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電力業者と癒着体質の原子力規制委員会(大貫 康雄)

福島第一原発事故の教訓から、電力業者と癒着した古い組織を一新して発足したといわれる「原子力規制委員会」(Nuclear Regulation Authority)。しかし委員会事務局の「原子力規制庁」(The Secretariat of the Nuclear Regulation Authority)の幹部職員が、委員会調査団の評価報告案を電力業者側に事前に渡していたとして叱られる(?)事件がおきた。

高い独立性と透明性をうたって発足した原子力規制委員会だが、これでは今もなお癒着体質(!)と疑わざるを得ない。それだけでなく、他にも癒着を許すような抜け穴が多い。特に事務方の官僚が出身母体の省庁と行き来可能になっている発足後の5年間は厳しく監視する必要がある。

(1)今回の問題は、福井県敦賀にある日本原子力発電(以下、日本原電とする)の敦賀原発内の活断層について、原子力規制委員会調査団の報告案を文部科学省出身の名雪哲夫審議官が、日本原電側に手渡していた、というもの。名雪審議官は「訓告」を受けただけで、出身母体の文部科学省に「出向」(この場合、古巣に戻った、というのが正確)になった。

「訓告」とは公務員が業務上、義務違反をした場合に上司から口頭で戒めを受ける、という大甘な措置だ。上司がどんな口調で訓告するのか判らないが、国家公務員法上の処分記録には残らず、厳密にはマスコミが報じているような“処分”ではない。果たして“措置の効果”があるのかも判らない。古巣に戻っただけの本人がどこまで反省しているか疑問だ。

(2)原子力規制委員会は委員の顔ぶれ、事務方職員の陣容などから、本当に業者との癒着を断ち、原子力発電所や原子力関連施設の安全を守っていく権限や意欲があるのか、当初から疑問視されている。

●問題を起こした審議官は文部科学省出身だが、彼だけではない。規制庁職員の何と80%以上が経済産業省、旧原子力保安院などの各省庁出身者、原子力推進関連機関の出身者で占められているのだ。

●今のところ田中委員長(福島県出身)は以前より身を入れて原発の安全規制を考える姿勢を示しているようだ。しかし他の4人の委員のうち、2人が原子力関連機関、いわゆる「原子力村」の住人だ。

日弁連は、委員は原子力村とは縁がない人物か、村から完全に足を洗った人物であるべきだ、と指摘している。

(3)原子力規制委員会は1月31日、初めての原発安全基準案を発表した。この案では電力事業者に対し、福島第一原発事故を起こした巨大な地震、津波など「想定を超える出来事への対策」を講じるよう求めている、と報じられた。

案では、外部電源を少なくとも100m離れた場所に二つ以上確保、原子炉内の圧力上昇でベントが必要な場合に、放出放射能の汚染防止に高性能のフィルターの設置、またEUのように、建屋をテロ攻撃や航空機墜落にも耐えられる構造、などを求める内容になっている、と言われる。

しかしこの基準案に幾つもの抜け穴がある。

●基準案は事務方・規制庁の官僚たちが作成、電力事業者に強制するものになっていない

●外部電源の複数確保工事も、建屋を頑強にする補強工事も実施時期は不明だ。

●業者が原発再稼働を申請する場合、全ての基準を満たす必要はない。複数の電源装置建設などの将来計画を出せば良い、ようだ。

●ベントの場合にも、高性能のフィルターは福島第一原発と同じ軽水炉型原発に求めるものの、西日本に多い加圧水型の原発は容量が大きく設置に時間がかかる、などとして免除される方向だ。

要するにこの基準案、どこまで実効性があるか、どこまで義務づけられるのか不明だ。

原子力委員会は一般からの意見も募った上で今年6月までに最終基準をまとめて発表する、という。

(4)日弁連は昨年6月の会長声明で、原子力規制に必要な点を指摘しているので、改めて紹介しておきたい。

1.「ノー・リターン」(出身母体に戻れない)原則

原子力規制委員会の独立性を現実に維持するために、原子力規制庁の職員は原子力推進に関係する機関との関係を一切断ち、これらの機関との間の人事、配置転換を認めない(原子力規制委員会設置法付則6条2項)。

しかし実際には、「法律施行後5年間は、職員の意欲や適正を勘案し、やむを得ない事由がある場合はこの限りではない」とする抜け穴を用意している。

意欲や適性に欠ける職員をどう判断するのか、具体的な記述はなく、癒着防止の実効性に乏しいのが、早くも名雪審議官の件で明らかになった。この付則は即刻削除すべきであろう。

2.「バック・フィット」制度の導入

最新の安全基準を導入しない原発は即刻停止させる制度で「過酷事故対策の法規制」と「原発の寿命を(ドイツ並みの)30年」との規定を確実に残すこと。

厳密に基準が守られてこそ安全性が向上した、と言える。原子力規制委員会は、“世界最高水準の安全基準を導入する”、と言う。しかし、実際に厳密に適用して行かないと骨抜きにされる恐れが大きい。すでに、“原発を40年過ぎてもさらに稼働延長”、などの声が出ているのだ。

厳密な安全基準が挿入されるよう広範な人たちが声を挙げないと無視される恐れがある

3.緊急時の総理大臣の指示監督権限、規制機関の対応手続きなど仕組みの法律での明確化

指揮命令と責任を明確にしておかないと、いざという時、現場も政府も混乱し、思考停止の状態になる恐れがある。

福島第一原発事故勃発後の対応はまさにそうではなかったか!? しかし逆に総理大臣の権限を縮小しようとの声さえ出ており、政府の権限・責任体系が崩れてしまう恐れがある。

原発の安全性強化についての日弁連の指摘、半年経っても未だに具体的に考慮された気配がない。新聞・テレビが原発事故被害者の声を取り上げる頻度もめっきり減っている。それどころか燃料輸入代がかさみ電力料金が上がる? など経済面(金儲け)優先の声がマスコミで繰り返され世論を煽っている。

すべてはこれからなのだということを忘れてはならない。

【NLオリジナル】