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竹島めぐる日韓チキンレースは「銃撃戦の寸前」だった!(辺 真一)

大方の事前予想に反し、韓国の大統領選挙は、与党・セヌリ党の朴槿恵候補に軍配が上がった。投票率が上がり、盧武鉉大統領が逆転勝利した2002年の大統領選当時の70%台を超せば、野党の文在寅候補が断然有利とみられていただけに意外な結果に終わった。

朴候補の勝因を分析してみると、「準備された大統領」としての政治手腕への国民の期待が大きかったこともあるが、①終盤に文候補に追い上げられたことで危機感を抱いた与党保守が結束した、②過去2回の大統領選挙で数パーセントしか票が取れなかった「敵地」である全羅道でも善戦した、③文候補に流れるとみられていた若者などの無党派の浮動票も取り付けることに成功したなどの要因がある。

しかし、最大の勝因は、なんといっても野党統一候補がカリスマのない地味な文在寅候補で決まり、無党派に圧倒的に人気のあった安哲秀氏で一本化されなかったことに尽きる。仮に安氏が相手ならば、また違った結果となっただろう。

一連の選挙の結果、日韓の次のリーダーは安部晋三、朴槿恵両氏の組み合わせとなった。日本国内では朴槿恵候補の父親が日韓国交を手掛けた親日派の朴正煕元大統領であることから李明博大統領の竹島上陸で悪化した日韓関係の修復、改善への期待が高まっている。

朴次期大統領は選挙期間中、日韓関係については多くを語らなかったが、未来志向の日韓関係を目指していることは言うまでもない。今回の選挙公約の中でも「日本や中国と協力の未来に向けて共に協議する」ことを謳い、将来のビジョンとして北東アジアの平和と発展のための「東北アジア平和・協力構想」を推進することも誓っている。この構想を実現するには日本との関係強化なくしては不可能であることを誰よりも承知している筈である。

また、日本との経済協力の面では中国を含めたFTA構想の実現を目指しているばかりか、「北東アジア列車フェリー構想」(東京で貨物や旅客を載せた列車を博多まで移動させ、博多湾から列車を船に載せて釜山に輸送する。釜山から鉄道を経由し仁川や平沢に移動し、中国へ向かう船に列車を載せ、煙台・大連へと物資や人を輸送する構想)まで夢見ている。

また、経済面だけでなく、北朝鮮に対抗する安全保障上の観点からも日本との絆を維持する必要性があることから朴次期大統領は日本との関係修復を急ぎたいところだが、それもこれも安部次期総理の対応次第である。

貿易面では800億ドル前後、人的往来は500万人を突破した日韓関係は一言で言えば、切っても切れない関係にある。唯一の不安材料、火種は領土問題と、従軍慰安婦問題、そして教科書問題に絡む歴史認識をめぐる対立である。

仮に安部次期総理が、総選挙で公約した2月22日の「竹島の日」を記念して行われている県の行事を政府行事へ格上げし、さらには野田政権が宣言した領土問題の国際司法裁判所への提訴に踏み込めば、日韓関係の早期改善は困難だろう。「親日」というマイナスイメージの脱皮を図りたい朴次期大統領としては必然的に強気に出ざるを得なくなる。また女性であるがゆえに従軍慰安婦の問題も放置するわけにはいかず、仮に安部次期政権が一部公権力の介入を認めた「河野談話」を見直すようなことになれば、李明博政権以上に関係は悪化することになるだろう。

李明博政権下では幸いにも現実化しなかったが、朴次期大統領が最も恐れているのは、安部次期政権が韓国との間に領土問題が存在することを国際社会に訴えるため、また韓国のこれ以上の実効支配を阻止するため竹島海域周辺で「実力行使」に出ることである。

一般的に知られてないが、小泉政権下の2006年に韓国海洋研究院所属の海洋調査船が日本の抗議を押し切って竹島周辺海域を含む日本海の海底地形の韓国名を新たに登録しようと独島周辺海域で調査を実施した際、日本は海上保安庁の巡視船を派遣し、調査中止を要求したことがあった。

日本政府は当時、韓国が中止しないため日本政府も対抗上、最新のデータに基づく海図を作成する準備を進め、同年4月に「6月30日まで竹島周辺海域で調査を実施する」との「水路通報」を公表した。

この日本の動きに対して今度は韓国海洋警察庁が周辺海域に非常警戒令を発令し、警備艇約20隻を集中配備し、「日本の調査船が韓国の主張するEEZに進入すれば、実力行使も辞さない」との構えに出た。

竹島周辺での日本の海洋調査計画を巡るこの対立は、4月22日の外務次官協議によって①日本政府は海洋調査を中止する②韓国政府は6月の国際会議で海底地形の韓国名表記を提案しないことで合意文が交わされ、海上での衝突という最悪の事態は避けられたが、当時の官房長官が安部晋三氏であった。安部氏はその後、当時の状況について「銃撃戦が起きる寸前だった」と語っていた。

この「日韓のチキンレース」は、中国のメディアが「日本に有利に終わった」と報じたように日本の勝利に終わった。「拿捕など実力行使も辞さない」と強気一辺倒だった韓国政府は「6月の国際会議に韓国が海底地形の韓国名称申請を断念しなければ我々としても海洋調査を実施せざるを得ない」との日本の「毅然たる外交」の前にあっさりと「降伏」(ノ・フェチャン韓国民主労働党議員)した。当時韓国の野党(今の与党)はこぞって、日韓の妥協を「韓国の完敗」と称し、また日韓合意文については「韓国の実質的降伏宣言に等しい」と盧武鉉政権の対応を激しく批判していた。

また、日本の海洋調査を中止させたことで「韓国が勝利した」と伝える韓国外交通商部のホームページには国民から非難のメールが殺到し、一様に「屈辱外交」「弱腰外交」「売国外国」と罵倒していた。

韓国の一部には竹島をめぐる対立で「外交勝利」という味を占めたことのある安部次期総理が国際司法裁判所への日本の提訴の正当性をアピールするための手段として同じ手を使うのではと危惧する向きもある。

長期(5年)任期の朴次期大統領と違い、安部次期総理は来年夏の参議院選挙で勝利するためにも選挙公約を直ぐに実行し、結果を出さなければならない。

韓国側からすると、日韓関係が好転するか、暗転するかは、安部次期総理にかかっていると言えよう。

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