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テロ犠牲者を「企業戦士」と呼ぶ安倍首相の無神経(藤本順一)

 「企業戦士として世界で戦っていた方々が命を落としたのは痛恨の極みだ。テロは決して許されない。強く私たちは批判していかねばならない。すべての責任はテロリストにある」

 安倍晋三首相は22日の自民党役員会で最悪の事態となったアルジェリアの人質事件についてこう述べた。聞きようによっては犠牲者を冒涜することにならないか。

 「企業戦士」とは高度経済成長期、家庭を顧みず身を粉にして会社に尽くすサラリーマンをたとえたものだが、テロの犠牲者となった邦人10人のうちには派遣労働者もいる。出発前、家族には「日本では思うように働けない。外国に出るしかない」と話していたそうだ。職を求めてやむを得ず、アルジェリア行きを決断したのだろう。

 何より「戦場」で起きた惨劇である。奪われたのは民間人の尊い命だ。彼らの無念の死に心至していれば、もっと違った言葉があったはずだ。

 一部報道では17日深夜、安倍首相は日本への通告なしに武装勢力への攻撃に踏み切ったアルジェリアのセラル首相との電話会談で「人命優先を要請していたはずだ。攻撃するとは一体どういうことか。米英の支援を受けたらどうか」と声を荒げたという。首脳同士の電話会談の中身をリアルタイムで知る術はないが、本当になされた会話なのか、怪しいものだ。人質救出の失敗を野党に批判されることを想定しての予防線だろう。きっと首相周辺が親しい記者に書かせたのだろうが脚色が過ぎる。
 
 もとよりテロリストの蛮行を許すことはできないが、人質がアルジェリア軍の攻撃に巻き込まれた可能性もある。あるいは、進出企業の安全対策や日本政府の対応に問題はなかったのか。間もなく亡骸は、無事だった7人と共に政府専用機で帰国する。きっと遺族も最後の様子を知りたいはず。事件の全容解明が待たれるところだ。

【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】