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不安よぎる安倍政権の「ロケットスタート」(藤本順一)

 「ロケットスタートを切っていくという思いで、全員が一丸となっていく」 
年明け7日、安倍晋三首相は日本経済の舵取りを担う「日本経済再生本部」の事務局スタッフを集め、こう檄を飛ばした。

 夏の参院選で衆参ねじれを解消し、本格政権への道筋をつけたい安倍首相が結果を急ぐ気持ちは分からなくはないが、八方に手を広げ過ぎ、焦り過ぎは禁物だ。 

 とりわけ安保、外交については政権基盤をしっかり固めた上、腰を据えて取り組んでもらいたい。

 漏れ伝えられるところでは参院選前に横田めぐみさんとその娘、孫の3人を一時帰国させる荒技を思案中とのこと。だが、そのために北朝鮮の核開発問題や国交正常化交渉で大幅な譲歩を強いられるようなことになれば、国益を損なうことになろう。

 あるいは安倍首相は1月に訪米し、オバマ大統領との首脳会談に意欲を見せていたが、多忙を理由に先方から断りが入ってしまった。

 そりゃそうだ。21日には大統領就任式が、月末には議会での一般教書演説が控えている。安倍首相だって通常国会開会を前に大型補正予算案の編成や税制改正大綱の取りまとめその他、優先すべき課題は目白押しだ。何より、日米間の懸案となっている環太平洋経済連携協定(TPP)や米軍普天間移設問題をどうするのか。政府与党で具体的な方針が定まらないのでは話になるまい。

 特にTPPは自民党内の足並みを揃えるのが先決だ。6日のテレビ番組で高市早苗政調会長は「交渉に参加しながら条件が合わなかったら脱退する選択肢もゼロではない」と述べ、交渉参加に前向きな姿勢を見せていた。

 翌日にはこれを細田博之幹事長が「例外なき関税障壁撤廃を前提とした交渉では到底対応できない。あらかじめギロチンに首を差し出すようなことはすべきではない」と打ち消している。これでは民主党政権時代と何も変わらない。 

 今は首相として米国重視のメッセージを発しつつ、外交チャンネルを通じて米国と意思疎通を計り、首脳会談の環境を整えるのが先決だ。

 安倍政権の足下が定まらないのは外交だけではない。経済政策の目玉となるインフレターゲットについても日銀との関係で早くも官邸内に認識のズレが生じている。

 かねて安倍首相は日銀に対して2%の物価上昇率を盛り込んだ政策協定を政府と結ぶよう求めていたが、麻生太郎副総理兼財務・金融相は6日のテレビ番組で近く日銀総裁も出席して行われる経済財政諮問会議に触れ「その段階で話が通じていれば改めて協定を結ぶ必要はない」と述べた。

 ところが翌日にはこの麻生発言を菅義偉官房長官が「副総理一流の発言だ。首相と副総理の間だから、首相の意向も副総理は十分わきまえている」と述べて打ち消してしまったのだが、これでは副総理と官房長官のどちらが安倍首相の意向を代弁しているのか混乱を招く。総理、副総理に仕えるスポークスマンとしては失格だ。

 安倍政権の先行きに不安過る「ロケットスタート」である。

【東京スポーツ「永田町ワイドショー」1月7日入稿原稿)より】