北朝鮮の核実験に為す術ない安倍官邸が海自艦船レーザー照射で煽った対中脅威論の滑稽 (藤本 順一)
北朝鮮が12日、核実験に踏み切った。政府は直後に「北朝鮮による核実験実施情報に関する官邸対策室」を設置、安倍晋三首相は召集した安全保障会議で核実験に伴う放射性物質の影響把握、北朝鮮の今後の動向などの情報収集・分析の徹底、国民の安全・安心の確保に万全を期すことなど関係閣僚に指示した。
北朝鮮の核実験は06、09年に続き3度目となるが、今回は前日、北朝鮮から実験実施を伝えられた米国を経由して日本政府も情報を把握していたことでもあり、先のミサイル発射実験の時のような情報の混乱はなかった。
ただ、安倍首相が同日の衆院予算委員会で「北朝鮮に対し、独自の制裁を含め諸懸案の解決のために有効なあらゆる手段を用いて対応する」と述べていたのがひっかかる。
もし北朝鮮に核開発を思い止まらせる「有効なあらゆる手段」があるのならば、早くに繰り出していただろうに。現実問題、国連安保理に新たな制裁決議を求めるか、日本独自の追加制裁としては在日朝鮮人の渡航制限強化や口座凍結くらいしかないのは誰もが分かっている。過去、何度となく繰り返してきたではないか。
また同じ日、自民党の石破茂幹事長はテレビ番組で「米国まで届くミサイルを撃ち落とすことが抑止につながる。日本は法的にも能力的にも努力しなければいけない」と述べていたが、こちらは少々、先走りが過ぎよう。集団的自衛権の行使容認に向けての世論喚起、来年度予算案の防衛費膨張を正当化しようとする魂胆が透けて見える。
そう言えば、中国艦船のレーザー照射事件はその後、どうなったのか。
小野寺五典防衛相は「動かぬ証拠」を開示するとしていたが、ここにきて慎重姿勢に転じている。
突き詰めるのならばこの事件、核心はやはり海自護衛艦が何のために東シナ海公海上をウロチョロしていたのかに尽きる。中国海軍の動きは米軍が常時監視しており、海自護衛艦がわざわざ3キロの至近距離で追尾することはないし、その理由もない。
しかも中国海軍は装備、航海術などの能力では海上自衛隊にはるかに劣る。それなのにどうして海上自衛隊を威嚇、挑発することができよう。逆にむしろ公海上で常態化しているのは中国艦船を仮想の敵艦に見立てた海自や米海軍の戦闘訓練である。それほど大袈裟なものじゃなくても、中国艦船をオチョクルことがままあるのは、海自関係者の常識だ。
いずれにせよ、照射される前の海自艦船の行動を明らかにすれば、日中どちらに非があるかははっきりする。それができなというのであれば、照射の事実を公表することはなかった。
北朝鮮がいそいそと核実験の準備を進めている傍ら、国防を担う海自護衛艦がレーザー照射を受けたくらいで危機を煽り、大騒ぎするのはみっともなくもあり、滑稽ですらある。
【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】