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安倍新政権の課題はほとんどが自民党の負の遺産だ(大貫 康雄)

安部次期(原稿を書いている時点で)政権は、総選挙で圧勝した自民と公明の連立で衆議院に安定過半数を得て稼働する。

一見万能の態勢で、安倍次期総理が主張通り動けるように見える。しかしこの安倍政権、有権者の積極的支持を得て生まれた政権ではなく、あくまでも管・野田総理以来変質した民主党政権への有権者の不信感の裏返しでの政権でしかない。

自民党の絶対得票数は2005年の時の敗戦の時より減少、得票率も殆ど変っていないのを見てもそれが判る。

何よりも投票率が戦後最低の59.3%でしかなかったことは、有権者が誰を、どの党を選んでよいのか充分に考える時間が無かったことの反映と見られる。ことあれば今の支持率さえ吹っ飛ぶのだ。

直近の課題である東京電力福島第一原発の事故は収束せず、被害者の救援も進んでいない。安倍次期政権が取り組むべき課題は、原発問題から貧困問題まで、ほとんどが自民党長期政権の負の遺産であることを自覚すべきである。

ヨーロッパのメディアは「脱原発」が選挙に影響を及ぼさなかったことに意外だという反応を示している。その理由の検証と分析は別に、国内で有権者が要求するのは、まず生活水準の引き上げである。

拡大した貧富の差の解消、就職難の解消、給与引き上げ、年金・生活保護、最低賃金、失業手当の引き上げ、子育て支援、教育の充実……。要するに国民生活に余裕を取り戻すことを国民は喫緊の課題として求めている。

残念ながら原発問題は二の次にされた感がある。それだけ多くの国民が窮乏化に瀕している現実がある。

もし安倍次期総理が、こうした国民の願いを他所に従軍慰安婦に対する「強制の要素なし」であれ「尖閣列島に公務員常駐」の対中国強硬姿勢などを主張して行けば、今や世界一の貿易相手国となった中国との経済関係がまず影響を受ける。

それだけではない。彼がもし主張通り強行姿勢を貫けば韓国、中国だけではない。保守派が同盟国だといって頼りにするアメリカの基本姿勢と矛盾し、アメリカ自体から反発を受ける可能性が十分あるからだ。安部次期総理には軽挙妄動を慎む、充分なうえにも充分な慎重さが求められる。

イギリスBBCは、安倍次期総理は来年1月にもワシントンにオバマ大統領を訪問する予定ということだが(対中、対韓などでオバマ政権に)頭を冷やされるだろう、と報じている。

従軍慰安婦は欧米のメディアはcomfort women などという曖昧な表現ではなくsex slaveという強い表現を用いて日本政府の姿勢を厳しい目で見ている。2006年から2007年にかけて、当時の安倍総理が従軍慰安婦問題で二転三転を繰り返した際、韓国、中国のみならず、欧米アジア各国で反発が起きた。

アメリカ下院で慰安婦問題に対する安倍政権の姿勢を批判する超党派の議決が可決されたのを始め、各国議会が日本政府に謝罪を求める議決をしたのを忘れてはならない。

国際社会では今、従軍慰安婦の問題は第二次大戦中の最も酷い人権侵害の一つと認識されている。この問題で今年秋の国連人権理事会は基本的解決を求める勧告を採択し、日本政府に対し来年3月までに回答を求めている。安倍次期政権は真摯に応える必要がある。

人類に普遍的な理念である「人権」に配慮した政策を実践することで国際社会の信頼を得、国際社会での地位が高まることを理解するべきである。

選挙後の記者会見で安倍次期総理は靖国参拝については明言しなかったが、靖国神社が各国でどう思われているか、我々は自覚しておく必要がある。

小泉政権時代、シーファー駐日米大使は靖国神社を訪れ遊周館を見て驚いた。ここはまるで戦争賛美の博物館だ! と。安倍次期総理は第二次大戦についてアジア諸民族を解放する意義があったようなことを言っているが、日本の侵略戦争、というのがアメリカ議会の超党派の見解であることを銘記すべきである。国際社会の一致した見方でもある。

自衛隊を国防軍にするとか、憲法を変えて戦える軍隊にするとか言っているが、第二次大戦の反省も充分でない政権が軽率に動いても国際社会の不信を招くだけであることをわきまえる必要がある。

安倍次期政権はあらゆる方向から国民生活の水準を向上させ日本社会の再活性化に腰を落ち着けて取り組むべきである。それが安倍次期総理が言う国力の強化にも繋がる。

【NLオリジナル】