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「民主党政権とは何だったのか?」鳩山由紀夫元首相が語った政治家引退の真実(日本構想フォーラム&News Log)

結党時の志〝友愛精神〟を失った民主党

(このフォーラムは2012年11月20日に行なわれたものです)

波頭 今回からちょっと形式を変えさせていただきたいと思っています。せっかくこれだけのメンバーが集まっているのだから、内輪の勉強会ではなく〝日本構想フォーラム〟という名前に恥じぬよう、日本が進むべき道の構想をしっかりと練って、それを何らかの形で発信していきたいと思っています。

そこで、そのようなリニューアルにふさわしい方として、今回は元内閣総理大臣の鳩山由紀夫さんにお越しいただいております。それも、総選挙直前(2012年11月20日)という重要かつなんとも微妙なタイミングで……。

一同(笑)

波頭 現在の民主党と2009年に政権交代を果たしたときの民主党は、まったく違う政党になっています。それはなぜなのか。そして、2009年に国民から政権の付託を受けたときの民主党党首であり、内閣総理大臣その職を握った鳩山さんは、あのときこの国の形やビジョンをどうお考えになっていたのか。早速、鳩山さんにお話いただきましょう。お願いいたします。

鳩山 こんばんは、鳩山由紀夫です。日本構想フォーラムにお招きいただいてありがとうございます。最初は私が一方的にお話をするということでしたが、今日のこのメンバーを見ると、ディスカッションを多くしたほうが圧倒的におもしろそうですし、むしろ皆さんの御意見を拝聴させていただきたいとも思っておりますので、冒頭からあまり長くお話しするのはやめたいと思っています。

まず最初に、これからお話する部分はオフレコにしていただきたいと思います。実は明日(2012年11月21日)、私は野田佳彦総理(当時)とお会いします。「この総選挙で党の公認をもらいたければ、申請書に署名しろ」というふうに言われております。その申請書には誓わなければいけないことが2つありまして、ひとつは、〝党の決定を踏まえて行動する〟ということ。それからもうひとつが、〝公認を得た後も選挙において民主党にふさわしくない言動をしたときには権利を剥奪されて、それまでに得た便宜供与を一切返却する〟と。

要するに「渡した金を返せ」ということだと思います。しかし「それまでに」というのが、いつの時点のことだかさっぱりわからないので、ひょっとすると民主党ができてからの便宜供与だとしたら大変な話だなと思うわけであります。まあ、そこまでは考えてないだろうとは思っておりますが、そういう話です。

その申請書に私は署名をしておりません。また署名をするつもりもありません。したがって、党の公認は得られないということになろうかと思います。

このような民主党になってしまったのは、私の責任だと思っております。私が8カ月あまりで総理をやめてしまったことで不信感が募り、このような状況になってしまったと痛感しております。したがって、これをもって私の議員活動をやめたいということで、明日、「次の選挙には出ない」と宣言をしてまいります。

このような形で議員活動に終止符を打つのは大変申しわけありませんし、残念ではありますが、政治家だけが人生ではありません。これからはもっと楽しい人生を送りたいと思っております。

例えば、私は「民主党の原点は友愛にあり」と言っておりますが、この〝友愛〟とは何ぞやと。友愛の精神とは政治家になるために必要なものではなくて、人生を生きるために大変重要な考え方だと思っておりますので、今後は、そのことを説いてまいりたいと思っております。

ただ、ひと言言わせていただければ、この友愛精神というものが、今の民主党の執行部にはないと思っております。自分の考えに合わない人間は排除するというのは、かつての自民党でもなかったことと思っております。自民党は派閥があるものですから、それぞれ違う考え方を持っていても、それを包含して、求心力をもって臨んでいたと思います。

しかし、今の民主党は政策的に合わない人間は嫌いだといいます。小沢一郎さんを党に入れたことが間違いだったんではないかというような思いが強いようです。そして、いつかは小沢さんを排除しようと思っているようです。

そのため小沢さんと一緒に行動してる鳩山も排除しようという気持ちが相当強くあったんではないかと思っております。現在の執行部にはそういう意味での包容力が、残念ながら足りていないと思っております。

