シェールガス革命がエネルギー地図を塗り替える(蟹瀬 誠一)
シェールと聞くと私たち団塊の世代は決まって”アイ・ガット・ユー・ベイブ“などのヒット曲で知られたソニー&シェールの女性歌手シェールを思い出す。
長い髪と独特の風貌が印象的で女優としても活躍した。だが、今世間の注目を集めているのは同じシェールでもシェールガス・オイルだ。それがエネルギー革命を起こすかもしれないというのだから知っておいて損はない。
シェールガス・オイルが米国などに大量に存在していることは専門家の間ではずいぶん前から知られていた。しかし、なにしろ地下数千メートルの岩盤の極小の隙間に閉じ込められている。
採掘は不可能と思われていた。ところが諦めない人間はいるものだ。米国の中小企業が水平掘りや水圧破砕という新技術を開発した。そのお陰で枯渇するといわれていた化石燃料の寿命が400年以上伸びた。まさに革命的なのである。
喜んだのは米国だ。それはそうだろう。天然ガスを中東に依存する必要がなくなるどころが、まもなく世界最大の天然ガス輸出国になれる。米国の貿易収支は改善し、強い米国の復活というわけだ。米国内のガス価格は2008年からわずか1年間で4分の1に急落。同国の消費者にとってもありがたい話ではないか。
訪米した安倍総理はさっそくオバマ大統領に「日本にもシェールガスを売ってね」とお願いした。うまくいけば現在の平均輸入価格より3割程度安くあがる。しかもシェールガス・オイルの採掘や運搬には日本の優れた技術が生かされるから一石二鳥となる。
困るのは米国に天然ガスを売りつけていた中東産油国だ。慌ててヨーロッパ諸国に安値で売り込んでいる。それで窮地に陥るのはこれまでヨーロッパに天然ガスを輸出してきたロシア。こちらは地理的に近い日本に秋波を送っている。まさにシェール革命が世界のエネルギー地図を塗り替えているのである。
2月半ばに安倍総理の特使として森元総理が訪露した。おそらくかねてから気心が知れたプーチン大統領とその話をしたに違いない。北方領土返還も絡めて。
しかし考えてみれば日本の立場はとりわけ良くなっているわけではない。結局は取引相手が代わっても他国頼みであることに変わりはないからだ。日本が積極的に採りにいくのは日本列島の周りに存在するメタンハイドレートだろう。
天然ガスの主成分であるメタンが低温高圧の地下で水分子の中に閉じ込められたものだ。天然ガス消費量の約100年分が埋蔵されているというではないか。
採掘技術もすでに確立されている。領海や排他的経済水域をしっかりと守れば、日本が資源大国になることも夢ではないかもしれない。そういえばシェールの大ヒット曲には”ビリーブ”(信じて)というのがあったはずだ。
【コラム「世界の風を感じて」より】