ミサイル発射から二週間、映像から見えて来た北朝鮮の謎(辺 真一)
日本のメディアは北朝鮮が「事実上のミサイル」を発射したと報道している。「ミサイル」ならそのものズバリ、「ミサイル」と呼称すればよいのになぜわざわざ「事実上の」との形容詞を付けるのだろうか?「人工衛星を打ち上げたにせよ、本質的にはミサイルと同じ」と認識しているからなのか、それとも政府の発表に従っているかのどちらかであろう。
では、現在、北朝鮮が軌道に打ち上げ、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)も地球を周回していることを認めた物体は、何なのだろうか?
カッコ付きで「衛星」と称するメディアもあれば、「衛星と称する物体」、あるいは「先端部分」と書いているメディアもある。「衛星」であることを確認できなければ、笑い話になるが、「未確認飛行物体」(UFO)ということになるのでは。
北朝鮮が発射したものが長距離弾道ミサイルか、それとも人工衛星かについては、北朝鮮と日米韓など関係国の間では見解が真っ向異なっているが、長距離ミサイルに衛星を搭載し、打ち上げたというのが一番分かりやすいのではないだろうか。即ち、発射推進体のロケット「銀河3号」がミサイルで、その先端部分に直径1m、重量100kgの衛星を搭載し、打ち上げたというのが正解だろう。
その衛星だが、北朝鮮は「金日成将軍の歌」などが衛星から流れていると地上との交信ができていると言い張っているが、北米航空宇宙防衛司令部では「地上からの制御信号が確認できない」としている。制御を失い、ぐるぐると回転しながら周回している状態にあるとのことだ。
交信状況を確認できないとなると、発射の成否は衛星から電送される画像写真が、唯一の判定材料となる。北朝鮮は画像写真の電送には時間がかかるとしているが、いつになったら、写真が届き、公開されるのだろうか。制御を失って、旋回しているならば、画像送信も不可能だろう。
一方、「銀河3号」の残骸を公海上で回収した韓国の国防省は、発射はICBM(長距離ミサイル)の実験だったとして、今回の発射で北朝鮮は小型化された核弾頭の目安とされる重量500~600kgの物体を1万km以上飛ばす能力を持つと推定していた。
不思議なのは、韓国側に残骸を拾われ、分析されれば、その実態が露呈されるのに北朝鮮は韓国側に回収物の返還を求めなかった。回収を事前に想定していたのだろう。もしかすると、北朝鮮からすれば、「我々の力を思い知ったか」と言いたかったのかもしれない。
北朝鮮がICBMを開発していたとしても決して驚きに値しない。3年前にテポドン発射した時、制裁決議を採択した国連安保理に対して北朝鮮外務省は対抗措置として「核実験も大陸間弾道ミサイルの発射実験も行なう」と宣言していたからだ。
それにしても、米国や韓国の諜報・情報機関は北朝鮮の動静、ミサイル開発状況をどこまで正確に把握できていたのだろうか? 北朝鮮が公開した映像を見て、米韓の情報収集能力にますます疑問を抱いた。
先週、北朝鮮が公開した映像をみると、なんと、北朝鮮が発射を正式発表した12月1日よりもはるか10日前に金正恩第一書記は平壌から北西200km離れた発射場を視察していたのだ。専用列車を利用していたようだが、仮に車で現地入りしたとしても、随行員や警護員らが同行しているわけだから、偵察衛星で車列を捉えることができれば発射の動きを事前に察知できたはずだ。
それだけではない。12月6日にも正恩氏は隠密裏に総合管制指揮所を訪れていた。これもキャッチできてなかった。北朝鮮が「10日から22日の間に発射する」と公言した12月1日から発射のXデーが最大の関心事となっていたが、6日に管制指揮所を訪れていたことを把握していたならば、発射日もある程度絞り込めたはずだ。
この他に映像では、発射に関わった科学者、技術者らが金正恩第一書記を敬礼で出迎えているシーンが随所に映っていたが、民間人なら軍隊式敬礼はやらないはずだ。
また、金正日総書記一周忌の式典で金第一書記の隣に立っていた謎の人物も発射場にいたことが確認された。崔春植第二自然科学院委員長で、「第二自然科学院」とは軍需品を開発する研究機関である。
さらに、発射場と完成指揮所への金第一書記の一連の視察に随行した朴道春政治局員は軍需工業担当書記であり、国防委員である。24日の錦濤山太陽宮殿への参拝には軍服を着て現れていた。
そして、もう一つ興味深いのは、21日に開かれた発射の成功を祝う宴会で、核問題で対米交渉を担う姜錫柱政治局員が序列16位にもかかわらず他の政治局員らを押しのけ、金正恩氏のテーブル、それもすぐ傍に座っていたことである。今回の発射を対米交渉に使うことをまるで暗示しているようである。
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