まず冒頭、今回の選挙には出ないという話は、外には一切していないものですから、このことだけはオフレコにしておいていただければと思います。

波頭 わかりました。ひと言だけ言わせてください。2009年のマニフェストこそ、鳩山さんが実現したかった国家ビジョンだったわけですよね。要するに今、民主党が出しているマニフェストも、自民党が出しているマニフェストも、旧自民党の政策ばかりで、社会民主主義的な政策を掲げてはいません。だから、この国の将来の選択の可能性として、僕は2009年マニフェストがなくなることがほんとうに残念です。鳩山さんもそういうお考えがあったから、今の民主党の方針にサインすることができなかったのではなかろうかと思うのですが。

鳩山 そうですね。表向きは「私どもはリベラルな政党ですよ」と言いながら、実は自民党とそっくりな政策をこれから遂行していきたいと思っているのでしょう。民主党の今の執行部は、自民党とともに歩みたいと思っている人がかなりいることは間違いないですね。

山崎 当事者を前にして申し訳ありませんが、もともとの理念がそうだったにもかかわらず、自民党的になってしまったとうことは、いわば経営的な失敗があったということですか。

鳩山 そうだと思います。

山崎 それは、どんな経緯だったのかを教えていただけませんか。

鳩山 それは非常に簡単に申し上げれば、私が総理のときはマニフェストを実現しようとしていて、2割から2割5分ぐらいはできていたんではないかと思います。そして、あとは次の人に任せようとしていたのですが、私が辞めた直後に菅直人さんが消費税増税のことを主張して、参議院選挙で大敗してしまったわけです。

山崎 あの時、どうして、いきなり消費税が出て来たんですか。菅さんには消費税を言いたくなるモチベーションがあったということですか。

鳩山 あったと思います。ひとつは、菅さんが財務大臣だったというのがあります。もうひとつは、私は公邸で何度か話をしたのですが、その度に「鳩山さん、あなたは普天間問題で大変苦しんでいる。このまま普天間で苦しむのは見るのは忍びない。そこでいい案がある。それはあるテーマで苦しんでるときには、もっと大きなテーマを出せば、前の小さいテーマは消えるんだ」と言うんです。でも私は「ダメです。それだと両方とも火を噴くんじゃないですか」と反論しました。菅さんは「普天間問題を消すために消費税を言うべき」という持論があったようです。だから、私が辞めた後に消費税のことを言い出したんだと思います。まあ、結果として普天間問題は消えたわけですけど。

山崎 そうですね。

鳩山 だから、彼は消費税を言いさえすれば普天間問題が消える。それに消費税はそれなりに理解をされるんではないかというふうに判断したんだと思います。しかし、その後の選挙では大敗しました。

 

情報が遮断されている首相官邸

波頭 では、建設的な話を伺いたいと思います。日本の政治を良くするためには、どうしたらいいんでしょうかね。

和田 僕が民主党の政策でいいなと思ったのは、子ども手当みたいな給付政策ですね。公共事業を増やすよりも給付のほうが効率がいいし、給付だったら利権が絡まないじゃないですか。

鳩山 直接お渡しできますから。

山崎 非裁量的な分配をするという意味では、子ども手当みたいなものは一番、民主党の理念に沿っていたと思います。

鳩山 でも、マスコミからは相当叩かれました。

山崎 子ども手当が憎くてしようがなかったんでしょうね。おそらく官僚がマスコミに言わせたんでしょう。官僚には何の権限もなくて、自動的に五兆円を配られるということは、それだけ自分たちが使える金が減るということですから。子ども手当が憎くてしようがないっていう官僚の立場はわかります。

波頭 でも、これは民主主義の根幹に関わる問題だと思います。子ども手当や八ッ場ダムなど、あれだけ国民から付託された具体的な政策だったにもかかわらず、こんなに大手を振って否定できるような政治の仕組みなら、選挙をやっても意味がないですよね。だからこの仕組みをどう直すかを考えないと民主主義国家ではいられなくなってしまいます。

山崎 基本的には官僚制度の問題だと思いますけどね。

波頭 以前、この勉強会で渡辺喜美さんが官僚に対する批判を明確に語られたことがありましたよね。官僚は意にそぐわないことだと会議を招集しても誰も来ない。「資料を出せ」と言っても「その書類は今、探しています」と。机の上にあるにもかかわらず「今、探しています」といって出さない。それで田中真紀子さんみたいに返り討ちに遭ったりすることもある。

上杉 また、そこにマスコミを使うんです。要するに気に食わないところをマスコミに流せば、マスコミはそのまま書いてくれる。今回の大学の許認可のことも官僚からのリークですから。

