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安倍首相が父晋太郎元外相の「創造的外交」に学ぶべきこと(藤本 順一)

国会は7日から衆院予算員会でいよいよ来年度予算案が本格審議に入る。

大型の補正予算が成立したとはいえ、景気の先行きはなお不透明だ。景気の中折れが懸念されるところ、政府与党は4月末、大型連休前にも来年度予算を成立させたいとしている。経済再生を最優先課題に掲げる安倍政権にとってはこれからが本当の正念場となる。

万が一にも予算成立が5月連休明け、大幅にずれ込むようであれば、外交日程にも少なからず影響が出てくるからなおさらだ。

外交について安倍首相は年明け早々東南アジアを歴訪し、訪米後の28日に行った施政方針演説で「戦略的な外交」「普遍的価値を重視する外交」「主張する外交」の3原則を打ち出し、韓国、ロシアとの関係改善に積極姿勢を見せている。

このため安倍首相は4月末の大型連休中にロシア、中東諸国を歴訪する意向だ。また、韓国の大統領就任式に出席した麻生太郎副総理兼外相は5月初めのインド訪問を検討している。狙いは中国の拡張主義を封じ込めるための包囲網づくりだ。

下敷きになっているのは麻生副総理が外相時代に打ち出した「自由と繁栄の弧」構想である。麻生氏は中国の拡張主義に対抗するため、インドや中央アジア、東欧などユーラシア大陸外周の新興民主主義国家との連携強化を目指し、これを「価値の外交」と名付けている。

加えてもう一人、安倍外交を語る上で欠かせないのが秘書官として安倍首相が仕えた父、故・晋太郎外相の存在だ。

中曽根政権で足かけ4年もの長期にわたり外相を務めた晋太郎氏は「もはや受け身の外交では通らない。日本と世界の平和と繁栄の環境作りを積極的に創造していく」として「創造的外交」を前面に打ち出した。これを安倍首相は「主張する外交」と言い換えたのである。

晋太郎氏は外相就任早々、「日米関係を再び揺るぎない基盤に乗せるために武器技術供与の見直し」と「グローバルな貿易摩擦対策」、「韓国との関係改善」の三つを取り組むべき緊急課題にあげ、また、日ソ国交正常化交渉にも熱心に取り組んでいる。

もうお分かりだろう。安倍政権は先に航空自衛隊の次期主力戦闘機F35の共同生産に日本企業が参加を表明し、武器輸出3原則の例外扱いとした。米国が強く求めるTPPへの参加にも迷いはない。公約に掲げた「竹島の日」式典の政府主催もあっさり見送ってしまった。つまり、良くも悪くも志半ばで倒れた晋太郎氏の外交路線をなぞっているのである。ついでながらに中曽根政権下、晋太郎氏が外相として靖国神社参拝問題でこじれた日中関係に心痛め、関係修復に奔走したことも一言付け加えておきたい。

【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】