「軍区」が「戦区」に。戦闘準備に入った中国(相馬 勝)
来年は尖閣問題で日中軍事衝突か!?「戦区」を形成する不気味な中国の戦争準備の動き
中国のインターネット上の主要な掲示板や短文投稿サイト「微博」(ウェイボ)への書き込みで、今年最も多かったのは「釣魚島(沖縄県・尖閣諸島の中国名)」と「反日デモ」に関するものだった。これは中国政府系シンクタンク、中国社会科学院が社会情勢を分析した報告書「社会青書」で明らかにした。
また、中国各紙によると、今年の中国の世相を最も反映した単語のベスト1にも「魚釣島」が選ばれた。これは日本政府の尖閣諸島の国有化などで、「中華民族の尊厳に人民が敏感に反応したため」だと理由付けられているという。
共同通信によると、尖閣諸島と反日デモに関する書き込みは1億7742万件。2番目はロンドン五輪関係の7583万件。3番目は6月の「神舟9号」と無人宇宙実験室の中国初のドッキング実験成功と3923万件で、尖閣問題がダントツの1位だった。
中国では国営新華社通信や党機関紙「人民日報」、国営の中国中央テレビなどのメディアが総出で、日本の尖閣国有化について連日、大々的に報道するなど、中国指導部が愛国心を鼓舞し、世論の誘導をねらった節がある。
この結果、国民の尖閣問題への関心が高まったわけだが、いまではそのような反日気運もかなり収まっているようだ。
とはいえ、今年11月に党トップの党総書記と、軍トップの党中央軍事委員会主席に就任した習近平・国家副主席の動きをみると、対日戦争に向けて、着々と準備をしているとの感を拭い切れない。
まず、人民日報は12月14日、楊潔チ外相による習近平指導部の外交方針に関する論文を掲載。「終始変わらず平和発展の道を進む」と題する論文はそのソフトなタイトルとは違って、尖閣問題について「断固として日本と闘争する」と表明している。
評論家の石平氏は産経新聞のコラムで、「日中国交回復40年、中国の外交責任者の口から『日本と闘争する』という激しい言葉が吐かれるのは初めてであろう。一国の外相が外交上最低限の礼儀や配慮も顧みず、『闘争する』という赤裸々な“対敵国用語”を使い始めたことは、習政権が実質上の「対日敵視政策」にかじを切ったことの証拠であろう」と指摘している。
この人民日報の報道の前日である13日には尖閣上空で、中国の国家海洋局所属の航空機1機が日本の領空を侵犯したことが初めて確認されている。これについて、人民日報系の環球時報は14日、社説を掲載して、尖閣に中国軍機を派遣するなど「あらゆる行動をとる権利を保留する」として、〝尖閣奪還〟に向けて軍事的手段を辞さずとの立場を表明した。
人民日報にしろ、環球時報にしろ、中国共産党の管理下にある新聞なので、党最高指導部である習近平政権の意向が反映されているのは間違いない。これによって、尖閣問題をめぐり対日強硬路線が習指導部でも続くことが決定的となったといえよう。
それは党トップ就任後の習氏の言動を見れば明らかだ。
習氏は就任後初の地方視察で広東省を訪問し、中国で初めてできた経済特区である深圳市を視察し、「改革・開放路線は後戻りできない」などと述べて、経済改革を一層推進する意向を示した。
さらに習氏は軍部隊も視察。軍を視察するとき以外にはめったに着用しない黒の中山服姿で固めた習氏は戦艦や戦車に乗り、中国人民解放軍の最高指導者であることを誇示。「軍事闘争の準備を進めよう」と述べるとともに「中華民族復興の夢はすなわち強国の夢であり、すなわち強軍の夢である」と強調した。まさにアナクロ的な軍事至上主義者とも受け取れかねないような檄を飛ばしてみせたのだった。
さらに、注目すべきは、習氏が視察したのは「広州戦区」所属部隊だったことだ。「戦区」という言葉が中国メディアに登場したのは台湾近海にミサイルを撃ち込み、実戦さながらの大規模な軍事演習を実行した1995年の台湾海峡危機以来で、当時は台湾に隣接する軍区である南京軍区の代わりに、「南京戦区」という言葉が使われた。中国の地方の野戦部隊は通常、7つの「軍区」に分けられる。北京軍区や瀋陽軍区で、広東省を統括するのは広州軍区だが、新華社電は初めて「広州戦区」という表現を用いている。
広州戦区の場合は東南アジア諸国と係争中の南沙諸島や西沙諸島などの海域での戦闘を想定しているとみられる。
尖閣諸島の場合、南京軍区の担当で、新華社電が唐突に「南京戦区」という表現を用いた場合、すでに尖閣をにらんで、中国軍が戦闘準備に入っていることを意味する。そのとき、日中間の軍事紛争が現実味を帯びてくるのは間違いない。
読売新聞によれば、「南京戦区」とは95年6月の李登輝台湾総統の訪米以来、「独立」傾向を強める台湾への武力行使を想定し、中国軍が設立したとされる。(同年)11月下旬、中国が福建省南部で実施した陸海空三軍合同による大規模な上陸演習に関して、各メディアがこの呼称を初めて用いた。
呼称が「南京軍区」から「南京戦区」に変わったことにより、台湾では、中国が軍事行動の準備を進め、台湾への軍事的圧力を強める狙いがあったとの見方が強まっている。
中国系香港紙「大公報」によると、「戦区」とは、戦略計画を実現し、その任務を遂行するために線引きされた作戦区域で、戦争を行う区域を総括する場合もあるという。人民解放軍機関紙「解放軍報」は同戦区が軍民一体の補給指揮系統を全軍に先んじて確立したと伝えており、(96年)3月の台湾総統選挙をにらみ、実戦体制が整っていたことを強調している。
つまり、習氏の視察に合わせて「広州戦区」の存在が明らかにされたのは、台湾海峡危機当時と同じく、戦争を行うような有事の危機が現在迫っていることを端的に示している。しかも、習氏は戦艦の司令室で双眼鏡を両手に持って、軍将校らの話に耳を傾けて、じっと前方を凝視している。「この先に、敵がいて、われわれはいつでも反撃できる」というような話を聞いているのだろうかと想像してしまう。また、戦車の狭い車内にも潜り込んで、いまにも砲弾を撃とうというのだろうか。いずれにしても、戦争の危機が迫っていることを彷彿とさせる写真であることは間違いない。
この広東省の周辺で、戦争の予兆を感じさせる現場といえば、東南アジア諸国連合(ASEAN)と係争中の南シナ海海域にある南沙諸島や西沙諸島、中沙諸島などで、米軍の海兵隊が南シナ海の監視の目的で、オーストラリアのダーウィン島に駐留することが決まっていることから、同海域で米軍や他の東南アジア諸国連合軍との戦闘を想定しているのではないか。
尖閣諸島の場合、南京軍区の防衛範囲内なので、新華社電が唐突に「南京戦区」という表現を用いた場合、すでに尖閣をにらんで、中国軍が戦闘準備に入っていることを意味する。ただ、まだ「南京戦区」という言葉は登場していないのだが、それも時間の問題かも知れない。
いずれにせよ、2013年の日中関係は今年同様、尖閣問題を軸に推移し、大荒れに荒れることは間違いないと私は予想する。
【NLオリジナル】