波頭 では、それをどうやったら変えられるのか。どうやったら健全な状態に戻せるのか。

南場 少し戻りますけど鳩山さんのさっきの話で、例えば普天間を忘れさせるために消費税に持っていきましょうみたいなことって、国民をちょっとばかにした話じゃないですか。そういう政治家ばかりじゃないと思いたいんですが、主義主張の違いは置いといて、真剣にこの国をどうにしたらいいかを考えていて、そのために動いている政治家や、省益ではなく国のために尽くそうと思っている官僚はいるんですか。

鳩山 政治家はみんな、スタートの時点では自分の私欲ではなく、国のために行動したいという気持ちでいるんじゃないかと思います。しかし、選挙で何回か当選していくたびに当選至上主義のようになり、結果として国家のビジョンを忘れていくんではないかという気がしますね。自分自身も含めて。

そんな中で、例えば参議院議員の松井孝治さんは自分の理念を持って、その理念を何とか実現しようと思いながら行動してきた政治家だと思います。ただ、だからなのか結局、2期でやめちゃうことになるのですが……。

また小沢一郎さんは、世間的には何か金銭的に汚れた人物のようなイメージが完全につくられてしまっていますけれど、今の官僚主導の政治に対して政治家主導にするためには金が必要で、自分のためではなく国のために集めていたと私は思っているんです。

非常に好対照の2人かもしれませんが、国家を思いながら行動してる人というのはいないわけではないし、根っこにはみんなそういうものを持っているはずです。

山崎 官僚は人事があまりにも非流動的で、メンバーが固定された共同体の中で数十年、面倒を見合うわけですよね。そのため、いわゆる利害共同体は非常に強固なんだけれども、政治家は落ちてしまえばただの人みたいなことになるわけだから、やっぱり官僚に対抗し得るパワーというのが弱いんですよね。

鳩山 それに行政はトータルとしてどうかは別として、それぞれの部署での能力は高いわけで、それを政治家が超えることは難しいんじゃないでしょうか。

山崎 これは僕の勝手な想像なんですが、例えば政治家になったらいろんなことができるんじゃないかとか、あるいは大臣になったらとか思ってるのに、現実は思ったほどできないわけです。それでも政治家を続けたいとか、大臣になりたいという人がいっぱいいるわけですよね。それは、政治家や大臣になればヨイショされていたり、ペコペコする人が多く出て来て、自分のやりたいことよりも、それで満足しちゃってることが問題なんじゃないでしょうか。

鳩山 大臣病ですね。

西川 僕は20年ぐらい官僚とつき合っているんですけども、最近の官僚の情報収集能力はものすごく落ちてますね。生のデータを官僚が集めなくなってきている。これは、かなり問題があると思います。

山崎 やはり官僚の人事制度が問題であることは間違いないですね。

鳩山 私が総理になるときに、局長以上には一度辞表を書いてもらうと言ったんです。でも、それは、無理だということになったんです。

波頭 でも、制度的には人事権はあるんですよね。

鳩山 実際に、私たちのマニフェストをやってくれる人間だけ採用するということはできたはずだったということですね。でも、政権交代になれてなかったので、アメリカみたいに大幅な変更ということはできなかった。

山崎 総理大臣は、どれくらい自分のスタッフを連れて行けるものなんですか。例えば、執務室で官僚以外のスタッフとどれくらい接触することができるのか。そもそも、そういう人がいるのかいないのかという問題もありますが……。

鳩山 政務秘書官ひとりでしょう。

波頭 それで、私は鳩山さんが首相時代に何度かお話をさせて頂きたかったのですが、一度もかないませんでした。

上杉 僕だって、総理になってから鳩山さんにメモを入れてたのに、多分一枚も届いてないですよね。

鳩山 メモを送ってくれていたんですか。

上杉 ええ、ずっと……。鳩山さんみたいに実際に総理大臣になった方から、こんなに官邸は情報が遮断されているんですということを正直に国民に知らせてもらったほうがいいですよ。

官邸は官僚の館なんです。同時に内閣記者会という記者クラブも官僚の仲間なんです。実は官邸の周りは全部敵で埋め尽くされていて、政治家は利用されているだけなんですね。

波頭 だからこそ客観的かつ中立的な情報をマスコミ以外のメディアで発信しないと。国内のマスコミは完全に官僚に押さえられている感じがありますからね。

上杉 僕は、それを担えるのがインターネットだと思うんです。今、ネットはある程度の影響力を持っていますから。

南場 しかし、今の話を聞いていると日本は中国よりひどい。

上杉 中国の人は、新華社とか人民日報の情報を見て、ここには本当のことは書かれていてないだろうと思いますからね(笑)。ところが日本人はNHKとか朝日新聞の情報は基本的に正しいと思ってる。

