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2011堕国論(1)再掲 放射能から母子を守れ!(上杉隆)

「子どもと女性を守ろうとしない国家(政府)は必ず滅びる」

明治の粉ミルクからセシウムが検出されたという共同通信発のニュースは、強烈な無力感を筆者にもたらした。

本コラムの読者ならばすぐに察しがつくだろうが、相も変わらずこのニュースも、最初に調査したのは政府やマスメディアではなく、市民団体(NPO法人・チーム二本松「市民放射線測定室」)である。

〈速報 【粉ミルク(明治ステップ)からセシウム検出】2011/12/06

明治乳業(株)が製造の粉ミルク『明治ステップ』からセシウムが検出されていることを、明治乳業(株)側が認め、40万缶が無償交換されることになりました。
http://www.47news.jp/news/flashnews/

当測定室での測定結果を基に、共同通信社の記者さんが動いて下さいました。〉
(http://team-nihonmatsu.r-cms.biz/topics_detail1/id=43)

それにしても、いったいこれで何度目だろう。そう思い、ラジオ出演中の筆者は、思わず冒頭の言葉をラジオ(『吉田照美ソコダイジナトコ』(文化放送))でつぶやいていたのだった。

4月4日の放射線汚染水の海洋リーク、レベル7への引き上げ、メルトダウンの追認、作業員の被爆、海産物への放射能汚染――。

だが、3・11以降、数あるこうした政府・東電・マスメディアの情報隠蔽の嵐の中、ずっと取材をしてきた筆者自身、もっとも堪えたのは次の3つだった。

「4月の茨城、千葉の母親の母乳から放射性セシウムを検出」、「6月の450人の児童の尿から放射性セシウムを検出」、そして、今回の「粉ミルクからの放射性セシウム検出」である。

放射能に対して、相対的に耐性の弱い子どもや妊婦などに対しては、震災発生直後から、世界中の政府・国際機関などが優先的避難を日本政府に対して訴えてきた。

実際に、米国やフランスをはじめとする各国は、3月18日までには子どもと女性を、政府の用意したチャーター機で国外退避させるなどしている。

また、同時期、日本国内でも、チェルノブイリ子ども基金の創設者でもある広河隆一氏などが声を上げ続け、福島県の各自治体に対して、子どもと妊婦の一時退避を直接、呼びかけ回っていた。

さらに同じ3月、予想される内部被爆の危険を避けるため、グリーンピースなど各国NGOのスタッフなどがやはり現地入りし、食品の安全摂取と検査の必要性を説いて回っていた。

同じくWHOも、福島県内の子どもと妊婦への取り計らいを日本政府に求めていたのも3月のこの時期である。

なにより、こうした有事の場合、子どもと女性を守ることこそが、政府や各自治体の行うべき最優先事項であるのは自明の理だろう。

古今東西、長い人類の歴史の中で、数多くの戦争や天災、大事故などが発生している。

近代以降、有事の際には自国の子どもを守り、女性を救うということが、国家の存亡につながっている最重要事項になっている。

とりわけ、現代においては、社会的弱者である子どもと妊婦は特別に扱われるべきという概念が広がり、世界共通の認識にさえなっている。

だからこそ、私たちはいま、たとえば世界各地で頻発している紛争において、子どもたちが死ねば大きなニュースになり、また地震などの天災発生時には、妊婦などの救出が優先されることに少しの違和感をも持たないのであろう。

だが、そうした時代の中、「子どもと妊婦を守る」という最低限のモラルですら守ろうとしなかった国がある。私たちの国・日本である。日本の社会は本当にその大事なことを忘れてしまったのだろうか。

「被災地支援を続けている私達にも世界各国から暖かな救援物資などの援助が届きました。本当に感謝でいっぱいです。

『液体ミルクを送ったので被災者の皆さんに届けてほしい』2億円分もの液体ミルクがヨーロッパの友人から届きました。

あくまでも寄付は匿名にしてほしいということで名前を明かすことはできませんが、この方は民族浄化から自らの命をかけて第二次世界大戦中に迫害されている人々を救った方の孫にあたる方です」(原口一博オフィシャルブログ)

