自民圧勝を導いた投票直前の重大ニュース(藤本順一)
衆院選終盤、各党の舌戦は激しさを増すばかりだが、このところの相次ぐ重大ニュースが有権者の投票行動に与える影響が気になるところだ。
例えば、今月2日に山梨県で起きた中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故はどうか。
「耐用年数を超えるものは直ちに改修する必要がある。無駄遣いではない」
自民党の安倍晋三総裁はしたり顔でこう語っている。
周知のとおり、自民党が政権公約に掲げる「国土強靱化策」の総額200兆円に上る公共事業は防災対策を前面に打ち出している。同様、公明党の「防災・減災ニューディール策」も公共事業に総額100兆円をブチ込む景気対策だ。
これを民主党は「命を惜しむ投資は惜しまないが、無駄な大盤振る舞いはしない」(野田佳彦首相)と批判する。また、建設国債の日銀買い取り策がセットになった公共事業には懸念もある。
だが、民主党政権が「コンクリートから人へ」の耳障り良い言葉でバラまいた子育て支援や農家の戸別補償も財源は事実上、国債の発行で賄われている。
毎日新聞の直近の世論調査によれば、有権者が今回の衆院選で最も重視するのは景気対策で32%だった。そうであれば、公共事業のバラまきに有権者が心 動かされる気持ちも理解できる。自民党の圧勝が伝えられるわけだ。きっと崩落事故の不幸はこれを後押ししたことだろう。
北朝鮮のミサイル発射も自民党には追い風だ。さっそく安倍氏は先に藤村修官房長官が「(ミサイルを)さっさと上げてくれればいい」と記者会見で発言したことを取り上げ、野田政権の危機管理能力に批判の矛先を向けている。
では、敦賀原発の原子炉建屋直下の活断層を認めた10日の原子力委員会の判断は有権者の投票行動にどう影響するのだろうか。
野田佳彦首相は「そもそも断層の話は1970年代から指摘されていたのに、設置を許可したのはどの政権だったか」と当時の自民党政権の責任を強調している。だが、これも野田首相自身が原発再稼働に前向きな姿勢を見せているようでは有権者の心には響くまい。
それに意外だったのは同じ毎日新聞の世論調査で原発やエネルギー政策を重視するのはわずか7%に止まっていることだ。有権者からすれば原発は嫌だが、かといって電気料金の値上げも困るといったところか。「卒原発」を掲げる「日本未来の党」の苦戦を物語る結果である。
投票日は16日。劣勢が伝えられる政党には有権者の心に響く「最後のお願い」を期待したい。
【東京スポーツ「永田町ワイドショー」12月12日入稿原稿)より】