鳩山 ただ、今回の原発の事故で、自分たちの感じている状況とマスコミの記事があまりにも違うなというのは国民のみなさんが気づき始めているんじゃないでしょうか。大手マスコミの記事というのは、いかがわしいなという気持ちになったんじゃないかと思うんですよ。

上杉 日本人は情報をメディアで判断しちゃうんです。僕もかつては朝日新聞と毎日新聞に連載を持ち、文芸春秋に書き、テレビでもレギュラーで発言していたんです。そうすると「さすが元議員秘書、見方が違うね」ってみんなが褒めてくれるんです。ところがまったく同じことを今ネットで書くと、「デマ野郎、うそつき」と呼ばれる。要するに権威で判断しているんです。これを変えないと難しい。

 

メディアの健全化がなければ日本は滅びる

山崎 ひとつお聞きしたいんですけれど、菅さんや野田さんは英語を話せますか。例えば英語が話せない財務大臣がG20やG7に参加して意見を言うというのは、かなり大変なことですよね。英語の話せないおじさんがツアーコンダクターに連れられて海外旅行に行っているようなものだから、それはやっぱり官僚に依存しますよね。

鳩山 G20とかでは、一応、日本語で話をしてもいいようにはなっていますけれどもね。

山崎 でも、まわりとはコミュニケーションできないですよね。

鳩山 個人的なおつき合いはできないと思います。

山崎 とすると家庭教師に依存する学生みたいな状態になりますよね。まわりのやり取りがまったくわからなくて、通訳を通じて聞いているという状態だと、やっぱり官僚依存は発生すると思います。

南場 教育の問題がひとつはありますよね。

和田 おっしゃるとおりで、私はやっぱり教育から変えないとだめだと思います。さっきのマスコミに踊らされるという話だって、我々が受けてきた教育に問題があったからこうなった部分があると思うんです。私もこの年になって、これまで学んできたものが間違いだったんじゃないかなと思うことがいっぱいあるわけですよ。

それともうひとつ。格差社会の中で大学にも行けない、教育を受けられないという状況が続くと、日本はもっとひどくなると思うんです。

鳩山 後者の部分に関しては、民主党は奨学金制度をできる限り充実させて、高校は授業料を無償化にしました。

和田 アメリカだってあんなにひどい格差社会でも、給付制度という救う仕組みを持ってるんです。だからセーフティーネットを持たずに自由競争をさせるというのは論外だと思います。

波頭 階級を固定化したままでの自由競争なんて、理屈の上でもあり得ないですよね。

茂木 ……あれ、NHKが(速報を)流してるみたい。

上杉 NHKニュース。「鳩山由紀夫氏、衆議院に出馬せずか」。

鳩山 「官邸は鳩山を公認せず」ということを流すということは聞いていましたけれども、その先、だからもう出ないというふうに言うかどうかはわからなかったんですけれども、そこまで言ったんでしょうかね。

上杉 何かこれだと、公認されなかったから出馬しないというイメージになりますよね。

島田 公認せずから、ちょっと拡大解釈というか。一歩踏み込んだ報道をしたってことですか。

上杉 官邸が主導権を持って、鳩山由紀夫を切ったという……。

波頭 そのイメージをつけたいんでしょうか。

鳩山 そういうふうにしたいんだと思います。

波頭 こうなったら、誰かが第二のライフワークとして本気でメディアの健全化をやらないとならないですね。政策の内容以前に民主主義のしくみを正常化するために。

南場 それは鳩山さんにやっていただくのはどうでしょうか。

鳩山 政治家のときにメディアの本質をえぐるようなことをやると、何倍もの力で逆襲されますからできないんですけど、政治を離れるとやりやすくなりますよね。

上杉 ぜひ、お願いします。

(終)

 

第24回 日本構想フォーラム

 

【ゲスト】

鳩山由紀夫……元内閣総理大臣

 

【出席者】

伊藤穰一……MITメディアラボ所長

上杉隆……元ジャーナリスト

島田雅彦……小説家

南場智子……DNAファウンダー

西川伸一……理化学研究所副センター長

波頭亮……経営コンサルタント

茂木健一郎……脳科学者

山崎元……経済評論家

和田秀樹……精神科医

 

【日本構想フォーラム&NLオリジナル】