師・医師が、福島県と他地域を検査して、
評価するべきではないだろうか。

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委託先の学会にも再委託先の大学にも関係者

筆者は、環境省の担当者に取材を重ねた。
環境省から事業委託されたのはNPO法人日本乳腺甲状腺超音波医学会である。

ここには福島県の小児甲状腺エコー検査の責任者である、
福島県立医科大の鈴木眞一教授も理事として入っておられる。

実際に、この環境省の事業を現場で診察したのはどこか。

それは、環境省から事業委託された学会から再委託された、
各地域の国立大学の医学部、大学病院ということであった。

では、長崎県は長崎大学なのか、と聞くと

「そうだ、しかし、再委託された3大学は環境省と直接の契約関係に無いので、
これ以上言及できない、長崎大学は独自で公表しているので、
長崎大学についてだけは回答ができる」とのことであった。

しかし、検査地域で医学部を持つ国立大学は限られるので、恐らく

青森県弘前市→弘前大学
山梨県甲府市→山梨大学
長崎県長崎市→長崎大学(これは確認済み)

であると推測される。

長崎大学は、福島県で県民健康管理調査の座長である山下俊一教授の大学であり、
山下俊一氏は次期学長とも言われている。

このように、福島県での甲状腺調査に関連がある学会・大学が
環境省の調査に関わっていたのである。

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規制委員会の検討チームには当時者が

なぜ第三者による調査が必要か。

それはこの原発事故後の福島県の県民健康管理調査を、
監督・評価する部署が何も無いからである。

原子力規制委員会にて

「東京電力福島第一原子力発電所事故による住民の健康管理のあり方に関する検討チーム」
が立ち上がり、2月19日に最終回である第5回が終わり、提言が出された。
http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/kenko_kanri/

筆者は、この検討チームはほぼ取材した。
(欠席した第1回は代理の者が取材しそれ以外は全て傍聴した。)

議題が福島県民健康管理調査のことでありながら、
この検討チームの委員に福島県立医科大の大津留晶教授が入っているのが疑問であった。

大津留教授は県民健康管理調査の専門委員会の委員長でもあるほど、
県民健康管理調査に深く関わっているからである。

筆者は2月19日の第5回の検討チームの終了後、
原子力規制庁監視情報課の室石課長に質問した。

――この検討チームには県民健康管理調査の大津留氏が委員として加わっているが、
これは検討するための第三者委員会の意味合いではなかったのか?

室石課長「第三者委員会ではなく、有識者会議の意味合いです。」

――この検討チームは県民健康管理調査を議論し、最終的に提言を出したが、
大津留委員が第三者ではないので、自分で自分に助言をした、
自分で自分に提言を出した形になってしまうが。

室石課長「あーあのー、はい、見た目そうなっております、そういうことです。」

 

規制委員会での県民健康管理調査に関する検討チームも、
このような形なのである。


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環境省が水俣病訴訟で行ったこと

この甲状腺有所見率調査事業の速報値の発表で、
環境省の桐生康生放射線健康管理担当参事官が
「福島の結果は他県とほぼ同様だったと考えている」とコメントされていた。

この調査事業は環境省総合政策局環境保健部、放射線健康管理担当参事官室が行っている。

ところで筆者は、水俣病とアスベストについても取材を重ねている。
「桐生康生」の名前には見覚えがあった。
3月4日に大阪に行った際、水俣病の関西訴訟をしている弁護団の弁護士の一人と会い、話を伺った。

3月15日に最高裁弁論が行われる裁判の1つに「Fさん訴訟」がある。
これは、関西訴訟で勝訴しながら熊本認定審査会で棄却されたFさんの処分取り消しと
認定を求める訴訟である。
Fさんは一審(大阪地裁)勝訴を経て、控訴審(大阪高裁)で敗訴している。

この大阪高裁での敗訴のときの驚くべき証言があがってきたのだ。

国側の医師証人として佐藤猛医師が出廷を要請されていたが、
佐藤医師が原告Fさんが「明らかに水俣病であった」と証言をしようとすると
環境庁の担当官が
「証言の際、『認定審査会』の判定は妥当であったと証言してほしい」
と要望されたというのだ。

『認定審査会』の判定は妥当、つまり水俣病ではないと証言してほしい、ということである。

佐藤医師はそれを断ると、その後も数回、同様の要請をされ、
両者の意見が合わないまま、証人の要請は立ち消えとなったというのだ。

結果、環境省は原告Fさんが水俣病ではない、と証言する医師を揃え、
Fさんは敗訴するに至った。
原告の逆転敗訴に驚いた佐藤医師が原告の弁護団に連絡し、この件が判明したのである。
この1件は過去のことではない。平成23年6月の話である。

(改めて、この件は詳細に記事にする)

筆者は、環境省環境保健部特殊疾病対策室に取材をしたが、
最高裁に係っていることもあり、ノーコメントであった。
そこで、当時の特殊疾病対策室のメンバーを調べていた。
(環境省の環境保健部特殊疾病対策室が水俣病に関わる部署である。)

佐藤医師に証言を曲げる要請をしていた当時の特殊疾病対策室の室長が
桐生康生氏なのである。

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桐生康生氏について

桐生康生氏の名前にはまだ見覚えがある。
確か、アスベストにも関わっておられたはずだ。
厚生労働省主任中央じん肺診査医や石綿認定基準検討会議事録でも記憶がある。

桐生康生氏の経歴を調べた。
(昭和40年生まれ、群馬県出身)
平成8年4月 厚生省入省
平成8年4月 環境庁環境保健部特殊疾病対策室(専門官)※水俣病
平成10年4月 厚生省国立病院部政策医療課(課長補佐)
平成11年10月 (財)医療情報システム開発センター(課長)
平成13年7月 山梨県韮崎保健所(所長)
平成14年4月 山梨県甲府保健所(所長)
平成17年4月 国立がんセンター運営局政策医療企画課(課長)
平成18年4月 文部科学省科学技術・学術政策局放射線規制室(放射線安全企画官)
平成21年7月 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課主任中央じん肺審査医
※アスベスト
平成23年4月 環境省総合環境政策局環境保健部企画課特殊疾病対策室(室長)
※水俣病
平成24年9月 環境省総合環境政策局環境保健部放射線健康管理担当参事官

平成23年4月から平成24年8月の特殊疾病対策室の室長のときに、
Fさん訴訟(高裁)の佐藤医師への証言変更の要請が環境省の担当官からなされた時期である。

その後、桐生氏は特殊疾病対策室長から放射線健康管理担当参事官になる。
室長から参事官への出世が早いうえ、入省から参事官への年数も早いのは
桐生康生氏が非常に優秀な方だと伺える。

平成13年7月 山梨県韮崎保健所(所長)
平成14年4月 山梨県甲府保健所(所長)

という経歴が気になり調べてみると、このときに
山梨大学大学院医学工学総合研究部の15名のチームとともに
「平成13年度地域保健総合推進事業」という研究報告書をあげている。

環境省の甲状腺有所見調査事業での参照地域3地点(長崎、山梨、青森)を
どういう基準で選定したのか疑問である。
全くの憶測であるが、長崎大学が山下俊一教授にゆかりがあるとすると、

山梨大学は桐生康生氏にゆかりがあるのかもしれない。

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原発事故後による健康調査は、国や行政など利害関係のある者で調査が行われ、
当事者による検討、提言が行われている。

甲状腺に限らずその他の健康調査を、福島県に限らず内外の地域において、
利害関係の無い第三者で、比較調査、検討・評価が行われることを強く望む。

【NLオリジナル】