韓国初の女性大統領 朴槿恵氏に襲いかかる試練の数々(辺 真一)
昨年12月の大統領選挙で当選した与党・セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)氏(61歳)が韓国の第18代大統領に就任した。韓国初の女性大統領の誕生だ。
「雌鶏泣くと国滅びる」との「諺」が闊歩している男尊女卑の封建的な風土が残存している韓国社会にあって、女性元首の誕生はまさに画期的だ。それも、先進国の日本よりも、いち早い女性リーダーの誕生となった。問題は今後5年、最高指導者として荒船の韓国の舵取りができるかどうかだ。
聞けば、大統領就任前の支持率は50%以下で、歴代大統領の中では最も低い数字のようだ。ちなみに不人気だった李明博前大統領ですら就任時は72.9%もあった。
支持率の低下は、総理など閣僚人事で躓いたことが災いの基となっているが、前任者と違って、大統領選挙が辛勝だったことが主な原因でもある。
李前大統領は対立する野党統一候補にダブルスコア(1140万票対617万票)を付けての圧勝による当選だったが、朴大統領は僅差(1557万票対1468万票)による当選だった。
朴大統領の支持層である50代以上の投票率が40代以下の若い層よりも上回ったことが幸いしたが、仮にその逆だったら、当選はなかったかもしれない。現に大票田の首都ソウルでは野党統一候補に20万票の差を付けられ負けていた。もし野党統一候補が既成政党の文在寅候補でなく、若い世代に圧倒的な支持を受けていた無所属の安哲秀氏だったら、女性大統領の誕生はなかっただろう。
朴大統領の最大の勝因は、親(朴正煕元大統領)の七光りにあったと言っても過言ではない。朴大統領も、北朝鮮の金正恩党第一書記と同様に世襲である。党の看板、顔として党内における地位は強固であっても、国政、経済、国防、外交を仕切る最高指導者としての手腕は未知数だ。それだけに朴大統領の前途は多難である。
朴大統領は国民の統合と和合を謳っているが、そのためには貧富の格差や若年層の失業問題を解消し、福祉向上を図ることが喫緊の課題である。
経済では景気の浮揚が急がれる一方で、経済の民主化、富の公正な配分を実現することに力を置いている。肥大化する財閥を規制しながら、経済成長を維持するのは容易ではない。経済畑出身の李明博前大統領ですら、公約の経済成長率7%、一人当たり国民所得4万ドルを果たすことができず、青瓦台(大統領官邸)を去らざるを得なかったほどである。
悪化した北朝鮮との関係の修復も、大統領選挙での公約であったが、これも北朝鮮のミサイル発射と核実験によりスタートから躓いた格好となっている。
核実験で緊張が高まりつつある朝鮮半島の情勢が好転しない限り、信頼構築に基づく南北対話、関係改善は絵に描いた餅である。選挙期間中の「多様な対話のチャンネルを常時開設し、首脳会談も開催する」との見通しも立たない。
南北関係の画期的な改善のためには首脳会談が一番手っ取り早いが、果たしてこれが可能だろうか。
年上の金正日総書記ならばいざ知らず、息子ほどの歳が離れた金正恩党第一書記(30歳)に会いに訪朝することには抵抗感があるだろう。さりとて「3度目の南北首脳会談はソウルですべき」と韓国がいくら主張しても、外交経験のない金正恩氏の訪韓もこれまた非現実的である。李明博政権下で断ち切れた南北首脳会談の復活は容易ではない。
それ以前に何よりも性急に対処しなければならないのは間もなく採択される国連安保理制裁決議と、それに伴う北朝鮮の反発により高まる一触即発の状態への危機管理である。
北朝鮮の挑発を防ぐ一方で、潜水艦撃沈事件と延坪島砲撃事件への復讐心に燃える韓国軍の「暴走」を国軍最高司令官としてシビリアンコントロールすることも重要だ。今まさにその手腕が試されることになるだろう。
外交問題では、やはり対日関係が最重要テーマである。
朴大統領は選挙期間中は対日問題についてはほとんど言及しなかった。選挙公約では日本とは「協力の未来に向けて共に協議する」として、東アジアの平和と発展のための「東北アジア平和と協力構想」を推進するとしている。
歴代政権同様に日本とは未来志向の関係構築を目指すことにしているが、そのためには「正しい歴史認識が必要である」として、問題の領土問題では「国益の観点から断固対処し、主権侵害の状況は容認しない」という立場を取っている。
朴大統領が李前大統領の竹島上陸でこじれた日本との関係を経済的側面と対北朝鮮政策上から改善する意向を持っていることは疑いの余地もない。
日本政府が2月22日の竹島の日の島根県の行事に政務官を派遣したことに抗議し、「対抗措置」を取ると表明しながらも、麻生副総理の大統領就任式出席を拒まなかったことがなによりもそのことを物語っている。
就任式式典にはタイのインラック・シナワット首相ら30数か国から貴賓が招待されているが、主要国の米国からはオバマ大統領の側近であるドニロン大統領補佐官(安全保障担当)、中国からは習近平党総書記の特使として、女性の劉延東政治局員が、ロシアからは韓ロ経済共同委員会の委員長を務めるイシャエフ副総理(極東担当)が、そして、日本からは麻生太郎副総理が出席する。
韓国のメディアでは朴大統領がこれら4か国の来賓を接見、会談する順番が注目されているが、中でも、日中のどちらが先になるかは、朴政権が日中どちらを重視しているかを示す一つのバロメーターとなっているだけに関心の的となっている。
肩書や格からすると、25人いる政治局員の中では最も序列の低い劉延東特使よりもNo.2の麻生特使が先のはずだが、先の島根県主催の「竹島の日」行事に政務官を出席させたことに韓国が反発しているなら、中国よりも後塵を拝するかもしれない。
今後日本の教科書検定や外交白書などでの竹島の記述をめぐって韓国が外交的に反発することはあっても、大きな問題とはならないだろう。島根県の竹島の日の行事がそうであったように教科書検定も、外交白書も初めてのことではなく、恒例化しているからである。
日本が(1)竹島の日の行事を政府主催行事に格上げしない、(2)河野談話を撤回しない、(3)村山談話を見直さない、(4)竹島の問題を国際司法裁判所に提訴しない限り、韓国側から事を荒立てるようなことはしないだろうが、果たして安倍政権がいつまで我慢していられるだろうか。
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