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金正恩総書記がオバマ大統領に電話をかけてほしい理由とは?(辺 真一)

金正恩の初の賓客が「悪童」に「寿司職人」とは!!

金正恩第一書記は父親の金正日総書記に比べて実に突拍子もないことをやる。

バスケットボールが趣味で、米プロバスケットボール(NBA)の元スター選手、デニス・ロッドマンの熱烈ファンだとはいえ、よりによって米国人の最初の会見相手が「悪童」と呼ばれるデニス・ロッドマンとは、正直呆れかえった。仮に兄の正哲氏が後継者に選ばれていたら、同じようにやはり大好きなロックギターリストのエリック・クラプトンが「第一号」に呼ばれていただろう。

北朝鮮はブッシュ前大統領から「悪の枢軸国」と呼ばれ、金正日総書記は「悪がき」と罵倒されたこともあった。よりによって「悪童」を最初の相手に選ぶとは、ウマが合うのか、「悪」によほど縁があるのかのどちらかだろう。

帰国したロッドマンの話では、金正恩氏は、彼に「オバマ大統領から電話をもらえないだろうか」と頼んだそうだ。要は、オバマ大統領との橋渡し役を依頼したということだ。どこまで本気、本心なのだろうか?

本心ならば、なぜ1月にエリック・シュミットグーグル会長に随行して訪朝したリチャードソン元米ニューメキシコ州知事に会って、頼まなかったのだろうか。リチャードソン元知事は、訪朝歴のある数少ない理解者であり、それも民主党の実力者の一人である。

ロッドマンよりもはるかに影響力のあるエリック・シュミットグーグル会長一行は袖にして、NBAでは「過去の人」になりつつある「悪童」をVIP扱いするのは、もはや個人の趣味か、道楽というほかない。「ピンポン外交」のレベルの話ではない。

宴会を開き、ロッドマンと抱き合う場面を見て、昨年7月に金正日総書記の専属料理人を務めていた藤本健二氏を直々に招き、抱き合っていたシーンを思い出した。これまた、最初に接見した日本人が元首や政治家でもなく、元すし職人であった。

北朝鮮を裏切り、脱北した人物を招請した理由は幼年時代の遊び相手への懐かしさによるものなのか、それとも日朝のパイプ役に利用するつもりだったのか、今もって謎のままだが、その後、藤本氏が野田総理の親書を持参できなかったため、再度の訪朝が叶わなかったのは周知の事実である。

「ニクソン訪中」を例に取るまでもなく、国交のない国との敵対関係を一気に改善するにはトップ外交が最も手っ取り早く、最も効果的である。従って、金第一書記が訪朝者を通じてシグナルを発信し、メッセージを伝えたい気持ちはわからないわけでもない。だからと言って、仲介者が誰でも良いと言う話ではない。自己中心的で、気ままな外交は成功しない。

父親の金正日総書記は生前、クリントン政権の時は、2000年6月に訪朝した金大中大統領に「クリントン大統領に繋いでもらえないだろうか」とクリントン大統領との橋渡しを依頼したことがあった。

信頼すべき金大中大統領の斡旋であるが故にクリントン大統領は金総書記のメッセージを真剣に受け止め、3か月後にオルブライト国務長官を平壌に派遣し、断念したものの自らも11月に訪朝する予定だったことは、退任から4年後に出版された回想録「我が人生」に書かれている。

金総書記は、ブッシュ政権の時にもラブコールを送ったことがあったが、この時に仲裁役として頼んだのが他ならぬ小泉純一郎総理だった。

金総書記は、小泉総理が2004年5月に再度訪朝した際に「ブッシュ大統領と喉が枯れるほどデュエットしたい」と、ブッシュ大統領との仲裁を依頼している。

ブッシュ大統領と強い絆のある小泉首相は半年後の2004年11月、日米首脳会談の場で「一度会ってみたらどうだろうか」とブッシュ大統領に進言し、さらには退任3か月前の06年6月にも最後の説得を試みていた。

ブッシュ大統領は小泉総理の説得に「今、金正日との直接対話に応じれば、北朝鮮のっ術中にはまってしまう」と言って、応じなかったが、小泉総理からの吉報を待っていた金正日総書記がブッシュ大統領の「ノー」の返事に失望したことは言うまでもない。ミサイル発射は、それから1か月後の7月、北朝鮮初の核実験は3か月の10月だった。

北朝鮮の核実験に仰天したブッシュ大統領は1か月後の11月、訪問先のベトナムで「北朝鮮が核兵器を破棄するなら、朝鮮半島の平和体制構築に向け、金正日総書記と朝鮮戦争の終結を宣言する文書に共同署名する用意がある」と表明し、任期最後の年の2008年にはライス国務長官の訪朝を検討したが、時すでに遅しだった。

正恩氏は「オバマ大統領から電話をかけてもらいたい」理由として「戦争を望んでいないからだ」と語ったそうだが、これでは、「電話をくれなければ、戦争をやるぞ」と騒ぐ駄々っ子の我がままだ。

オバマ大統領から電話をもらいたいなら、少なくともそれなりの人物を介すべきであり、またそれなりの段取りをすべきである。

若さゆえの勝手気ままな外交のような感じがしてならない。

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