NLキュレーション「東日本大震災特集」(再掲載/なぜガンダーセン氏の発言がマスコミで報道されないのか/大貫 康雄
「ガンダーセン氏の警告・助言」
アーニー・ガンダーセン氏の自由報道協会主催記者会見での発言趣旨は、ニュース・ログでも村上隆保氏が紹介している。
ガンダーセン氏は8月末から9月初めまで滞在し、講演と記者会見を通し、福島第一原発事故と廃炉・解体問題に関し多岐にわたって重要な指摘と警告をした。国会内の勉強会や京都での講演会に出た人たちは知るところだ。
しかし、ガンダーセン氏から「原発事故発生後、日本の新聞やテレビから多くの取材や質問を受けたが、日本の新聞・テレビでは私の見解がどこにも報道されなかった。編集段階や幹部の処で検閲にあったのかもしれない。私の発言や著作の内容を出来るだけ多くの人たちに知ってもらいたい」と直に言われた。拙訳で恐縮だが改めて補足しておきたい。
●福島第一原発は依然として危険な状態だが、現在潜在的に最も危険なのは4号炉だ。
4号炉には燃料棒の集合体1500体余りが保管されているが、燃料棒が空気中に露出した場合、大変な惨事となる。いわば「眠れる竜」の状態だ(キリスト教圏では一般に竜は悪魔を表す怪獣とされているための喩えか)。
昨年3月11日に事故が発生した時、アメリカ政府は原発から80km以上遠くに避難することを勧告した。勧告の根拠となったのは、1997年、NYの国立ブルックヘヴン実験所が行った研究結果だ。核燃料プールが空気に晒され沸騰状態となると、大量の高濃度の放射能が放出され80km圏内は永遠に避難地帯になる、というものだった。
4号炉に保管中の1500体余りの燃料棒集合体には、各国が30 年以上にわたって行った700回以上の核実験で放出したセシウムの総量以上のセシウムがある。
事故発生当初、この研究結果がアメリカ政府の頭の中にあったのだ。
4号炉がこの状態になれば、東日本の広い一帯の住民が避難を余儀なくさせられるだろう。
●ガンダーセン氏は核燃料が空気に晒されることの危険性を、東京電力や原子力保安院の職員たちが全く認識も理解していないのに驚愕した、という。
核燃料の表面や原子炉の炉心面はジルコニウムと錫などとの合金・ジルカロイで覆われている。ジルカロイは50年代アメリカで開発された合金で高熱などに耐えるので、核燃料棒は極めて薄いジルカロイ被膜で覆われている。
しかし氏によるとジルカロイは空気に触れると燃焼して極めて危険だと指摘する。それが昨年の東日本大震災発生の2週間前に軍事企業の実験で判ったという。
(核燃料棒の被膜材の実験である以上、この情報は当然知っているだろうと思って)国会内で東京電力や原子力保安院の担当者に質したところ、“燃料プールの中に燃える物は何もない”との答えが返ってきた。まるで自分に目隠して問題の本質を見ないようにしているのか、危機意識が全くない、のに驚愕した、という。
●氏は、東京電力は原子炉の運転はしてきたが、その他の事は何も理解していない。東京電力や原子力保安院には知識もなければ問題意識も欠如し、創造力もない。
福島第一原発の除染と廃炉・解体作業は東京電力から切り離し、目的に沿った特定事業の企業が取り組むべきだ、とスリーマイル島原発事故の時の経験を踏まえて提言した。
具体的な作業には内外のしっかりした専門家を動員する必要がある。しかしIAEAの関係者であってはならない。IAEAは原発の危険性を重視するというより原子力推進機関だからだ、と指摘した(東京電力が内外の専門家で構成する独立委員会を作ると発表したが、顔ぶれがどんな立場の人物なのか、具体的に何を言うのか、注意する必要がある)。
氏はさらに、いつ何時大地震が起きるか判らない以上、核燃料棒の取り出しは出来るだけ迅速に進めるべきだと言って、東京電力の核燃料のプールからの取り出し計画は悠長すぎると懸念を表明した。
●ガンダーセン氏は原子炉設計や運転に関わり、原子力関連会社の上級副社長を務める原発推進者から一転して、内部告発者になり原発批判の最先端に立ってきた人だ。それだけに氏の分析や指摘と警告、提言には具体性がある。
野田政権の日本政府が本気で脱原発を決めるのか具体性がないと、不審の目を向ける。氏はまた、“再生可能エネルギー発電は経費がかかり、電力料金が大幅値上げになる”、という報道は「マヤカシだ」と言い、「再生可能エネルギー利用の技術革新が急速に進んでおり、逆に原発の総経費の方が遥かにかかる」、と指摘した。
●ガンダーセン氏はアメリカ・ヴァーモント州で夫人と共にエネルギー・コンサルタント会社「Fairewinds Associates」を、さらに原発の問題点を解説する非営利法人「Fairewinds Energy Education」を設立し、原発問題で発言している。
福島第一原発事故発生以来、事故の現状解説や、日本政府の対策批判など発言を続けている。今年の2月にも「福島第一原発 真相と展望」日本語訳出版を機会に来日し、“日本政府の事故対応は人々のためでなく東京電力など原子力業者寄りの対応だ”、と批判している。
野田総理は昨年暮れ、具体的な根拠も示さずに原発事故収束宣言をしたが、未だに福島第一原発の1号炉から4号炉まで何一つ収束していない。放射能は漏れ続け、汚染は続いている。あの意味のない収束宣言は何だったのか。
野田政権の民主党は2030年代に脱原発? などの方針を打ち出すようだが、肝心の民主党内でさえ信用しない議員が多い。
ガンダーセン氏がいうように、何といっても具体的な行程表もなければ代替エネルギー推進も意味不明、抽象的だ。
中身のない、選挙向けと批判されても仕方がない。
(NewsLog編集部:この記事は2012年9月に発表したものを再掲載したものです)