原口一博衆議院議員は、初期の段階から子どもと女性の避難を呼びかけ続けてきた数少ない民主党幹部のひとりだ。

3月、官邸に乗り込み、菅直人首相(当時)や枝野幸男官房長官(当時)に子どもと女性の優先避難をも直談判している。

だが、政府は、原口氏の提言を無視し続けている。そればかりか、細野豪志原発担当相は、避難解除宣言とともに、子どもと女性までも、例外なく南相馬などの解除域内に戻してしまう始末である。

世界の対応と間逆のことを続けている、これが現在の日本社会の現状なのである。

実際、子どものセシウム摂取を防げれば、後の健康被害も軽減できるという教訓は、チェルノブイリ事故を取材してきた広河隆一氏も繰り返し述べている。

たとえば、当時、ポーランドでは母乳からの粉ミルクに切り替えたため、小児甲状腺癌の発症率が下がったという報告もある。

なにより、放射能国家日本を救うのは、未来の日本人、つまりいまの若者たちだ。とりわけ、その主役になりうるのが現在の乳幼児やこれから生まれてくる赤ちゃんたちだ。

その赤ちゃんの「主食」であるミルクの汚染に関して、当初から多くの人が万全の注意を払うべきだ、といい続けてきたのは当然のことだろう。

だが、日本政府はそれをできなかった。今回の粉ミルクからのセシウム検出は、残念だったという言葉では片付けられない。

にもかかわらず、政府や大手メディアは、次のような報道を続け、相変わらずの「安全デマ」を撒き散らしている。

〈粉ミルクから1キログラム当たり最大で30.8ベクレルの放射性セシウムが検出されたことについて、食品の安全に詳しい国立医薬品食品衛生研究所の松田りえ子食品部長は「今回検出された値は国の暫定基準値を下回っているうえ、粉ミルクは7倍くらいに薄めて飲むので、赤ちゃんの健康への影響を心配する必要はないと思う。ただ、メーカー側が公表したように、大気中の放射性セシウムが入り込んだのだとすると、空気中の微粒子が製造過程で混入したことを意味している。放射性物質については想定外だったとしても、外部から空気を取り入れる吸気口に微粒子の侵入を防ぐ目の細かいフィルターを設置するなど、管理態勢をもう少し厳しくしておくべきだったのではないか」と話しています〉(NHKニュース)

国の暫定基準値は震災以降、ご都合主義で引き上げたものだ。さらに内部被爆による幼児などへの健康被害はわかっていないことが多い。それをなぜ、「心配する必要はない」と言い切るのか。報道の公平性の観点からいえば、危険だという反対意見を述べる専門家も出演させるべきである。

3・11以降、そうした当然のことをしなかったために、日本は世界からの信頼をも失っていったのだ。

〈【北京時事】中国国家品質監督検査検疫総局は7日、日本産の粉ミルクについて、昨年4月に日本で発生した口蹄(こうてい)疫や今年の東京電力福島第1原発事故の影響を受けて導入されている輸入禁止措置を現在も継続していることを改めて明らかにした。

明治の粉ミルク「明治ステップ」の一部から放射性セシウムが検出されたことは、7日付の中国各紙も報道。同総局は、オーストラリアで製造され正規輸入された明治の粉ミルクについては、検疫当局の検査に合格し、「豪州産」と表示しなければならないと指摘。正規販売されている豪州産製品には問題ないとの認識を示した。(2011/12/07-14:41)〉(時事通信)

明治に罪はない。「犯罪者」は、一方的な「安心デマ」を広めて、結果として、日本という国家の信頼までをも貶めてしまった政府やマスメディアの方である。

あの3月、川内博史衆議院議員らが繰り返し訴えていたのは、SPEEDIの公開だった。

仮に、公開によって、放射線の飛散状況などを知ることができていれば、個人も企業も各々が判断を下して各々の対応ができたはずだ。明治であるならば、その数日間だけ操業を停止して、今回の悲劇を回避できたかもしれない。

政府・東電・マスメディアという「原子力帝国」が、そうした情報公開に積極的でなかったのは、国家や国民のことは、自らの利益や立場に比して二の次だと考えているということの証明となろう。

中でも、子どもと女性を守ろうという成熟した民主国家であるならば、誰もが考えうる大前提を忘れてしまっていたのは残念極まりない。

繰り返し言おう。子どもと女性を守れない社会は必ず滅ぶ。日本政府と東電、そしてその「犯罪」に加担した日本のマスメディアはいま、世界から冷たい目で見られている。